第42話 撮影所の鉢合わせ
いよいよ10月1日になった。
この日はプレデビューだ。楽曲の1部が情報解禁解禁されて、タイトルとそれから一部のフレーズ、とCMタイアップも発表される。
楽曲情報の解禁と同時に、テレビとラジオによるチョコレートのコマーシャルがスタートする。
プロモーションビデオと同時にコマーシャルビデオを録るため、テレビCMは楽曲の一部を流して商品紹介だ。
本来なら、ミュージックビデオの一部も解禁するべきなのだが、曲の仕上がり、それから振り付けの仕上がりが間に合わず、9月中には撮影まで至らなかったのだ。
そして、甘楽が注力したオフィシャルサイトもオープンした。
こちらも、甘楽及びウェブサイトを管理するエザリコのメンバーの奮闘により、準備万端だった。
10月1日0時00分00秒に、甘楽が自宅からリモートでスイッチを押す。サイトのオフィシャルリリースだ。
それと同時に、各種SNS、およびファンクラブサイト、動画サイトもリリースされた。
また、スポンサーのご好意により、チョコレートの商品サイトからノイセレ関連サイト、オフィシャルサイトへの導線が貼られた。
そして、短文投稿サイト及びショート動画サイトに大きく広告が出稿された。
ターゲットとしている18歳以下の女性及び男性に対し、大きな訴求をするのだ。
事前告知をしていたこともあり、オフィシャルサイトへのアクセスは殺到し、ファンクラブへの入会申し込みも、あっという間に増えていく。
結局、午前0時の解禁にもかかわらず、プレミアム会員は翌朝までにいっぱいになり、一般会員についても、一晩で五万を超えた。
広告会社の仕込みもあり、翌朝のテレビ局の朝のニュースでは、ノイセレ楽曲情報解禁のニュースが一斉に取り上げられた。
デビュー前にもかかわらず、ファンクラブの会員が一晩で五万人と言うのは、前代未聞の記録だった。
そして、それを知った一般メディアも、ノイセレを追いかけ始める。
「まだ準備の段階なのに、すごい人気になったわね。狙い通りよ。」
夜のマンションで、仕事を終えてラフな格好になった智香がニコニコしながらTシャツとハーフパンツ姿の甘楽に言う。
「そうだね。ただ、そのおかげでサイト運営をやってるこっちは忙しくてしょうがない。サイトが落ちないように、臨時でクラウドサーバー増強して、ロードバランサーとかもつけてるのに、それでも落ちそうになってヒヤヒヤしたよ。」
「サイトが落ちない事は絶対条件よ。特にお金が絡むサイトの部分は、1時間落ちると、れだけで収入が何百万円も違ってくると言う事はちゃんと覚えておいてね。」
智香が真剣な顔で甘楽を見つめながら言う。甘楽もうなずく。
智香は続ける。
「この土日は、ウェブはエザリコに任せて、あなたなしでも大丈夫よね?」」
智香は確認する。
「あぁ。エザリコの人達も、張り切ってるよ。ま、かゆい所に手が届くようなFAQも用意しているし、ちゃんと、コールセンターも手配してあるしね。問題ないよ。」
「そう。じゃぁ早く寝ましょう。明日は早いのよ。」
「そうだね、早めに切り上げたほうがいいかな。」
2人はそう言うと、そのまま友香の寝室に入っていく。
誰にも邪魔をされない、2人の時間を楽しみながらも、翌日に支障がないように気を使い、2人は寝落ちするのだった。
翌朝5時に甘楽と智香は起き出し、智香は日程のチェックを、甘楽は軽食の準備をする。
5時半に3人を叩き起こし、出発の準備をさせる。
「とりあえず、コーヒーとジュースがあるから、軽く飲んでおけ。それから朝飯は、スタジオ入りしたら食べられなくなると思うから、とりあえず軽くフルーツだけでも腹に入れといてくれ。
一応サンドイッチも用意してあるから、食べられば食べなよ。」
3人も慌てて準備し、6時15分にマンションを出る。
どうせスタジオでメークするので、全員すっぴんでマスク姿である。
