第6話衣装うは誰が為か




そろそろ卒業かーと箒に顎をつける真琴は、にやにやと先のデートの妄想でいっぱいらしい。


二歳年上の先輩と付き合うために、ひと足先に推薦枠で入学を手に入れたからこそ、先のご褒美デート。


全然氣持ちのない、卒業かーだ。

話、聴いてって言って今だけれど。

こりゃ何にも耳に入らないなって分かる。



私には卒業の方が大問題。

一般入試の私は、まだ、進学先も決まってない。

だが、だから嬉しい。


まだ、会える。

まだ、今はもうちょっと。






早咲き桜の蕾がいくつか咲いた頃。

合格通知が来て、報告。

後は、卒業式まで自由。


報告わざわざ出向いたのに。

おめでとうの一言かと顔に出たからか。


先生がガムをくれた。

内緒な。と。



ああ。その顔が好きです。

茶目っ気が。

突き放せない優しさが。




あっという間に卒業式。



いつものリボンをいつも以上に丁寧に。

この日のために、プリーツスカート、ワイシャツにアイロンを。


香りも。


ホコリシワなく大丈夫?後ろ姿も、ゴミとかついてないかな。





卒業式。

改まったスーツ姿の先生方。

卒業証書を貰い、歌い、閉幕、そこからが勝負。



『先生?ボタン下さい。』



学校見学に来た中学生の時。

あれから3年と少し。


ずっと、今も、好き。

分かっている。



その手の薬指に氣付いている。

ただ。

生徒の特権でごねてみる。


誰か好きなやつからもらえよと言う先生に、痛い顔を見せないように一息吸い直して。


『私そのボタンおしゃれで好きなんです。

中学生向け説明会でも、先生着ていましたよね、それ。』


『よく覚えてんなあ。なら、そうだなあ、野元にやるわ』


ハサミであっさり糸を切り、手渡されたボタンを握り、離れる。

先生には次々人が来る。






さよなら制服。

着崩さない私をほめてくれた、この服は実は毎日、貴方の目に綺麗な姿で留まりたくて。


毎日毎日手にアイロン持ちして。

だけど。

さよなら。



愛は燻りが冷めるまで待つしかないが。

服は幸い、簡単に捨てられる。

さよなら。



まさか。

告白すらできない人に、実らぬ恋に身を焦がすとは、辛い。辛いけど好き。

だから受け取れないことは、言わず秘めて、次はこの地元には、なかなか帰れない、遠くの大学へ。



ああ、生きている氣がひしひしする。

痛む心が。

振り返り、先生を見たくなる、だけれど。


見ないともう決めて歩く。



次はもっと簡単な恋にしてよ神様。

聴こえてますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る