20.心中(きみからのたより)

 彼女と海で待ち合わせをする。

 それは発作のようなもので、ぼくたちの絆を確かめるために彼女がしたがることのうちのほんのひとつで、だからぼくはいつものように付き合っている。ぼくたちは夜中、海で待ち合わせて、お互いを探す。海であればどこへ行ってもよく、朝日が昇るまでに見つかれば、日の出をしばらく眺めてから家に帰るのだ。

「満流、見つけた」

 彼女はほっとしたような残念そうな、困り笑いを浮かべた。

「もう、ミカ君てば速いんだから」

 彼女は自転車にも乗れないし、もちろん車だって運転できないし、この時間に電車は動いていないし、タクシーに乗る金なんかないことも知ってる。だから彼女は家の近くの、この狭い海岸に歩いてくるしかなくて、ぼくはここを隅から隅まで探すだけでいい。彼女が見つからなかったことはない。

「絶対に見つけるから、いつも。お日様を見て、帰ろう」

「そうね」

 彼女は目を細めながら、まだ薄っすらと月の残る空を眺める。ぼくは怖かった、彼女が待ち合わせをしないで、ひとりで海に来てしまうのが。一緒に生きられないのなら、一緒に死のう、と言った。

「ほら、もう行かなきゃ」

「ミカ君」

「なに?」

「好きよ」

「ぼくも」

 彼女が差し出す手をとって、ぎゅっと握る。すり抜けてしまわないように。いなくなってしまわないように、ぼくの目の前から。

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