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 だれもが平和を望んだだけだった。

 愛する人との暮らしを、大切にしたいだけだった。

 それが誰かの幸せと引きかえだということを、知りもしないだけだった。


「オレを──殺して……」

 まんきようの花畑も、ぱちぱちはじけるりんごパイも、すべてが遠くかき消されてしまった。

 げんそうは終わり、物語は幕を閉じたのだ。

 あいけんをすらりとき、彼の胸に当てる。

 エメラルドのひとみがうっとりとかがやいた。き物の落ちたような、あんしたやわらかいみ。これまでで一番幸せそうで、満ち足りた笑顔だった。

 それを見ながら剣を後ろへ動かし、やいばを思いっきりした──


 なみだがあふれてたまらない。

 どうしてこうなってしまったのだろう。誰が彼をこうしたのだろう。

 世界がこれを望んだのだとしたら、なんとなことだろう。

 かたこわ身体からだを、ぎゅっと強くきしめた。

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