11.密事(ヨースケコール)
『警視庁捜査二課の岸と申します。いまから斎藤さんのご友人が関係していると疑われる事件の詳細について話しますので、情報漏洩防止のため、人のいない場所へ移動してください』
知らない番号からかかってきた電話の、無機質な声の主はそう言った。ざらざらとした灰色のコンクリートのような、それが私の耳を摩り減らすように感じて携帯を耳から離す。
「詐欺ですよね?」
そう言えばすぐに切ると思った。相手は少し逡巡したようで、数秒、無言の間。
『渾身のギャグだったのに……』
ざらついた声が残念そうに耳を撫でていく。
「シャレにならんけど。誰ですか」
『岸陽介です……』
ざらざらしたフィルターが取り払われ、人々が蜂蜜のように甘いと評する声が飛び込んでくる。
「本名名乗ってんのかーい」
『ギャグだったので……。事件というのは、僕が携帯をなくして電話番号が変わってしまったというものです』
「世界一つまらない既解決事件」
『斎藤穂乃花さんにこの番号を登録していただけるまで事件は終わりません……』
「ネタが滑ったことをいい加減認めなさい」
『はい……』
彼は本当に落ち込んでいるような気がする。気がする、というのも彼が演技を生業にしているからだった。
『ところで、ここだけの話、今ならなんと特別に、あなた限定!』
「懲りろ」
『明日暇ですか?』
「暇かどうかは提案の詳細を聞いてから決めます」
『人狼ゲームやらない?』
「やるかボケ」
勝てるわけがないのだった。そして、どうせ明日の私はちゃんと人狼ゲームで負けているはずだ。勝てるわけがないのだから、彼に。
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