SS 有愛の期末テスト狂想曲
あれから一年が過ぎた
俺は有愛と無事に付き合うことができた
少しツンデレな彼女だが俺は今、幸せだ
「何キモい顔してんのよ」
「ひでぇな!
可愛い彼女がいて幸せだなって思ってたんだよ」
「…もう!」
顔を伏せながらポコポコと俺の肩を叩く
やっぱり好きだなー
おっといけない、いけない
まだ説明しないといけないことはいっぱいあるんだ
あれからの俺たちは少し…いや、かなり変わってしまった
まずは茜
俺たちと今でも親友だが最近、放課後はよく一人で絵を描くようになった
夏のコンクールの作品を描かないと言っているが、コンクールの締め切りが終わっていることは知っている
きっと俺たちに気を使ってしまっているのだろう
それか秋徒との時間を大切にしたいか、だ
どちらにせよ、もう俺たちが茜にしてやれることは少ないだろう
次に成実
篠原さんことを気にしているようで、よくボーっと篠原さんを眺めていることが多くなった印象がある
その篠原さんはいつも空を眺めている
何も考えてなさそうに眺めている
授業中も休み時間も
だが放課後になった瞬間に思い出したかのように動いて帰宅する
まるで抜け殻かのような毎日を送っている
茜に聞いてもはぐらかされるだけだ
だけど必ず
「私たちにはどうにもできないよ」
とは言われる
きっと茜にも何か考えがあるのだろう
だから俺たちは手を出さないようにしている
近況はこんなものか
まだまだ問題はたくさんあるけど、直近の問題はたった一つ
あ、ちょうど話をしようとしたら先生が俺たちの元にやってくる
「おい、有愛」
「私ですか?なんでしょうか?」
「なんでしょうか、じゃない…
お前そろそろやばいぞ」
「ふぇ?」
「単位」
「な、な、なんだって~⁉」
大体察しはついていたが、やはりな
この有愛とかいう女、今までの英語のテスト、すべて赤点!
逆に今までよく許されていたな⁉
「まぁ私、英語以外はほとんど満点だし!」
「心を読むな
そして誇るな
英語できないと卒業できないぞ?」
「ぐっ!勉強しないと、ね…
いやだいやだ!私英語大っ嫌い!
なんで日本人なのに英語なんてしないといけないの⁉」
「落ち着け落ち着け」
俺は有愛の肩に手を置いて笑顔で答える
「騒いでも何にもなんねぇよ…諦めろ」
「私の彼氏辛辣ッ」
「仕方ねぇだろ
俺だって有愛に卒業してほしいからよ…」
「くっ!これが惚れた者の弱み!
わかった!わかったわよ!
だけど!条件があるわ」
「俺にできることなら何でもしてやる!」
「…私に英語教えなさい」
「そんな簡単なことでいいなら、もちろんだ!」
「あと…」
「あと、なんだ?」
恥ずかしいことなのだろうか
少しためらった後に上目遣いで
「…ご褒美」
と言ってくる
少しドキッとしたが、俺は有愛のやる気を出させるために何でもすると決めたんだ!
「もちろんいいぞ」
「約束よ?」
「あぁ」
そうして俺たちの有愛勉強会は始まりを迎えた
「それで…なんで私が呼ばれたのかな?」
「俺さ英語、人に教えれるほど理解できてねぇんだよ
それに茜は英語得意だっただろ?」
「まったく昭良は空気読めないよね…」
「なんで俺は責められているんだ⁉」
放課後の教室
クラスメイトが帰ろうとしている頃、俺は茜を呼び止めていた
理由はさっき言った通り
有愛が本気になったんだったら俺もできるだけのことはしないとな!
「バカ真面目なのが裏目に出たね」
「ほめてんのか?サンキュー」
「ぶっ殺すぞ」
「なんでそんなキレてんだよ⁉」
「有愛は?」
「先に校門で待ってもらってる」
「早く行こう…はぁー」
ため息をつきながらも着いてきてくれる茜に感謝しながら歩く
久しぶりに茜と放課後一緒にいれて有愛も喜ぶぞ
「アンタ本当に馬鹿よね」
「有愛にも責められた⁉
なんでだ!喜んでくれると思ったのに!」
俺が膝から崩れると有愛は慌てて弁明する
「あ、その…違くて!嬉しいのよ!
