17.相談(須賀君の思惑)
「先生、相談があるんです。のってもらえますか?」
彼の最初は決まってそれだった。頷きながら、先日同僚がお土産で持ってきたクッキーを、気づかれないように引き出しにしまう。
「おいしいですか、それ」
「目ざといのね、須賀君」
仕方なく閉めかけた引き出しを開けてクッキーを一枚取り出し、彼に渡した。
「先生って誰にでも優しいんですか」
窓の外の曇り空を眺めながら、小さな袋を受け取るその手は狙ったように私に触れる。
「まずは、ありがとう、でしょ」
「すみません。ありがとうございます。いただきます」
彼はさっそく口で封を切って中身をちびちびとかじり始める。
「で、今日の相談は?」
「僕、好きな人がいるんです」
「ほう」
「告白の練習に付き合ってほしくて」
「それはちょっと業務範囲外だなぁ」
そんな罠で言質を取れると思っていたら大間違いだぞ、とポケットに突っこんだままの彼の左手を掴んで引っ張り出す。赤く点ったランプ。四角い停止ボタンを押す。ああもしかしたら、今ここに招かれざる客が訪れて、盗撮なりして、私の教師人生おしまいになっちゃうかもな。
須賀君は泣きそうだった。それを一度は信じてあげるのが役目だと思う、でも。
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