第5話 勇者?
「おい、アスモデウス。お前のせいで酷い目に合った」
魔王ルシエルは借りている宿の扉を開け、直進しながら怒鳴った。
窓の外の風景を手で顎を支えながら眺めているアスモデウスは少しめんどくさそうな表情を浮かべた。
「それで、あの後どうしたんですか?」
「あぁん? 逃げたに決まってるだろ! アスモデウス、お前が助けに入ってくれれば、警備隊に追いかけられることもなかったのに」
約6時間前
勇者らしき姿を見つけた魔王ルシエルは、屋根からその勇者を観察し、尾行していた。
「ルシエル様、あれは勇者ですか?」
「黙れ、静かにしろ!」
ルシエルはアスモデウスの声に聞く耳を持たなかった。
「あの勇者何してる?」
勇者だと思われる人物は、太ももを高く上げ、軽快なリズムで先へ進んだ。
「あれは本当に勇者ですか? あんな動き勇者がするとはお前ないんですが」
「きっと、俺を倒すために筋肉とバランス感覚を鍛えているんだ!
さすがだな勇者!」
「私にはそうは見えませんが」
「あの後ろ姿とぶれない姿勢、間違いない。絶対に勇者だ! 行くぞアスモデウス」
二人はその勇者の後を追った。
勇者は開店したばかりの喫茶店に足を運んだ。
「ほら見てみろ。あそこできっと、勇者一行で集まって話し合うつもりだ!」
「私はいきません」
「しょうがねぇな。俺一人で何をしてるか見てきてやる。お前はそこで周りを監視しておけ」
そう言って、身をすっぽり隠すほどの黒いコートをどこからともなく取り出し屋根上から意気揚々と飛び下りた。
店内に入った魔王は、全身鎧すがたの勇者を確認した。
そのまま、勇者に夢中になるあまり何も注文することなく魔王はちょうど勇者の後ろの席に座った。
じっとしていられず、何度も後ろを確認した。
(勇者は、コーヒーが好きなのか! それに何を読んでいるんだ)
確認しようと立ち上がってみようとした瞬間、誰かが勇者に声をかけた。
その瞬間、気づかれまいと魔王は俊敏に席に座った。
話し始める二人の会話に耳を澄ませた。
「おはようございます。今日も早いですね!」
「もう日課になったよ。それと敬語はやめる気はないのか?」
「そうしようかと何度か考えましたが、やはり私にはできません」
「お前のそう言うところ嫌いじゃない。最近どうだ?」
「勇者一行が選ばれてからと言うもの、街全体が賑わって活気にあふれていますよ。
私は期待しています、あなたの目とそれに選ばれた仲間を」
(勇者・・・・、やわりこいつが!)
魔王は確信した。
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