第3話 白竜の翼

「ティナ。早く外へ」

「うん。そうだね」


 地下の遺跡は既に猛烈な炎が溢れている。その中でリーネ・サルマンさんとエール・アルクさんが並んで深く礼をしていたのだが、それに応えている場合ではなさそうだ。


 もちろん、あの太陽の息吹は異常な高熱を発する魔法。だから、術者を守る耐火シールドもセットになっていたのだけど、それでも周囲から輻射される熱量は膨大だった。火傷しそうな熱に晒されながら、私は姫の手を引いて階段を駆け上がった。教会の建物も既に燃え上がっており、祭壇の中央にある竜神像も炎に包まれていた。


「ティナ、早く外へ。煙に巻かれるぞ」

「そうだね。急ごう」


 私は姫と一緒に礼拝堂を駆け抜けた。扉の外へ出た途端、轟音を立てて裏口の方が爆発した。教会の裏側の墓地に炎が噴き出しているようだ。


「こっちにも来るぞ。早く離れるんだ」

「うん」


 私と姫は更に50メートルほど走ってから後ろを振り返った。すると教会全体が巨大な炎に包まれていたのだが、燃え方が何か神々しい。そして熱を感じなくなった。


「あれ? 熱くなくなった?」

「そうだな。来るぞ。天の白竜が」

「天の白竜?」

「そうだ。偉大な魂を天上界へと導く高貴な竜の事だ」


 あ……そういえば聞いたことがある。偉い人には天上界からのお迎えの白い竜が来ると。


 やっぱりリーネさんは偉大な勇者だった。そして、あの怪獣……悪魔の心臓の左手に封印されたままでは、天上界からのお迎えは来なかった。今日、あの骨を灰にしちゃったから彼女はちゃんと帰れるんだ。そう思うと、自分のやった事が誇らしく思えてくる。


 目の前の炎はオレンジ色から白色へと変化し、その白い炎は次第に竜の姿へと変わっていった。


 もふもふでフワフワの白い竜が私たちの目の前で実体化したのだ。体長は20メートル位だろうか。左右に広がった大きな白い翼もかなり大きい。そして、優しい眼差しで私を見つめている。


「ティーナ・シルヴェン。此度はご苦労であった」


 うわあ! 白竜に話しかけられた!


「リーネ・サルマンを迎える事ができた。そなたのお陰だ」

「いえ。私はただ言われた通りにやっただけで」

「ふっ」


 鼻で笑われた?


「謙遜しなくても良い。あの、太陽の息吹に類する高熱の魔法でなくては、悪魔の心臓を構成する骨格は破壊できないのだ。君がいてくれた事は幸運だったよ」

「あ、ありがとうございます。褒められると恥ずかしいです」

「そしてウルファ・ラール・ミリア」

「はい!」


 突然、姫に話を振られた。流石の姫も白竜の前ではガチガチに緊張してるんだね。姫、可愛いよ。


「もう気付いていると思うが、お前たち二人は今後グラスダース王国へと赴いて〝悪魔の心臓〟の遺跡を破壊する仕事を担う事となるだろう」

「グラスダースで……ですか?」

「そうだ。とある異国の青年がそなた達とグラスダースの王族を取り持つこととなろう」

「異国の青年とは?」

「ふふふ。そう遠い未来ではない。楽しみにしておけ」


 何だか妙な予言??

 姫も話が腑に落ちていないようで首をかしげている。


 そしていつの間にか、白竜の背にリーネさんとエールさんの姿が見えた。二人は笑顔で手を振っている。


「ティーナ・シルヴェン。その太陽の指輪を大切にせよ」

「はい」


 やっぱりこの指輪が私にとって一番大切なものなんだ。左手の薬指がほんのりと熱くなって来た。


「ウルファ・ラール・ミリア。ティーナを大切にせよ。彼女こそが真の友であり相方となる者だ」

「わかりました」


 えええええ?

 そうなの?

 私が姫の真の友で相方なの?

 

 えへえへ。

 にやけちゃうじゃないの。


「さらばだ」


 白竜が大きな翼を広げて一回だけ羽ばたいた。すると、大きな白竜の体がふわりと宙に浮き、そのまま空高く昇っていく。そして見えなくなってしまった。


「行っちゃったね」

「ああ。二人で天上界へと帰ったようだ」  

「良かったのかな?」

「そうだ。良かった。ティナがいなければこの件は解決しなかっただろう」

「うん。そうかも」

「これからもよろしく頼む」

「うん。こちらこそよろしく」


 私とウルファ姫はがっちりと握手を交わした。勇者選抜試験を突破できた高揚感と姫とのパートナーシップを確認できた興奮で目が回りそう。ああ、落ち着かなければ。


 その後、兵隊さんに囲まれたりしたんだけど、今回は火事になるかもと事前に連絡されていたらしい。実際に火災が発生したので軍が駆け付けて来たって事。もちろん、私達は無罪保免です。そして、アルク家から正式に勇者選抜試験の合格通知が届きました。これは15年ぶりの快挙なんだって。やっぱり鼻高々だよね。


 さて、悪魔の心臓に関わる事はまた別の機会にお話します。私達が学園を卒業した後、異世界の青年がグラスダース王国を訪れた事がきっかけとなり、グラスダース王国内に点在する悪魔の心臓の遺跡を処理する旅が始まる予定……なんだって。詳しい事は〝馬鹿作者〟に聞いてくれって姫が言ってたの。うーん。これ、悪口じゃないの??


「悪口ではない。さっさと書け。この馬鹿作者が!」


 って事らしいです。姫のお言葉でした。


 最後に、この物語は「お題で執筆!! 短編創作フェス」参加作品となっております。また、短編連作の続き物となっております。お題と作品の順は以下の通り。


お題一つ目「試験」

『魔法使いの私が何ゆえ勇者選抜試験に挑むのか?』

https://kakuyomu.jp/works/16818093090480314956

お題二つ目「雪」

『粉雪の結婚式』

https://kakuyomu.jp/works/16818093090958460783

お題三つ目「つま先」

『誓いのキスはつま先立ちで』

https://kakuyomu.jp/works/16818093090970775017

お題四つ目「帰る」

『試験会場への帰還』

https://kakuyomu.jp/works/16818093091828187502

お題五つ目「薔薇色」

『薔薇色の小さな家』

https://kakuyomu.jp/works/16818093092137355846

お題六つ目「骨」

『勇者戦争の遺産』

https://kakuyomu.jp/works/16818093092430761172

最終のお題は三つ「10」「羽」「命令」

『勇者からの贈り物』

https://kakuyomu.jp/works/16818093092936792757


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 みんな大好きだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者からの贈り物 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