PARADO✖︎
優華 / yusaku
犯行声明
僕は神じゃありません。だから僕は誰に対しても親切にしないし、ボランティア精神なんて全く持ってないです。寝る時間はバラバラで歯も毎食後必ずは磨かないし、仮病だって使ってやりますよ。自分第一ですからね、それゆえに僕は人間なんです。怠惰で愚かで欲まみれの存在こそ、人間なんです。
だがしかし、周りの人たちはどうやら認識が違う。ゲームしてお菓子食べて寝て一日を全うするんじゃないんです。彼らは毎日学校に通って、無断欠勤せず出勤して、寝る間も惜しんで勉強して働いて、なんとまあ酷く真面目じゃないですか。堕落した生活に執着する、それこそ人間味があるんですよ。そこから這いあがろうとするなんておこがましい。そんな偉い子ぶった薄汚くて本性の霞んだ上っ面の社会では、僕の欲に真っ直ぐな考えがまかり通らない。だから僕は、人間は怠惰で愚かな存在であることを証明したく、あるものを作りたかった。頭に直接情報を流し込む、通称: Brainjecterです。以降はB-jecterとでも言いましょうか。年齢問わず、これさえあれば英単語や公式、プレゼン内容だって努力せずとも一瞬で覚えられます。悪く言えば正直者が馬鹿を見る世界、良く言えば怠け者と真面目な人に差が生まれなくなる平等な世界。僕からすればまさに夢のような発明です。周りから勤勉な学生や社会人を排除したかった僕は、この発明のために寝る間も惜しんで励みました。
、、、ん?寝る間も惜しんで?怠惰な僕が?
さあここでお気づきですね。人間は怠惰であることを証明したいがために真面目に研究なんかしちゃってる矛盾した自分を見て、私の研究施設をPARADO✖️と名付けました。なんで最後のXが強調されているか?しょうがないから説明しますと、パラドゥはスペイン語で怠惰な〜という意味でして、最後のXは不特定多数の人間と仮定、つまりは僕を含んだ怠惰な人間全ての意味を込めました。上手いでしょう?
さあ自分語りはこれまでにしておいて、続きです。B-jecterは瞬く間にヒット、世界中の子どもたちがサンタさんにこの商品をお願いしました。タイパ重視で知識欲のある働き盛りの世代にも当然刺さりましたよ。とは言え、もちろん反対派も存在します。しかし彼らが抱えるのはなんとなく安全性に不安があるということだけで、世間に不安を煽ろうとしても具体的に何が安全でないのか説明できませんでした。そのような芯のないふにゃふにゃな堤防では欲に狂った荒波を抑えることは到底不可能です。結果としては、貪欲な人間本性が勝利したと言えましょう。取り繕った社会というものは、欲を曝け出す本来の人間の社会を取り戻したのです。従って私は、人間の欲深さを世界に証明できたのです。
ええ。証明してしまったのです、人間の欲深さを。よかったじゃないかって?まあ、一瞬はそりゃあよかったですよ?でもすぐさまこの技術は軍事転用の餌食となります。当初、各国は自国の将来を担う若者に優先的にB-jecterを使用していました。ですが次第に各国は自国寄りの偏った思想のみを埋め込み、洗脳じみた使い方を始めたんですね。メディアにデマ情報を拡散させて大衆に'伝染'させるよりも手っ取り早いですから。独裁国家じゃあ幼少期の時点でみんな同じ答えしか導くことができないくらい脳内が国に侵食されて、外見は違えど中身はみな同じ。さらに武器の使い方や戦闘術などを埋め込めば、あらびっくり。即席麺ならぬ即席兵が誕生して即戦場へと送り込まれます。ただB-jecterで筋力はどうにもなりませんから、ガタイの小さい人は実に雑な使われ方です。「手榴弾が飛んできたらすかさず抱き抱える」「地雷を見つけたらすかさず踏む」だの、訳の分からない嘘の情報を叩き込まれていたのですね。また、AI化が進んだ今、司令塔から人がゲーム機で戦地のメカを操作する国も現れました。戦地に人を送り込まない戦争と、B-jecterによって人を送り出す戦争というのはよく比較されたものです。前者を人道的戦争とか言った馬鹿どもは置いといて、コスト面で言うとやはりB-jecterが選択されるケースが多かった。B-jecterによって、戦争というものが変化したんです。
言い訳でしかないですよ?でも、僕はそんな方向の使われ方は全く想定してませんでした。これが爆弾を発明した人の気持ちでしょうか。殺害予告なんて日常茶飯事、世界は全ての責任はB-jecterにあると決めつけました。皮肉でしょうか。私の研究をボロクソに言われた結果、私自身が望んでいた社会を作ったことの証明になっている。人間の愚かさ、欲の奥深さを身に染みて体感しました。
こんな社会を作ってしまったんです。こんな僕でもどう落とし前をつけるか葛藤しました。まあ僕は愚かな人間ですから?そんなことも考えず逃げることだってできるだろうとお考えの人もいるかもしれない。でも、僕にとっての愚かとは、好きなことしてぐーたらするくらいのレベルだったんですよ。前代未聞の殺戮マシーンを爆誕させて人殺しの世界を作るのは、僕の認識の範疇を超えています。
そりゃあもうあの人みたいに初めは財団設立とか、もちろん自害も頭に入れましたよ。でも僕が死んだところで、今後もB-jecterによる悪用は後を絶たないはずです。財団を設立していくら平和を願っても、結局悪用するやつは消えません。故に思いついた。
「現状のB-jecterの使われ方を完全に無力化できる発明をして、B-jecterをなきものとする」
できましたよ。
これを研究室同様、PARADO✖️と名付けます。
まあ研究室の名前使ってタイトル回収してますから、僕の最高傑作を意味します。人間が擬似的に神になれる武器です。このPARADO✖️の性能を最大限活用するために何個か発明したのですが、、あーいや、それはまた実践で話しましょう。
僕みたいな人間が不自由なくぐーたら生きていくことができたのは、まともな人間がいたからです。社会が自己中だらけになったらこうなるんです。自己中の社会を作ろうとして結局元の社会を作ろうとするのだから、やっぱり僕は矛盾している。人殺しの社会をなくすために今から僕は本当にたくさんの人を殺すことになるんですから。
長々とすみません。手土産と言ってはなんですが、今から5分後より、僕のB-jecterを悪用した国の軍事基地にミサイルの雨が降ります。少々大粒となっておりますが、戦地で流れた血と家族の涙に比べれば、霞んで見えないほどの小雨となっております。小雨でさえ凌げない、自然に抗えない人間の無力さを体感して頂けると幸いです。
愚か者に'神の鉄槌'を。
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