終戦十日前の僕と彼女

灰湯

終戦まで残り10日

 戦場に黒い羽が落ちていた。烏の羽だ。

 僕はそれを拾って、何となく嫌な感じがしてすぐに捨てた。烏は不吉の前兆と言われている。これから良くないことが起こるのだろうか。

 いや、そんな心配は要らないだろう。僕たちの国はとても優勢なのだから。


 太陽の国は今、文明の国と戦争をしている。

 開戦は四年前。太陽神を信仰する僕たちの国と、文明神を信仰する国が、互いに神からの啓示を受けて戦争を始めた。

 神が戦えと仰っしゃれば、たとえ友好関係を築いていた国であろうとも、容赦なく攻撃する。それがこの世界での当たり前だ。

 神が全てを決める。そう出来ている。


 僕はそれが気に入らない。人間のことは人間が決めればいいだろうに。神の言葉なんて鵜呑みにしなければいいのに。戦争なんて、しなければいいのに。

 でも、そんなこと言えるわけがない。本当に神の啓示を真に受けて戦おうとしている人々に殺されてしまう。僕は太陽の国の国民である以上、神の意志に従わなければならない。


 だから、僕は徴兵され戦場にいる。仕方がなかった。逃げようがなかった。四年間、良く生き残れたものだと自分でも思っている。そして正直驚いてもいる。これから死んでしまわないかと不安でもある。占領地での戦いだから、拓けたところではないし、街中だが建物はいつ崩れるかわからないので入れない。よって野営になるから、更に気が抜けない。

 僕が生き残れた一つの要因として、彼女が上げられるだろう。僕の上官、吉岡 永生よしおか とき大尉だ。

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