予定通り7時前にスタジオ入りする。今回は、
青山の写真スタジオではなく、世田谷区砧にある撮影スタジオだ。ここは、テレビ番組やコマーシャルを撮るために使われる大きな撮影所だ。
一部のスタジオは、半年間あるいは1年間の貸切になり、番組セットをそのまま置いているところもある。
だが、大部分の場合、番組セットは、毎回倉庫にしまわれる。クイズ番組の回答者の席などは、毎回ばらして倉庫に入っているのだ。
智香は何度も来ているが、甘楽は初めてだ。もちろんノイセレの3人も初めてだ。
みんながあちこちを見ていると智香が言う。
「みんなキョロキョロしない。
あなた方は、これから何度もここに来ることになるんだから、嫌でも見ることになるわよ。」
智香がそうたしなめる。
(なるほど、その通りだな。)
甘楽は思う。
(ただ、俺が毎回来るわけでは無いから、今回できるだけいろいろ吸収しよう。)
甘楽は思う。
そこへ、中年の男性たちがやってくる。
一人はミュージックビデオのプロデューサーだ。もう一人はコマーシャルのほうのプロデューサーと、ビデオのディレクターを兼ねる作田氏だった。
今回はタイアップと言うこともあり、ミュージックビデオとコマーシャルを同時に撮ることにしたのだ。時間がないと言う現実的な理由もある。
「おはようございます!」
3人が元気よく挨拶をする。そして、出来上がっている自己紹介を順番にする。
「よろしくお願いします。」
3人が揃って頭を下げる。
「うんうん、いいね。」作田が言う。
甘楽も2人に挨拶をする。ノイセレプロジェクトの名刺と、フリーのKANNの名刺の両方を出す。
そして作田に言う。
「今日は、ノイセレプロジェクトのメンバーとして来ましたが、業務委託で撮影助手なんかもやってます。これからいろいろお世話になると思いますので、よろしくお願いします。」
この2人は、業界でもそれなりに有名だ。特に作田のほうは、もともとテレビで、お笑いのプロデューサーをやっていったが、トークが面白いので、ラジオ局にパーソナリティーとして出演し、それからフリーになった。
そのため、テレビプロデューサー、ディレクター、動画配信などマルチにフリーで活躍しているのだ。甘楽が目標としている人間の1人でもある。
「今日はADが1人増えたと思ってください。」
甘楽が言う。ADとはアシスタントディレクター、言い換えると現場の雑用係のことだ。
「そうか、でも日当は払えないよ。」
作田は笑みを浮かべながら言う。
「構いません。今日はお試しだと思ってますし。ただ弁当ぐらいは出してくださいね。」
そう言って甘楽は笑う。
「それはもちろんだ。むしろ個数を考えて、君が注文してくれればいい。
どうせ今日の分の予算は、コマーシャルのほうは俺がプロデューサーだから俺が使い方を決めていいし、ミュージックのほうはディレクターだけだけど俺は現場として使えるだけ使う。」
ちなみに、プロデューサーは番組の成否、収支に責任を持つ立場で、ディレクターというのは現場を仕切っていいものを作る立場だ。
平たく言えば、良い品質の物を作るのがディレクター、儲かるものを作るのがプロデューサーだ。
「そう言えば、この前そんなことをラジオでおっしゃってましたね。」
甘楽がフォローする。
「おお、聞いててくれてるのか。ありがとう。、弁当なんて誤差の範囲内だし、ADの一人二人増えたって別に構わない。働き次第だよ。ちなみにADの経験はあるのかい?」
「映像の編集はかなりやってますが、正直なところ、撮影現場の助手は初めてです。ただ、写真の撮影では、青山のスタジオで大塚カメラマンの助手をよくやってます。「
「おお、大塚さんの助手やってるのか。それなら人妻から女子高生まで全部扱えるな。」
そう言って作田は笑う。
「基本的には若い女の子の方が得意です。同世代だとやっぱり向こうも話しやすいみたいですからね。」
甘楽も答える。
