魚の骨を見て泣いた。

橙こあら

魚の骨を見て泣いた。

「お母さん、ごちそうさま!」

「はい、お粗末さま~」


 娘が夕食を食べ終えて、キッチンへと食器を持ってきてくれた。

 ……わあー……。


「お母さん、どうしたの?」

「あら、ごめんなさい。あなたが上手に魚を食べたみたいだから……つい見ちゃったわ」


 じっと見てしまったのは、お皿に残された魚の骨。娘は骨だけを、きれいに残して焼き魚を完食したのだ。


「上手かな? 確かに魚が好きだから、食べられるところは全て食べるように頑張っているけど」

「いやぁ、お見事よ。ねぇ……もう少し、見せてくれる? あっ、お父さんにも見せましょう! 良いかしら?」


 娘は「えっ? まあ、良いけど……」と、母である私の頼みを聞いてくれた。「お父さんも見て~」と言っている母に首を傾げながらも、さりげなく娘は皿洗いを引き継いでくれた。ありがとう。さすが我が子。


「おうっ、どうした母さん?」

「これ見てっ! ほら、きれいでしょ~」


 晩酌中の夫に、私は娘がきれいに取り除いた魚の骨を見せた。


「はーっ! 上手に魚を食べたなぁ! こりゃあ酒なんかに夢中になっている場合じゃなかったぜ!」

「ホントよ、もうっ! あ~、あの子が魚を食べる姿……スマホで動画を撮るべきだったわ!」


 ああ、あんなに小さかった娘が……。

 大好きな魚を食べるとき、いつも母である私が骨を取り除いてあげていた娘が!

 もう自分の力で、きれいに魚を食べられるようになってしまったなんて……成長って早い。




「お母さ~ん。洗い物、終わったよ……って何っ? どうしたのっ? お父さんは……もしかして飲み過ぎ?」


 娘が洗い物をしてくれた、さすが我が子!


「ありがとうっ……うっうっ……! 本っ当に成長したわねえっ……! お母さん、とっても嬉しいわっ!」

「魚をきれいに食べて、皿もきれいに洗ってしまうとはっ……! くぅ~っ、自慢の娘だっ!」


 つい夫と私は泣き崩れてしまった。まさか夫婦して魚の骨を見て、涙を流すとは……! 娘の成長を感じて泣く両親を見て、娘は目を丸くしている。ああ愛しき娘よ……本当に、かわいいわっ!


「我が子こそ最高の肴だ! 娘を見ていると、どんどん酒が飲めるぞっ……!」

「まあっ! じゃあ私も今晩は、お父さんみたいに飲んじゃおうかしらっ!」

「やめてよ、お父さん! お母さん! あたしは別に、大したことしていないって!」

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