episode02:僕たちの仲直りの仕方
「楓くんってば、ひどいです。寝坊するなんて」
「ごめん」
彼女と遊園地へ行くと約束していた日。
僕は盛大に寝坊をし、大遅刻をした。
「……緊張して眠れなかったとかですか?」
「いや、……普通に寝坊」
昨日は二十四時前に就寝をして、睡眠は十分に取れている方だと思っている。強いて問題を挙げるとすれば目覚ましをかけ忘れるという初歩的なミスだろう。
さすがにこの不注意を言い訳にするのは、今日を楽しみにしていた彼女に悪い。だから口には出さず胸の奥へとしまっておくことにした。
「じとー」
そんな事情を知らない彼女は文句がありげな目をして僕のことを見つめていた。
「だからごめんって」
こういう時に謝罪以外、何を伝えれば良いか分からず、同じ言葉を繰り返す。きちんと悪いとは思っている。だから言い訳せずに謝っているんだ。
「じゃあ、お詫びの気持ちを示してほしいです」
そう言い彼女は訴えかける目を瞑って、人差し指で頬をポンポンとする。
「……人、すごいけど」
「それが何か?」
彼女の心臓の強さに度肝を抜かれる。
僕たち二人の間では喧嘩をしたときの仲直り方法がある。それは僕が彼女の頬にキスをするということ。
これはお互いに沸点の低く大きな喧嘩へと発展することのない僕たちだからこそ成り立っている手法だ。
しかし今、ここで彼女への接触を……。
日曜日の遊園地はカップルだけではなく、小さい子供を連れた家族が何組もいる。意識しなくても視界に入ってしまう何百人もの視線を気にしないなんて僕には難しすぎる。
「私は楓くんしか見えませんけど」
一方、彼女は正反対の発言をする。私だけを見れば大丈夫、だから周りの目を気にするな、という強気な主張が見え隠れしている。
「…………」
これはお互いに納得して決めた仲直りの形だ。そもそも僕が遅刻をしたのが悪い。仲直りさえすれば、この後に引きずらず過ごしてくれるというのだから、彼女の寛大さには感謝しないといけない、というのは分かっている。
意を決して一歩、彼女へと歩みを進める。顔を近づけ、ふわりと彼女の頬に唇を当てた。
どこからどう見ても頬へのキスであるが、それを認めると恥ずかしくてこの後の遊園地を楽しむ余裕がなくなってしまう。
だから、たまたまぶつかってしまったかのように一瞬の行為で済ませた。
「むーーっ」
これはだめだ!
納得いかなかったようで、彼女は頬を膨らまして怒る。
「もう一回……?」
恐る恐る聞くと「してくれるんですか?」と挑発的に聞かれる。
できることならしたくない。そう思い、黙り込むと
「まぁ、恥ずかしがり屋な楓くんにしては頑張った方と認めてあげましょう」
と彼女の方から折れてくれた。そして「ただし」と言葉を続ける。
「三枚」
「?」
「三枚は私と一緒に写真を撮ってください。……今日はそれで許してあげる」
「…………いいよ」
普段は一緒に写真を撮らないことを気にしていたのだろうか。
僕が了承すると彼女はすぐに通行人へ写真のお願いをしに行った。OKを貰ったのか彼女は一礼をしてスマホを差し出す。
撮影の交渉が終わり、僕の元へ戻ってくると指を絡ませるように手を繋く。
まずは一枚写真を撮った。
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