骨に関する話
尾八原ジュージ
シンク
ホラー小説を書いていると打ち明けると、「実はこんな怖いことがあってね……」などと話し始めてくださる方が、案外多くいるものです。
以前同じ会社に勤めていたA子さんも、そのうちの一人でした。現在の仕事の関係でたまたま再会し、近況を語り合っていたときのことです。
「学生時代に住んでたアパート、骨が出たんだよね」
などと言うものですから、とっさに「夜になると歩き回る骸骨の模型」みたいなものを想像してしまったのですが、違いました。
キッチンのシンクに、たまに骨が落ちていたのだそうです。ほんの欠片だそうで、動物のものか人間のものかもわからないのだそうですが、とにかく「骨」ではあったとのこと。
「何だろうと思ってたんだけど、そしたら在学中に祖母が亡くなったのね。で、葬儀のときに骨揚げをするでしょ? そのときピンと来たのよ。シンクに落ちてるやつ、これだ! って」
その断言の仕方が妙に強くて、私は少々ぎょっとしてしまいました。まぁ骨ではなくとも、自分以外は誰も立ち入らないはずの部屋に、よくわからないものが落ちているというのは奇妙なことです。
「気味が悪いから引っ越そうかと思ったんだけど、お金がなくってさぁ。結局三年くらい住んでたね、そこに」
「よくもまぁ……」
「まぁ、何か落ちてくるだけだし。別に害とかないし」
骨とわかってからは、燃えるゴミの収集袋に放り込むのもなんだかはばかられ、そこで都度捨てるのをやめてクッキー缶に放り込むようにしていたら、三年間で缶一杯溜まったのだそうです。勝手に降ってくる骨らしき物体も不穏ですが、その骨らしき物体を三年間も溜め続けた彼女のことも、正直怖ろしいと思いました。
「まだとっといてあるよ。見る?」
別れ際にそう聞かれて言葉を濁してから半年、彼女とはまだ会う機会がありません。
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