身売り露店
花沫雪月🌸❄🌒
御守り
御守りというのは文字通りに我が身を守ってくれるアイテムだ。
様々な効果を秘めた御守りは死と隣り合わせの冒険には優秀な武具や防具に並んで欠かせない一品と言えるだろう。
欲望渦巻くダンジョンの街モドラでも、やれどこぞの高名な魔道具師が丹精込めて作っただとか、さる徳の高い聖職者が祝福しただとか、ダンジョンの宝箱の産出品だとか、そのような触れ込みで様々な護符やらタリスマンやらアミュレットが商人達に寄って売りさばかれていた。
言うまでもないことだがそういった御守りの類いは武具や防具よりさらに目利きが難しい。
玉石混淆、贋品不良品は当たり前。
下手をすれば呪いの品でした、御愁傷様でしたなんてこともあるのがこの界隈だ。
もっともそれは武具や防具にもいえることだがそれらにおいて呪いの品は大抵極端に禍々しいか逆に目を奪う程に美しいと相場が決まっている。
しかし御守り、とくにダンジョン産の品は首飾りや指輪の形状をとっていることが多々あり判別が難しかった。
それが分かっている優秀な、もしくは慎重な者にとっては信用のある伝を頼るか作り手に直接頼むのが当然であり、ダンジョン街の露店などで買うのは目利きに余程の自信がある者と……頭の悪い間抜けなカモ。
御守りには様々な効果がある。
身につけた者の能力を上昇させる、ダメージを肩代わりする、まぁとかく上げていけばキリがない。
しかし余程の名品でもなければ効果は体感できるかわからない僅かなモノだ。
とはいえその僅かが命運を左右することもまた事実であり、少しでも良い品を手に入れる努力をするに越したことはない。
そんな御守りには未だに人の手では作り出せない唯一無二の効果を持つ、ある“伝説の品”があった。
それはおとぎ話の中で度々語られ子供から老人まで皆が知っているし、どんな物かもきっと説明できるはずだ。しかしその誰もが実物は見たことがない、あるいはそもそも実在するかも怪しい。
そんな“御守り”がまさに今、怪しい露店の店先に目玉商品として並んでいた。
▽
「やあやあ! どうもそこ行く美人な冒険者さん! え、お呼びでない? こいつは失敬! あ、そこのがたいのいいお兄さん! ちょっと見ていってくださいな!」
客引きの掛け声すら胡散臭さが充満した男だった。頭には薄紅の蛇柄のターバン……というより真実ピンクの蛇皮を巻いた小太りに豊かな口ひげはくるりと巻いている。店主らしきその男は、引いてきて停めればそのまま店になるよう改造した幌馬車の店から上半身と出張った腹を覗かせ露店街を行く人に声をかけて回っていた。
風体に似合わないやけに甲高い耳につく声音に呼び止められ一応はチラと店構えに目を向けた者もすぐにプイッと進行方向に向き直り立ち去っていく。
それもそのはず、店先のにはデカデカとした達筆でこう宣伝文句が書き付けてあった。
『新鮮! 抜きたて! 不死鳥の尾羽根 10万Gポッキリ!!』
所持していれば一度だけ死を肩代わりしてくれる最上級の“御守り”、不死鳥の尾羽根。まさしく伝説の品。それが庶民でも数ヶ月節約すれば買えてしまうような値段で売られていた。有り体に言ってそれはあり得ない話である。もし本物であるならその10万倍は必要だろう。
実際どこぞの王族が避けられぬ戦に向かう戦士の息子の為にそれだけの賞金をかけてなお結局見つからなかった……なんて話だって聞こえてくるくらいなのだ。
故に道行く誰もがそれを贋物だと断じていた。
付け加えれば“私が作りました”と店主の似顔絵つきの札と一緒に巻物や護符の類いが陳列されていたし、ダメ押しに馬車を引いていたらしいすぐ近くに繋がれたポニーサイズの白馬の頭には先の少し欠けた1本角が生えている。
胡散臭いという形容詞を露店の形に整えればこうなるだろうという見本がそこにはあった。
素通りする者もいないが寄り付く者もいない。
ナーファルの店という看板のその露店はつまりそういう感じであった。
身売り露店 花沫雪月🌸❄🌒 @Yutuki4324
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