祝杯
カルカ様ファン
第1話
ローブル聖王国の春。聖騎士団に新たな人員が補充される時期となりホバンスの酒場で歓迎会を開くことになり、宮廷勤務の聖騎士がここ一同に会してる。
「えー、本日はお日柄も良く、お忙しいところにお集まり頂き誠に」
「カストディオ団長、堅苦しい挨拶なんかやめてはやく始めましょうよ!」
「むっ、そうか?それもそうだな」
聖騎士団団長としての挨拶をぞんざいに扱われ額に青筋を立てるが今夜は無礼講の集まりでもあるため、とっさに気持ちを切り替える。
「今日から仲間となる聖騎士杯!」
「「乾杯!」」
歓声と共に祝杯が挙げられ、ものの数分も経たずに店内はお祭りのような、喧騒に包まれた。
獣さながらのように肉にかぶりつくもの、腕を酌み交わしエールを飲む者たち、上半身裸になりエールをかけ合う者達まで現れる。
「カストディオ団長、こちらでしたか。さすがに半裸の連中は止めた方が良いのでは?」
「あぁ〜…?まあ貸切だしいいだろ。」
「それより飲め、グズターボ。カルカ様からのご好意を無下にするのか?」
「どうなっても知りませんからね…」
祝い金の出し手である国家元首カルカの名を出されてはグスターボも断る訳にも行かずジョッキを手に取り口元へ運ぶ。
「そう心配するなぁ、いざとなればこの私が力ずくで止めてみせるさ」
純粋な力勝負なら聖騎士団の中にレメディオスを止められる者はいない。その言葉はとても頼りにるが、怖くもあると感じ取るグスターボをよそにレメディオスはジョッキの半分はあるであろうエールを飲み干し、次の酒を注文する。
「ああそうだ。ガルバンのやつが結婚すると聞きましたが、ご存知でしたか?」
「いや、初耳だな」
結婚。思えばカルカに忠誠を誓ってから一度も考えたことがないと思い出し、物憂げな表情を浮かべ。いずれ自分も誰かと結ばれる時の来るだろうと思いつつエールをあおる。
「式の準備も整っているので、是非私と団長にも来て欲しいと言っておりました」
「ほうかぁ…ほれはれひ、かねばならんなぁ。おかふぁり」
急に呂律の回らくなったレメディオスに顔がひきつらせ給仕している店主に問いかける。
「マスター、団長は何杯目になる?」
「ん?20杯目くらいか?いっくら貸し切りとは言え、店潰す気じゃねぇだろうな?」
「にじゅ...もうおやめになったほうが」
「グスターボぉ!私の酒が飲めないと言うのかぁ!」
グスターボの頭を両腕で締め上げる。
「の、飲みます!飲ませて頂きますとも!」
ヘッドロックから逃がされ渋々5杯目のジョッキを空にする。
「ふん。生意気なやつだ…」
ちらりと聖騎士達の方へ視線動かす。
「ん?なんかたのしそうなことしてるじゃないか」
視線を動かした先には聖騎士の1人が自分の背丈と同じ高さの酒樽を持ち上げようとするが失敗して尻もちをつく瞬間を目撃する。
「なっせけない聖騎士だ。お前たち、刮目せよ!」
男の聖騎士ですら持ち上げられなかった酒樽を軽々と持ち上げ聖騎士達から歓声の声が上がる。
「すげー!」
「さすが、我らが団長!」
「これくらい朝飯前だ」
部下の聖騎士達におだてられすっかり上機嫌にり、鼻がとんがっているようにすら見える。
「団長!次、アレお願いします!」
聖騎士が指を指した先には4人から8人ほどの人間が使えそうな年季の入ったテーブルだ。
「面白い、やってやろう」
「ふん…ぐぐぐぐ」
ぐらつきながらテーブルの脚が中に持ち上げられていく。
「嘘だろ…」
「団長って本当に人間か…?」
聖騎士誰もテーブルまでは持ち上げられると思っていなかった為、称賛より呆れに近い感想ばかりを持つ。
「うぉっ」
レメディオスは床にこぼれていた酒の水溜まりに足を滑らせ、がっちり抱えたまま後ろへと倒れた。まるでテーブルが恋人だと言わんばかりの勢いでテーブルとともに倒れ、店の窓ガラスを盛大にぶち割りキラキラと夜空のような輝きを放ちながら破片が床に散っていく。
「悪夢だ…」
グスターボがこの世の終わりを見届けるかのような顔をするも、さらに無情な言葉が降りかかる。
「あんたら…しっかり弁償してもらうからな…?」
この後レメディオスを含む全ての聖騎士達は1年間の給金大幅カットと酒場への無償奉仕活動を国家元首カルカから言い渡されるのであった。
祝杯 カルカ様ファン @lolio
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