「実際それはあるんだよな。この頃は完全に俺の娘の世代でな。娘ともどう話していいかわからないこともよくあるのに、タレントさんだと気を使うからな。
よしわかった。この子たちが何かあったときには君にお願いするよ。」
「その辺は、こいつらのアイス買いに行ったりする使いっ走りに慣れてますから大丈夫です(笑。」
甘楽が言うと、作田が
「そこはチョコレートと言ってよ。
今日はチョコレートのコマーシャルの撮影なんだからな。」
と返してくる。
「そうですね。でもチョコレートは、スポンサーさんのご好意で事務所に売るほどあるんですよ。」
「まぁそりゃそうだろうなぁ。とにかくよろしく。」
作田と甘楽はすっかり打ち解けるのだった。
ノイセレの三人が着替えとメイクをしている間に、甘楽は、撮影所のカメラマン、照明、音響その他、「組」と言われる撮影クルーに挨拶をする。
(こういうのは最初が肝心だからな。)甘楽は思う。
今回の撮影は、学校の教室のセットを使う。本物の学校でロケすることもあるのだが、学校シーンは比較的使うことが多いので、セットとして教室が常時組み上がっている。
進んだ学校では、大画面液晶スクリーンがあったり、ホワイトボードがあることも多いのだが、やはりセットなので、古き良き学校をイメージして、チョークと時計が黒板とセットになっている。
小学校の場合には習字が貼り出されたりしているが、ここは高校なので、単なる連絡事項が貼ってある位だ。
教室での撮影の仕方は大体決まっているので、特にカメラの位置とかが問題になる事はあまりない。
教室全体を撮るときには、後ろの方から黒板に向かって映す。先生が教壇に立ってカメラを向くことになる。
ちなみに、窓は必ず下手(向かって左側)になるような構造にしている。
そして、生徒を撮るときには、前のほうの左右にカメラを置いて、斜めアングルで生徒の顔を映す。
休み時間モードのときには、後ろから撮ることも結構ある。
今回のプロモーションビデオは、前半のソロパートは各自がそれぞれ席で勉強をしている感じで歌う。
そしてその後の全体パートでは、教室の後ろで3人が踊る形になっている。
教壇の上で踊るパターンもあるのだが、この場合には教卓を片付けたりする必要があるので、セットをそのまま使う形で、後ろで踊るようにしている。
ちなみに、このシーンは、プロモーションビデオだけでなく、テレビのCMでも使うことになった。
今回は、3人の衣装は冬服のセーラー服である。ビデオでは全員えんじ色のスカーフをしているが、コマーシャルでは、奈美は赤、爽香は青、杏奈は白のスカーフをしている。
これらは自分のイメージカラーであり、それから商品をより鮮明に引き立てる役割をしている。
それから、プロモーションビデオとCMでは内部のセットを少し変えている。
これは、プロモーションビデオとコマーシャルを比べて、何が違っているかを探させる。間違い探し的な遊び要素を取り入れるためだ。
いろいろ気がついたネット民が、指摘してくるだろう。
誰も気づかないようであれば、公式サイトに、「違う点が10個あります。」とでも書いて謎解きでもさせればいい。
午前の撮影は順調に進み、昼休み時間になった。
甘楽は弁当を3種類用意した。焼肉弁当、塩鮭弁当、サンドイッチの3種類だ。
カメラ、音響、照明などを入れると20人以上の大所帯なので、念のため弁当は30用意した。
余ったら持って帰って食べるつもりだったが、多分余らないだろうとの事だった。余っていると見ると、2つ目を食べる連中が結構いるそうだ。
むしろ、多く頼んだと思っていても、自分の分がないことがあるので、ちゃんと自分の分を確保しろよとまで言われてしまった。
甘楽は、サンドイッチを急いで食べて、ちょっと休憩というか、皆から離れたところで休もうと、スタジオを離れて、自動販売機のあるスペースの方へ向かった。
