第2話 懐かしい夢を見た。
箱根を下って、北条五代の拠点となり、関東最大。いや、日本最大級の城となる小田原城に到着した
これによって、一安心となるはずであったが、
「次は土牢かよ・・。」
案内されたのは城の一室でもなく、足軽が住む長屋でもない。半地下の牢であった。荷物は没収されず、荷馬の餌も用意されているところを見るに囚人扱いではないのだろうが、流石に呟きたくもなるだろう。
横柄な足軽から、数日後にお呼びがあるらしいのでそれまでの我慢になるとは伝えられた。数日後といつになるだろうか。そう考えつつも道慶は土牢に入る。
「高い湿度とヘタレたゴザかぁ。」
壁というよりはくり抜いて壁になった土に手を付けると湿気が溜まっているようでベッタリと手につく。床には寝具代わりのゴザが敷いているが見事に湿気でヘタれてしまっていた。昨日までは立場は別としても寺や屋敷でそれなりの寝具で寝ていた道慶としては、このゴザに寝転ぶのはチョットばかり抵抗があった。
しかたない。と、荷馬に乗せていた緩衝材代わりのゴザを外すと地面に敷いて丸くなって寝ることにした。ジンワリと地面の水分が染みてきそうな気がするが、入口や地面からの冷気で震えて眠るよりはマシだろう。本当にマシな程度にではあったが。
『道夫。お前は甘い。何をするにもその場しのぎで理由をつける。』
『
懐かしい。自分がまだ、道慶でも、六八郎でもない時の記憶だ。自分が大学生のときに6つ年上の兄・笠原徳夫から生き方の論争になった時の記憶だろう。懐かしさに溺れるように夢。いや、記憶の続きを見ることにした。
『でもも何も無い。お前は人並み以上に才能や器用さもあるのに人の顔色を伺って、何につけても人のせいにして生きるつもりか?』
『違う!私は誰かに必要とされて、認められたいんだよ。兄ちゃんこそ、悪いことはやめてくれ。義姉さんも金で買ったと言われているんだよ。』
『悪いことはしていない。全て合法なことだ。儲けた金で必要な事に金を使っただけだ。それでオレは足を引っ張っていた親の名字を捨てることができた。相手も生き遅れた娘に婿を取ることができた上に、会社も立て直すこともできた。何が問題だと。』
理由も過程もしらない奴らからの視線か?世間体とかいう責任を取りもしない奴らに対しての体面か?と、タバコを吸いながら兄は責めるように話を続ける。
この兄・徳夫は『徳』の字を持っていながら、社会的品格や大衆の正義感、情などの『徳』が薄い。
『お前はオレたちの親のように自己満足やその場しのぎの親切とやらで身内に迷惑かけるのが正しいとでもいうのか。』
ドン!とテーブルを拳で叩く徳夫。徳夫の言う通り、両親は『すごく親切で良い人』と評価はされていたが、自分たちに負の遺産しか遺さなかった。
自分が大学に行けたのも、生活できたのも兄である徳夫が若さに似合わない敏腕。いや、悪辣とも呼べる手腕のおかげなのは分かっている。
しかし、兄は先程述べた様に、徳が薄い。社会的には成功者と言われる部類であるが、手段を選ばずに社会貢献などクソだ。と、ハッキリいうこともあって評判がとても悪い。
こんな揉め事をしているが、たった二人の兄弟。この部分以外は兄弟仲は良いが、この価値観だけはどうしてもぶつかり合ってしまう。
『兄ちゃんはやり過ぎだ。結果は出しているけど、誰もついてこないよ。』
『人の顔色うかがって生きるよりはマシだ。』
オレにはない好かれる才能や器用さがあるのに・・・。人生を無駄にしやがって。兄は自分の事を考えて言ってくれていたのだろう。
今川の一件で少しばかりの変化がなければ、『自分が良い人になりたい。』『建前に流される』等々の醜い卑怯さを自覚することもなかったろう。・・・改善しきれたとはとても言えないが。
『全ての人間に好かれるわけがあるか。有象無象に情をかけて何になる。誰にもいい顔できるほど人間の度量があるか。お前は自分の事をお節介と思っているだろうが、お前がやっていることは上手く使われるだけ。ただの良い人にしかなってない!』
ああ、懐かしい。この言葉を自分は声を荒げたんだったな。
『悪人になるよりマシだよ!』
『自分のやってきたことを建前や周りへの親切を盾にしている卑怯者よりはマシだ!自分のやりたいことすら決まってないだろうが!大学まで行っているのにな!』
ドン!ドン!と兄弟二人がテーブルを叩いた。
『やりたいことすら行わない人生の何が楽しい!馬鹿め!』
馬鹿め。大馬鹿め。と、言いながら兄は席を離れた。兄・徳夫が『徳』が薄いのであったなら、自分は生き方や行動するための目標などの『道』がなかったのかもしれない。
結局、自分は40歳を過ぎても独身。兄は四人の子どもを育てていたので、生物としても負けていたのかもしれない。・・・なんか比べるところが違うかもしれない。
「・・・・でも、兄ちゃんの言ってた人生の楽しみってのはまだまだわからないなぁ。いや、分かっているけど自覚がないのかも。」
今川で割り切ったつもりだが、まだまだ変わったとまでは言えない。結局、兄の言う通りで良い人であり続けるのは身を滅ぼしてしまうのだろう。
目が覚めてから、寝汗なのか湿気なのかわからないほどベタベタになってしまった道慶は井戸に向かうことにした。
※作者の一言…なんか投稿前に読んでもらう人が増えてしまった。チョットずつ成長させるって言うを書くのは難しいなぁ(遠い目)
2025/02/05 歴史・時代・伝奇の週間ランキング 33位。同日間ランキング 8位になりました。応援・評価等々ありがとうございます。アップダウンがあったり、作者の力不足や資料間違いなどがありますが、これからも前向きに頑張っていきます。
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