気だるげ勇者とアゲアゲ魔王

@Esin

第1話 勇者一行

こんな派手な服を着て、装飾の多い剣を持ち歩けるわけがない。

勇者ルクスは下着一丁のままため息をついた。

外に出たくないな・・・。

彼は鼻からため息をつかんとばかりに強く空気を出した。



ルクスが待ち合わせの場所に行ったら開幕飛んできたのは少女の文句だった。

「もう、なんであの服を着てこなかったの? せっかく王様直々にくれたのに」

四人いる勇者一行のうちの一人、イフェンはルクスのこれといって特徴の無い服装を見て文句を言ったのだ。

その後、少し屈んで真紅の目でルクスを覗き見た。

「あれは恥ずかしすぎるよ。それより早く他の場所に行こう。人通りの多いよこの場所」

ルクスは屋台が立ち並び、噴水があるここでは有名な場所をぐるっと見渡した。

「別にいいでしょ。それよりあんたその髪なんとかしなさい!」

「え?」

イフェンはルクスのボサボサにはねた髪を整えようとして近寄ろうとした。

「いいよ、このぐらい。自分で直すかあら」

ルクスはそっと自分の髪を撫で下ろした。

「もう・・・だから。それで直って無いのよいつも!」

彼女は強引に近寄り、ルクスの髪を直した。

「うん。この方がかっこいいよ」

彼女は「ほら行くよ」とルクスを先導した。

ルクスは彼女の綺麗に整えられた黒紫色のショットカットの後ろ姿を追いかけた。


彼女の姿は優美そのものであった。背は少し小さく、絹のような黒髪の少女はここでは有名人。

なんて言っても彼女は世界を救う勇者一行の一人、歩くたび、すれ違う人は彼女を見るために振り返り、ざわつき始めた。

「あの女の子、イフェン様じゃない?」

「え? どれどれ」

「ほら、あそこの」

「ほんとだ。『竜血の狩人』レザン・イフェン。彼女の鋭い眼差しは千里を見通し、男の求愛を悉く冷酷無比に打ち砕く。その眼差しに見られたものは魅了され、最後には血で染め上げられてしまう。ほんと後ろ姿も可愛いな、一度でいいから罵倒されたい」

「あの隣の冴えないやつは誰だ?」

「知らない、髪色は勇者様に似てるけど・・・」


「もう帰りたい」

「バカ・・・まだ話してもないのに、帰らせるわけないでしょ」

イフェンは振り向き、ルクスが後についてきてるかを確認した。

「もうすぐ着くから」



「おい、ルクス。どうした、その髪は? お前らしくない。

 イフェンに直されでもしたのか?」

「そうだよ・・・」

少し機嫌悪そうにルクスは答えた。

「やっぱりか。ここはいいだろ。お前の希望通り人が少ない。前、遊んだ女の子から聞いたんだ・・・何かひっそりとしたいことがあるならピッタリだって」

中心路からそれた脇道沿いにあるひっそりと営業されている喫茶店に勇者一行全員が集まっていた。

「うちは文句はないんだけど。勇者一行にしては質素じゃないかな」

長く伸びた淡い翠色の髪の勇者一行の一人、『碧玉の僧侶」オルフ・ミゼリアは丁度のタイミングでルクスとイフェンの後ろからやってきた。

「仕方ないだろ、装備にお金を使いすぎて渡すお金までなくなったんだから」

「あの王様、絶対バカ」

『金剛の重戦士』、ヴァルド・アイアンハートとミゼリアは口元に笑顔が漏れた。

でもそう言う二人は貰ったばかりの光沢が眩しい装備、武器を誇らしげに所持していた。

「王様の悪口を言うのはダメ。・・・でも確かに言われた時は困惑したけど」

イフェンは続け様に言葉を吐いた。

「それより、これからのことを話すよ」


勇者ルクスから見て、自分以外の勇者一行のメンバーはしっかりしていてなんというかリーダーシップがあった。自信に溢れていて、何をするにしてもその自信が行動から見えた。

今日が勇者一行としての初めての会議だった。

『どこに行くか?』 

それを会議の第一の趣旨として議論がなされた。

各々自分の意見を言った。全員が自分の発言に自信があり、迷いがなかった。

ただ一人、ルクスを除いて。

「よし、じゃ一週間後カルカ山脈沿いの街道を進んで隣町ジブリースを目指そう

 分かったか、ルクス?」

金髪の前髪をかき上げ、アイアンハートはそう質問した。

「うん・・・」

「絶対わかってないでしょあんた。私が呼びに行ってあげるわよ」

イフェンはルクスと目を合わせながら、口にした。

「この後、飲みに行くんだけど三人ともどうだ?」

「別に私は行ってもいいけど」、「うちも」

イフェンとミゼリアはアイアンハートの提案に賛成した。

「僕は・・・」

本当は宿に帰ってゆっくり本でも読みたかった。でもイフェンの「せっかくだから」という言葉に抵抗することはできなかった。









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