自分の好きな銘柄の缶コーヒーを買おうと思ったこともある。
自動販売機で物色していると「あの…」とおずおずと言う声がかかった。
甘楽が振り向くと、そこには制服風の衣装を着た黒髪セミロングの女の子が立っていた。
以前原宿で出会った、馬車道43の中川ひとみだった。
彼女に気づいた甘楽は答える。「よう、中川。久しぶりだな。今日はロケかい?」
中川ひとみは花のような笑顔を見せながら答える。
「はい。バラエティの馬車道43のレギュラー番組に1人病欠が出たので、ピンチヒッターで私が出てます。」
「そうか、アンダーライブ頑張った甲斐があったな。」
やさしくねぎらう甘楽。
「ご覧になってくださったんですか?」
ひとみは、驚いたように言う。
ちなみに、アンダーライブとは、いわゆる二軍チームのメンバーで開催するライブイベントだ。
「いや、あの日は行けなかったんだが、SNSで評判をチェックしているよ。ソロパートがすごく良かったって言う評価が、あちこちに書いてあったよ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
ひとみは頭を下げる。
「あと、下谷が倒れたのを起こしてやったんだってな。そういう優しさと機転、危機対応能力も大事だ。そのあたりが役立って、選ばれたんだろうな。」
甘楽は事もなげに言う。
「本当に、ちゃんとチェックしてくださっているんですね。感激です!ありがとうございます。
そのおかげもあったのか、抜擢されてテレビに出てるんです。名前が出る格好で、テレビに露出できるのはとってもうれしいです。」
「そうか。よかったな。爪痕を残せるよう、頑張れよ。」
甘楽は答える。
「あの、約束通り、お名前を教えてください。」
意を決したようにひとみは言う。
原宿で会った時、彼女から名前を聞かれ、甘楽は「名乗るほどの者ではない。現場で会うことがあったら名刺を渡すよ。」と伝えてあるのだ。
「そうだったな。」
甘楽はフリーランスの名刺を出す。
フリーランスで使う名前はKANNだ。
連絡先として携帯の番号とメールを載せている。
ひとみは嬉しそうに言う。
「KANNさんですね。ありがとうございます。あの、KANNさん、メッセンジャーのID交換していいですか、またいろいろ伺いたいんです。」
甘楽が少し考えたが、了解して、IDを交換した。
ひとみは嬉しそうに、スタンプを送ってくる。「よろしくお願いします」と言って猫がお辞儀しているスタンプだ。
甘楽は無難にオーケーと言うスタンプを返す。
「プロモーション用の名刺は持ってるな?今日の日付と、よろしくお願いします、とでも書いて、スタッフ全員に渡しておけよ。」
甘楽はアドバイスする。」
「プロデューサーさんとチーフディレクターさんには渡しますけど、それ以外の人たちにもですか?」
ひとみは不思議そうに言う。
「ああ、そうだよ。番組の絵は最終的にはディレクターが編集してプロデューサーが確認するんだが、その素材を作るのは助手の若手ディレクターたちだよ。
彼らの印象を良くしておくと、ワイプ(顔を切り取って画面の端に映してリアクションを見せるもの)を入れたり、テロップをつけたりするのは現場の若手だ。
彼らに好かれておけば、最終的に映る可能性が増える。
それにな、将来また別の仕事で一緒になるかもしれない。印象はよくしておくべきだ。」
ひとみは神妙に聞いている。
「ありがとうございます。本当にためになります。まだお若いのに、よくご存じですね。」
その時、バタバタと言う足音が聞こえた。 音が近づいてきたかと思うと、「KANN!」と言って、何かが甘楽に飛びついてきた。
柔らかくて、香水の匂いがする。
こんなことをするのは一人しかいない。
甘楽はめんどくさそうに答える。「なんだ、美沙。お前もいたのか。」
メイクばっちりで金髪ミニスカートのギャルがそこにいた。
永伝美沙だ。
