第8話

精神科医:「御主人のお気持ちは本当によく分かります。


これまでの長い年月、当人の奥様は勿論、様々なことがあって助けを求めてこられた貴方のサポートにも力を尽くしてきました。貴方がどれだけ苦しんでこられたかも理解しているつもりです。


でもどうして今!


もう少しでしたのに…。


サユリさんの不在を感じ始めたということは、真実を感じ始めたということでもあるんですよ…。

それが不自然な形で始まったとしても…。


サユリさんが事故にあったとか、病気でとか、或いは自殺したとかで成長した後「死んだ」ことになったとしても、サユリさんがこの世には存在しないことを納得できた筈…。


ご本人もかなり苦しむでしょうが、いずれ自らの力で本当のことに気づく時も来た筈です。


しかし、その可能性も少なくなりました…。


貴方が中途半端に、しかも無理矢理に奥様の幻想の世界を剥ぎ取ろうとしたことで、奥様はより深く強く心を閉じてしまった…。防衛手段です。


一生幻想の世界で生き続けることになるかもしれません。


そうじゃなくても、またゼロから、いやよりかたくなになった奥様の心を考えれば、大きなマイナスからのやり直しということになります。」


夫:「………」


精神科医:「自分の幻想にある限界を感じたとすれば、幻想をより強固なものにするために、誰かをサユリさんと置き換えるということになる可能性もあります。


とにかく落ち着くまで暫くは入院させましょう。」




            つづく


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