魔法少女は、大人しくしない

あじのこ

第1話

空港の到着口はいつもと違う雰囲気に包まれていた。


普段なら、乗客たちが無事に降り立ったことに安堵し、荷物を受け取るために並ぶだけだが、今日は何かが違う。警備員が普段以上に厳重に配置され、空港内の空気がぴんと張り詰めている。遠くからでも、何かを警戒しているような雰囲気が伝わってくる。


「なんだか……物々しいな。何かあったの?」

「ああ……確か今日の飛行機でアメリカからの“例のアレ”が乗ってるってニュースで見たな。」

「“例のアレ”って?」

「お前、全然ニュース見ないんだな。ほら、魔法少女が日本に派遣されるって話。あれ、違憲かどうかで国会が揉めてたじゃん。あの問題がどうなったか、まだ結論出てないんだろ?」

「あぁ、あれか。確かに、ニュースでもやってたな。今日はその関係で、警備も強化されてるってことか。」

「へぇ〜どんな子なんだろうな。魔法少女っていうからにはやっぱ可愛いのかな!?」

「少女っていうくらいなんだから、お前が手を出したら犯罪だろ」


「ふーん……」


オレはその時、オレとは関係のない別世界の話を聞いている感覚だった。現実だけど、自分には関係のない話。どうしても他人事にしか思えなかった。

だって、アメリカの“例のアレ”がどうだとか、魔法少女が日本に派遣されるかどうかなんて、オレには関係ない話だ。そんなことを考えているうちに、ふと気づくと、周りの人たちはみんなその話題で盛り上がっている。


「てか、帰り何時の電車乗るん?行こうぜ」


思わず口に出していた。自分でも驚いた。何か、無理にでも会話に参加しないといけないような気がしたからだ。


でも、心のどこかで、まだその話に入り込めていない自分がいる。



◇◆◇◆



「ちょっ……ちょっとちょっと〜!ミツキ!!アンタ、こんな買い物してなに考えてんのヨ!!いい加減にしなさいッ!!」


言葉の端々に独特なイントネーションが漂う男の声が響いた。声の主である男の身長は高く、周囲の日本人の平均身長を大幅に超えていた。鍛え上げられた筋肉は、今は可愛らしい買い物袋や箱を支えるために使われている。


男の声に反応して、少し前を歩いていた金髪の女が振り返る。その顔はあどけなく、少女と言っても差し支えない。彼女はニヤリと笑い、肩をすくめた。


「クリス。あたしのお目付け役なんでしょ?なら、荷物くらい持ってよねー♪」

「ちょっと……私は荷物持ちじゃありませんー。私たちには……あら?トーマスはどこ?」

「あたし、喉乾いちゃったから飲み物買いに行ってもらったのー」


「……アンタ、あれでもあの子は国家超常防衛局の職員なのよ。ここまで来るのにどんな血反吐吐くような訓練を受けてきたのか……そもそも、もう少し年上を敬いなさいっての!」


クリスと呼ばれた男は小言を続けながら、少女の買い漁ったバッグや服やら化粧品の入った箱をずらし、正面を見た。


だが――そこにあるはずの金髪が、いない。


「はっ……!ミツキ……!?」


クリスは一瞬で青ざめた。荷物を抱えたまま周囲を見回すが、どこにも少女の姿はない。冷たい汗が背中を伝う。


「ちょ、ちょっと待って……なんでいないのよ!?ミツキ!どこ行ったのよ!」


混乱しながらも慌てて周囲を確認する。だが、見えるのは行き交う日本人観光客たちばかり。誰も金髪の少女に心当たりがなさそうだ。


その時、期間限定のフラペチーノを手に持った男が戻ってきた。黒いサングラスをかけた顔がどこか満足げに見える。


その表情とは正反対に、長身の男は青白い顔で呟いた。


「や、やられたワ……!」

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