「相変わらず冷たいのね。こんないい女に対してひどくない?」
美沙がくっついたままで言う
中川ひとみは面食らった感じで甘楽に聞く。
「…あの、KANNさんこの人は?」
「あぁ、ただの知り合いだ。気にするな。」
美沙が答える。
「ひどいよ、KANN。私に好き、愛してるって言ってくれたのは嘘なの?」
美沙が泣き真似をする。
「お前、嘘はやめろ。そんなこと、一度も言ったことないぞ。あと、暑苦しいから離れろ。」
甘楽は美沙に言う。
金髪ギャルの美沙は、けろっとした顔で甘楽に言う。
「ねえ、KANN、この子誰?他の4人の1人?」
「いや、違うぞ。誤解されたら彼女がかわいそうだ。」
甘楽はきっぱりと言う。
それを聞いたひとみが、
「あの、他の4人って何のことですか?」
おずおずと聞く。
「KANNにはね、女が沢山いるの。こいつ、あーしを含めて、5人もセフレがいるんだよ。」
「え…」
可愛い同世代っぽい女の子から「セフレ」と言う単語が出たことに、ひとみは驚愕する。
「お前なぁ、あまり人聞きの悪いことを言うな。1人は彼女だ。」 甘楽は反論する。
「ほら、墓穴を掘ったわよ。少なくともあーしを含めて4人セフレがいるってことよ。こんな男、やめときなさいよ。
あーしもこれ以上競争が増えてもしょうがないと思うし。」
「美沙、お前なぁ…。他人に対してあまり変なことを言うな。噂が広まっても困るだろう。」
甘楽は呆れてしまう。
ひとみ少し考えていたが、甘楽に対して言う。
「あの、4人も5人も一緒ですよね?」
「中川、自分が何を言ってるのかわかっているのか?」甘楽が呆れて聞くと、
「もちろんわかってますよ。あ。」
ひとみは廊下のちょっと離れたところを見る。
マネージャーらしい男が、美沙を追いかけてきたのだ。
「お嬢様、こんなところにいたんですね。早くお戻りください。もうすぐ出番ですよ。」
「ちっ」
金髪ギャルメイクの美沙舌打ちする。お嬢様らしからぬ仕草だ。
「とりあえず今日はこの辺にしといてあげるわ。あんた、話をこれ以上ややこしくするのはやめなよ。じゃあね。」
そう言って、美沙は手をひらひらと振りながら、マネージャーと一緒に戻っていった。
毒気を抜かれた感じで、ひとみは美沙の後ろ姿を見ている。短いスカートが微妙に揺れている。
「あの、今の人、サンキャンの新人モデルの美沙ちゃんですよね。愛称はミーシャらしいですけど。」
「あぁ。そうだな。よく知ってるな。」
「KANNさんは。女性を口説いてセフレにするのが趣味なんですか?」
ひとみが結構真剣な目で甘楽を見てくる。
「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。特にそんな単語はアイドルが口にして良い言葉じゃない。
美沙だって、俺が口説いたわけじゃない。いろいろあって、向こうから頼んできたんだ。」
「そうなんですね。じゃぁ、他の4人は?」
(何で、俺はこんなことを追及されなきゃいけないんだ?)
甘楽は、心の中で毒づく
「これ以上はご想像に任せるしかないよ。このことについて教えるつもりは全くない。」
「そうですか。」
ひとみは平静な顔で答える。
「そろそろ休憩終わるんで、私も行きますね。また連絡させてください。」
「あぁ、わかったよ。いつでもいいぞ。あ、申し訳ないけど、美沙のことは秘密にしといてやってくれ。
ギャルモデルだからといって、さっきみたいな話は、軽々しく口にして良い話題じゃない。」
「はい、心得ております。」
ひとみは答える。
「では、失礼します。」
ひとみは、綺麗なお辞儀をして去っていった。
(とりあえず、あの3人と鉢合わせしなかったのが不幸中の幸いだな。)
甘楽そうは思いつつ、スタジオに戻るのだった。
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