とっても嬉しいのだけど、もう少し空気を読んでくれたらいいなーって」
そこまで有愛が言った後に俺はおもむろに立ち上がる
俺は有愛に抱き着いて耳元でささやく
「意地悪なこと言ってすまねぇ
わかってるさ、有愛の気持ち」
「昭良…!」
俺たちは熱いハグを交わして仲直り(?)をする
それを隣で見ていた茜は一言
「私、帰っていい?」
今日は思い出の喫茶店にやってきた
図書館では静かにしないといけないから教えることができないから皆で話し合って、ここにした
少し騒いでもそもそもの客がいないから怒られることもないだろう
すごい失礼なことを言ってはいるが事実なのでマスターも許してくれるだろう
俺たちは英語の教材を開く
茜は大学受験用の教材を、俺は高校三年生用の教材を
そして有愛は…中学生の教材を
「ちょ、ちょっと待て」
「何よ?」
「お前は何年前から英語ができないんだ!」
「今の私の英語は中学一年生に負けるわよ」
「ドヤることじゃねぇよ!」
茜は頭を抱えて苦笑する
俺の彼女が本当にすまねぇ
「わかった、俺が頑張って教えよう」
「…ありがと」
「その様子だと羞恥心はあるらしい」
「それはもちろんよ!」
「ならば勉強頑張ろうな」
「うん!」
嬉しそうにうなずく有愛が可愛く、思わず頭をくしゃくしゃと撫でる
それすらも嬉しそうにする有愛がとても愛おしく感じる
「私帰ろっか?」
「何言ってんだよ、茜
少しぐらいは手伝えよ?」
「はいはい」
それから俺たちの地獄の勉強は始まった
「じゃあまずは…ほら」
「これは何?」
俺が取り出したのは一つのノート
しかし新品のノートではない
「小テスト
一日三ページずつやるからな
簡単な単語から始めていくから家で覚えてくれ」
「わかったわ」
「で、次だ」
そう言って取り出したのは小さなホワイトボードとペン
「俺が簡単にだが文法を教える
五十分ぐらいの授業を受けてから、自分の言葉でノートにまとめる
わからないところは俺か茜に聞く
そして今日の帰る数分前に小テストをする」
「わかったわ、簡単ね!」
少し余裕ぶっている有愛
その様子に不安感を覚えた俺はお灸をすえておくことにした
「一つ言っておこう」
「?何よ」
「これはお前にとって苦痛だと思う
いつもの勉強をしながらプラスでやらないといけないからな
だが、もしも辛くなっても大丈夫だ
俺と茜がいる
鞭を打ってでも無理矢理立たせてやるからな」
「…いい話かと思ったら、ただの鬼畜!」
「優しさだけで点数が上がったら、お前は満点を照れる」
「ちくしょう!やってやるわ!」
「その意気だ!」
「昭良ぁ…わかんないわ…」
「ここは覚えるしかねぇ!頭に叩き込め!」
「はぁい」
「なんだその腑抜けた返事は!」
「はい!」
「昭良…この小テスト難しいよ」
「そうか、間違えたところは明日の小テストに追加されるからな」
「え⁉聞いてないんだけど!」
「言ってないからな、忘れてた」
「そんなのずる…」
「まぁでも勉強したなら、もちろん満点だよな?」
「く…くぅ!」
「はい、再テスト!」
「ひぃぃぃ!」
そんな日々が数日過ぎた
少し振り返って気付く
俺、スパルタすぎたのでは⁉
これで有愛に嫌われたりしたらどうしよう…
勉強中だけど謝ろう
数分前にも「お前はノミ以下だ!」なんてひどいこと言ってしまったし…
「あ、有愛!」
俺が有愛を見ると、言葉が詰まる
俺に声をかけられたことにすら気づかず、勉強に集中している有愛がいた
茜は俺に耳打ちしてくる
「有愛、毎日よく頑張ってるよ
これも昭良のおかげ
だから昭良はそのままで大丈夫だよ」
「そうか、そうか…!」
「え?泣いてるの?」
「な、泣いてねぇし!」
「そんな目で言われても…」
俺は黙って勉強を再開する
そうか…有愛のためになってるならよかった
「有愛?お母さん久しぶりに帰ってきたわ…よ?」
「……」
「有愛?」
「うわっ⁉びっくりした」
「そんなに勉強に集中してたの?何の教科?」
「英語」
「有愛が英語⁉」
「ん」
「あらあら、冷たい
…それだけ集中しているのね」
「有愛!」
「⁉な、なにかしら」
「単語の小テスト、満点だぞ!」
「ホント⁉」
「あぁ、よく頑張ったな!」
「え、えへへ」
「…で、ここはこうなるんだ」
「じゃあこれを…こうしても同じ意味になるわね」
「そ…そうだよ、有愛!自分で気づけて凄いじゃねぇか!」
「も、もう!髪をくしゃくしゃしないでよ…」
「よく出来たな!」
「も、もう~」
「…私、帰っていい?」
こんな勉強尽くしの日々が一か月続いた
いつもの小テストを採点する
一日三ページもしていると、流石に高校二年生レベルに追いついてきていた
それでも有愛は…
「今日も満点だ」
「やったわ!」
「単語は完璧だな」
「規則性を見つけてからは簡単だったわ!」
もともと数学や国語は得意だったんだ
何かきっかけがあれば伸びるとは思っていたが…ここまでとは
もうすでに問題数は五十問にも及んでいる
それをわずか一日で覚えてくる
これは本当にすごいことだ
「それに文法も終わったからな」
「これも最初を覚えてからは簡単だったわね!」
文法に限っては高校レベルはすでに終わってしまった
授業よりも早く終わったから俺も予習が大変だった
「だが、これで間違いなく英語が苦手ではなくなった
全て有愛が努力したからだ
おめでとうな」
「力になってくれた二人のおかげよ」
「ま、私はたいして何もできてないけどねー」
「茜はいるだけで力になってくれるのよ」
「ならいいけどね」
「とにかく!あとは本番あるのみ、だな」
「えぇ!かかってきなさい!今の私は最強よ!」
そういった瞬間にいつの間にか背後にいた先生が声をかけてくる
「ほぉ?それは楽しみだな
明日のテストの点数、足りてなかったら覚悟しなさい?」
「「「明日?…明日⁉」」」
「え?お前ら知らなかったのか?」
すっかり頭から抜け落ちていた…
テストは明日だ!
