ギルドの受付嬢として勤続10年。上司から「羽を伸ばしてこい!」と命令されたので、念願の迷宮攻略をします!
温故知新
前編
「アイリちゃん。しばらくの間、羽を伸ばしてきて良いわよ~」
「ほ、本当ですか!? 副ギルド長!!」
ここは迷宮都市ダヴィド。王国内で王都の次に栄えている都市で、大陸に点在する数多くの迷宮の中で5本の指に入る大きさを誇る迷宮を有する都市である。
その迷宮都市の冒険者ギルドで10年間、受付嬢をしている私アイリは、ギルド長の部屋で育休から復帰したばかりのはずなのに、夫であるギルド長にコブラツイストを決めている副ギルド長から休暇を言い渡された。
「えぇ、本当よ。あなたは私が復帰する10年間、夫のせいで受付嬢以外の仕事を任せていたみたいだから。ねぇ、あ・な・た?」
「い、いやそれはだな、アイリが自ら申し出たから……」
「だとしても、受付嬢に副ギルド長の仕事の一部を任せていたってどういうことよ!!」
「い、痛いって!!」
妻から首を絞められているギルト長は、国内でも数少ないSランク冒険者の1人で、伝説の冒険者パーティー『深層の剣』のリーダーで、いくつもの迷宮を攻略した実力者である。
ちなみに、副ギルド長はそのパーティーの治癒師で、一目惚れしたギルト長からの猛アピールに結婚したとのこと。
「だ、だからそれも、アイリが進んで引き受けて……」
「あら、それをケインの前でも同じことが言えるのかしら?」
「うぐっ!」
『ケイン』というのは、私の実の父で『深層の剣』でタンク役をしていたSランク冒険者で、パーティーリーダーであったギルト長を事あるごとに諫めていた。
そのため、ギルト長は父に対して今でも苦手意識を持っている。
「ケインは言ったわよね? アイリの冒険者としての実力をある程度身につけて、資金が貯まったら娘を冒険者として認めてくれと。その間、娘を受付嬢として雇って欲しいって」
「た、確かに言ったが……」
幼い頃、珍しく酔っぱらった父から聞いた冒険者の話に胸をときめかせ、大きくなったら両親のような立派な冒険者になりたいと決意した。
もちろん、両親は大反対。けれど、諦めきれなかった私は冒険者になるべく体を鍛えて勉学に励み、12歳で入学したアカデミーで魔法の使い方を学んだ。
そうして、3年後に文武両道の成績を修めてアカデミーを卒業した私が、本気で冒険者になりたいと説得すると両親が条件付きで認めてくれた。
その条件が、父の知り合いがギルト長を務めている冒険者ギルドで受付嬢として働きながら、冒険者としての知識を深め、自力で冒険者の装備を揃え、SからFある冒険者ランクでEランクになることだった。
本気で冒険者になりたい私は、この冒険者ギルドで冒険者登録すると、受付嬢として真面目に働きながら、現役冒険者から冒険者の心得や知識を教えてもらった。
そして、休みの日には仲良くなったら冒険者パーティーのクエストに同行したり、クエストをこなしたりして、冒険者としての実力を上げながら着実に資金を貯めた。
そうして受付嬢として働き始めて5年後、Eランクになり、資金も貯まって1人の冒険者として活躍するために受付嬢を辞めようとした。
けれど、そのタイミングで副ギルド長が1人目のお子さんの出産にあたって産休に入り、更には寿退職をする受付嬢が続出して人手不足になったため、ギルド長に泣きつかれた私は、人手が増えるまで受付嬢を続けることになった。
最初は1年で受付嬢を辞めるつもりだったのだけど、辞めるタイミングで副ギルド長が2人目を妊娠したり、新人受付嬢の人が独り立ちしたタイミングで、ベテラン受付嬢や後輩受付嬢が寿退職したりと、状況が中々改善しなかったため、結果的に受付嬢を10年務めることになった。
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