21.選択(藍茨)

 あなたと血が繋がっていなくてよかったと思う度、あなたと血が繋がっていればよかったのにと思う。あなたが私を選ぶ可能性はあるのにその確率は、酷く低く。血縁がすべてではないから人は結婚するのだろうけど。

 あなたと血が繋がっていればよかったのに、そうしたら私は、諦めきれたかもしれないのに。ただ家族としてでも、長く、淡く、それでもたいした理由もなく側にいられることに安堵できたかもしれないのに。あなたの好きな青い、薔薇を贈って、邪な気持ちなんて微塵も顔に出さずに抱擁することだってできたかもしれないのに。

「ねえ、侑里に着てほしいドレスの画像、送っといたから」

「だから、行かないって」

「行けないじゃなくて行かないってことは、やむを得ない理由があるわけじゃないんでしょ?」

 目ざとい。私は彼女の視野の広いところが好きで、それでいて細やかな気遣いのできる解像度に憧れていて、だからこそそんな彼女を特定の話題について盲目にさせている存在が許せなかった。

「そうだけど、とにかく、行かないから」

「どうしてそんなに彼のこと嫌いなの?」

 私じゃないからだよ、そこにいるのが、あなたの隣を堂々と独占しているのが、あなたに指輪を選んであげるのが、一緒に不動産屋に行くのが、世界の誰よりはやくあなたにおはようを言うのが、彼であって、私じゃないからだよ。

「彼だから」

「まー、どうしても合わない人がいるのは仕方ないことだけど」

「そう、仕方ないことだから」

 あなたの好きな青い、薔薇を贈ってあげる。私の代わりに席に置いておいてくれればいい。色水を吸い上げて鮮やかに染まった、ありのままでは愛されなかった、青い、薔薇。

「侑里に一番、喜んでほしかったのにな」

 神の祝福、夢叶う、奇跡。あなたの願うものはそれら。

 不可能、存在しない。でも私はまだそこから進めないでいる。

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