勉強に夢中で大切なことを忘れてしまっていたな
黒板を確認すると間違いなくテスト範囲も載っている
どうするか…今から対策しても間に合う気がしねぇ!
「…大丈夫よ」
「有愛…?」
「あの範囲の文法は、もう済んでいる
それに単語だってちょうど五十問
いつもと変わらないわ
なんならいつもより簡単なぐらいよ
だから…私は大丈夫」
力強く宣言する有愛を見て、腕に力が入る
そうだ…今までの有愛の努力を一番近くで見てきたじゃないか!
俺が信じないでどうするんだ!
「あぁ!有愛ならできる!」
「えぇ!」
「…なぁ?茜、なんで少年漫画みたいになってるんだ?」
「いろいろあったんですよ、いろいろ」
「そうか…」
そうして迎えたテスト当日
俺は自分の勉強の時にテスト勉強も一応していたから大体はわかった
それよりも有愛のことが心配だ
信じているとはいえ、何かトラブルが起こるかもしれない
わからない単語が出てきてないか、わからない文法が登場していないか
シャーペンの芯はきちんと入っていたか、そもそも名前が書けているのか
なぜか小さなことまで気になる
有愛に言ったら「おかんか!」ってツッコまれるだろう
…有愛はそんなこと言わねぇよ!
不安で頭がおかしくなっているな、俺
今は有愛のことを信じるんだ
「昭良!」
「どうした⁉やっぱり名前がわからなかったか⁉」
「は?何言ってるの?
それよりも!今回、私…」
「ゴクッ」
「すごく出来た気がするの!
初めて全問埋まったわ!」
「そうか…そうか!」
その言葉を聞いて俺はうれしさのあまり抱き着いてしまう
有愛は恥ずかしそうにしていたが、力強く拒絶はされなかった
有愛は宣言通り、赤点を回避…どころかほとんど満点を取ってしまう始末
逆に俺の点数のほうが低くて驚いた
よくここまで成長したな…!
今、俺たちは約束のご褒美のために近くの公園に寄っていた
どうやら有愛がこの場所がいいらしい
いつもは人が多いのに、今日に限って貸し切りのように誰もいない
「それでご褒美は何がいいんだ?」
「やっぱりジュースとかがいいわね
あんまり高いものだと気を使ってしまうし」
「じゃあ自販機行くか
なんか好きなの買ってやるよ」
こんな物でいいのか、と拍子抜けだが本人がいいというならそれでいいのだろう
近くの自販機の前までついて財布を取り出す
「有愛は何がいい?」
「甘いものをお任せで」
「はいはい、そこのベンチにでも座っていてくれ」
俺は真剣にどれがいいか悩む
甘いやつ甘いやつ…
コーンポタージュにでもするか
これ以外になさそうだしな
それを買うと有愛に渡す
「夏なのにホット?」
「あ、そこまで考えてねぇわ
待ってろ…今、別の買うから」
「いや、いいわ」
「おう、そうか」
「ま、今度は自販機使えてよかったじゃない」
「何の話だ?」
「茜はお金入れて何も買わなかったんでしょ?」
「あ…」
そこまで言われて思い出す
ここは茜に宣戦布告をした場所だ
夜の公園で二人でガキみたいな口げんかしたっけな
「茜から聞いたんだな」
「えぇ…有愛には話しておかないとって言われたわ
そんなこと絶対ないのにね」
「はは、茜が言いそうなことだ」
「でも昭良にとってはいい思い出じゃないかもって茜が言っていたわ」
「そんなことはねぇけどな?」
「だから…」
突然、俺の顎をグイっと引き寄せられる
何かが唇にあたる感触だけが残る
どれほどかの時間がたった後に有愛は顔を離して呟く
「上書きっ」
キスをされたという事実と気恥ずかしいに思わず顔を手で抑える
いまだに唇の感触が忘れられない
「くそ…っ」
「どうだった?」
「最高でした…」
「ならよかった!」
この場所で俺が決心できていなければ…このエンディングにはたどり着けなかっただろな
そう思うだけで胸が熱くなる
大切なものを強く抱きしめて、一生守っていこうと心に決めた
happy End
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