子どもらの持つ羽〜中央島の女神〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

子どもらの持つ羽


 わたしから見れば、その子らは生命いのちに溢れた産まれたての嬰児みどりごのように輝いていた。


 短き命とはこんなにも燦々と光を放つものなのか。


 わたしと違い彼らは生きとし生けるものの命を糧とする。妾が口に出来ない物を糧とするゆえに妾にはないあの生命の煌めきを惜しみなく外へ外へと放射するのか。


 ならば彼らは太陽である。


 わたしの永き営みの中で輝く太陽なのだ。


 暖かく妾を照らす優しき小さな太陽。


 そして彼らは力の限り走り続ける。


 その先が見えていなくても、手を取り合って時の中を駆けていく。足取りも軽やかに、まるでその背に羽が生えているかのように駆けていく。


 妾はその眩しさと軽やかさに驚き羨ましく思うのだ。


 我が身とはなんと異なる美しさか——。




「どうしたのカガリ?」


 不意に上からシキに顔を覗き込まれて、カガリは少し驚いた。


 どうやら思ったよりも思考の淵に深く沈み込んでいたらしい。


 身体を起こしながら、カガリはまるで寝起きのように「うん……」とぼんやり答えた。


「寝てたの? 珍しいわね、樹の上じゃなくて原っぱで寝るなんて」


「寝ていたわけではないぞ。其方そなたらを眺めていた」


 少し離れたところでカミタカとユーリが木の枝で木の実を打ち上げて遊んでいる。


「やだぁ、なんで?」


 笑いながらシキが尋ねると、カガリは至極真面目な顔で答えた。


「其方らはわたしにとって——宝物であるな、と考えていた」


「……そうね、私にとっても、みんなは宝物だわ」


「そうか。皆がお互いそう思うならそれは良いことだな」


「そうよ。さ、カガリも行きましょ」


 シキはカガリの手を引いて彼女を立たせた。


 そのままカミタカとユーリの所へ向かって走り出す。


 ——ああ、なんて軽い足どりなのだろう。


 その生命の軽やかさに似せて駆け出しながら、カガリは幸せそうに笑った。




 水晶の欠片。


 緑色のどんぐり。


 色褪せた押し花。


 壊れた時計。


 妖精の翅。


 それから——白珠しらたまを持たぬ女神には子どもらを。





 子どもらの持つ羽〜中央島の女神〜了

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