片想い10年の刑

くにすらのに

片想い10年の刑

 風邪を引いて学校を休むと平日の昼間に放送しているドラマの再放送をなんとなく見てしまう。裁判官という存在がすごくかっこよくて、体調が回復するなり俺たちはごっこ遊びに興じることにした。


「被告人、桜庭幸太郎を片想い10年の刑に処す!」


「そんなぁ~」


 なぜか俺は犯人扱いだった。隣の家に住むさや姉にじゃんけんで負けてしまったからだ。言い渡された判決は10年間ずっとさや姉に片想いし続けるというもの。口では悔しがったもののこのまま好きでいれば良いだけだからすごく優しい罰だと当時は思っていたんだ。


 さや姉に対する好きが恋愛感情だと気付くまでは……。


「なぁ、片想い10年の刑って情状酌量の余地はねーの?」


「ありません。あと1年、こうちゃんが無事に大学生になれる頃には刑期満了よ」


「この罰のせいで彼女ナシの高校生活だったんだけど」


「他の子と付き合えば良かったじゃない。別に脱走しても構わないし……というか、裁判ごっこのお遊びの判決を真に受けなくても」


「だって、さや姉はそういうの厳しいし」


「自分で下した判決を覆すわけにはいかないもの」


「ほら! ごっこ遊びを真剣に考えてるのはさや姉の方じゃん。さっさと片想い10年の刑をなかったことにしてくれたらお互いにもっと華やかな青春を送れたと思うんだよね」


「べ、別に恋人がいなくたって充実してたわよ。今だって楽しい大学生活を満喫してるし?」


「そっかそっか。でもさ、刑を終えたらさや姉への片想いも終わりにしていいってことだよね?」


「え? えぇ、そうね。終わらせ方にもいろいろあるとは思うけれど」


「例えばどんな? 俺が他の子を好きになる以外に何かある?」


 思わず口角が上がってしまうのは必至に堪えて返答を待つ。答えは自分でもわかっているけどさや姉に言わせるのが大事なんだ。恋人の関係になれないだけで俺がさや姉を好きなことに変わりはない。


 10年の刑期が終わった瞬間にさや姉から好き好きアピールをしてくるのか、それとも俺からの愛の言葉を待っているのか、10年間ずっと何の刑も約束もないのに恋人を作らなかったさや姉の気持ちを知りたかった。


「片想いをする刑が終わるんだから、両想いになるのも良いんじゃないかしら。選択肢のひとつとしては当然よね?」


「なるほどなるほど。10年の刑期が終えたらそんな未来も待ってるのか~」


「そうよ。お互い18歳になって高校を卒業したら結婚だってできるんだから」


「け、けっこん!?」


「片想いが終わるんだから結婚しても良いじゃない。罪をちゃんと償ったんだから」


「罪って……そもそもなんで俺は片想い10年の刑なんて処されたんだっけ?」


「……それは知る権利を逸脱しているわ」


「なんでだよ! そういうのって裁判の時に言われるやつじゃん。忘れてる俺が悪いんだけどさ。7歳の頭じゃ理解できなくても今ならってこともあるじゃん」


「それを自分で考えるのも罪を償うことになるの。とにかく、今は勉強勉強。もしどの大学にも落ちたら刑期を伸ばすから」


「ええ!! 鬼だ! 非人道的な行いだ! 訴えてやる!」


「訴えるのは構わないけど、判決を下すのはこのわたしよ?」


「…………勉強します」


「よろしい」


 もし片想い10年の刑がなかったら真面目なさや姉とこの年になるまで付き合いはなかったろうな。子供の頃に教育されてしまったというか、尻に敷かれる未来しか見えないけど……刑期を終えて大学生になる日を想像するとなんでも頑張れる。

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