第40話 鬼たちの帰還


甘楽は夕方6時過ぎにマンションに帰り着いた。


まだ3人は帰っていない。甘楽は安堵して、80年代の洋楽を配信サイトでかけながら、夕食の準備を始める。


(鬼の居ぬ間の洗濯と気分転換を終えて、また鬼を迎える準備だな。)

甘楽は思う。


(本来は、競合するアイドルの曲を聞いておくべきなんだが、1人の時くらいは、リラックスしたいしな。)


甘楽は自分にそう言い訳する。

すると、かかった曲は「プレッシャー」だった。


(…リラックスさせてくれよ。ビリー・ジョエルにしたって他にあるだろうが。)


内心で毒づく。



次は「ビリー・ジーン」だった。マイケル・ジャクソンのヒット曲だ。


(これ、歌詞さえ見なければ悪くないんだけどな…)甘楽は思う。


一応、この曲の歌詞を知らない人のために説明しておくと、だいたいこんな歌詞だ。


「ビリー・ジーンは僕の恋人なんかじゃない。あの女がそう言ってるだけだ。ガキは俺の息子じゃない。」


あちこちにアレをしている甘楽からすると何だかなあ、というものだ。(もちろん甘楽はしっかり避妊しているが。)


次は「セパレイト・ウェイズ」だった。甘楽はジャーニーが好きだ。ボーカルが変わったときのことを映画化kした「ドント・ストップ・ビリービング」も配信で見ているくらいだ。


(何で別れたあとの未練たらしい男の歌が、WBCのテーマだったんだろう?誰の感性だ?)


と、甘楽の精神はなかなかおちつかない。


それでも音楽を聞きながら甘楽は夕食の準備をする。


やっとかかったデビー・ギブソンの曲を聞きながら甘楽は思う。


(テイラー・スウィフトより、デビー・ギブソンの方が好きなんだよな。まぁ、これは曲の好みであって、女の好みではないんだけどな。)


と、誰に言っているのか、わからない言い訳をする。


米が炊き上がっているのをチェックして、甘楽は味噌汁を作る。出汁用のカツオと昆布を水につけて冷蔵庫に入れてあった鍋を取り出し、そのまま火にかける。


最初は中火で煮立てて、出汁をとっていく。



味噌汁の具材としては、舞茸と豆腐にする。


舞茸は一年中手に入るし、使い方のバリエーションも多いので、甘楽はよく使う。


その舞茸からも出汁が取れるので、先に入れて煮詰める。


ある程度経ったところで、火を弱め、昆布は取り出して豆腐を入れ、豆腐を崩さないようにしながら、お椀を使って味噌を溶き入れ入れる。


弱火にして、煮すぎない。


味見してみると、ちょうど良い感じであった。火を止めた甘楽は昆布を細く切り、醤油とみりんに漬けておく。これは後で佃煮にする予定だ。


冷蔵庫から肉をタレに漬け込んだバットを取り出し、肉を裏返す。これも問題なさそうだ。


さらに刻んだキャベツを並べた皿に盛る。それとは別に大きなボウルにサラダを作り、それを小鉢に分ける。


時間があるので、オリーブオイルとビネガーを使ってドレッシングを作る。各種のスパイスでアクセントを付けるが、杏奈の分だけは香辛料を抜いておく。


それとは別に、マヨネーズにケチャップを混ぜ、ドライドオニオンを入れて混ぜておく。皆のサラダにはベーコンビッツとクルトンもかけておく。


後は、白菜ときゅうりの浅漬けを出し、刻んでおく。


(トモ姉が来るんだったら、わさび漬を出して、ビールも並べるんだが、今日も来ないようだから、わさび漬はいらないかな。)


甘楽は智香のことを思う。


デザート用にいくつかフルーツを切って、これも別の小鉢に入れておく。


食後のコーヒーも、セットしておいて、すぐに淹れられるようにしておく。


(うん、こんなものかな。)甘楽は満足する。



ほどなく三人が帰ってきた。


「「「ただいま~」」」


「おかえり。お疲れ様。」


甘楽は笑顔で三人を出迎える。すると最初に入ってきた小柄なツインテールの少女、杏奈が甘楽に駆け寄って、「ただいま」と言いながらハグをしてくる。


そして、甘楽の耳元に何かささやく。


甘楽は三人に言う。

「まずは手を洗っておいで。こっちは肉を焼くからちょっと待ってな。冷蔵庫に麦茶は入ってるぞ。」



甘楽はそう言って、一旦自分の部屋に戻り、着替えてまたやってきた。


さっきと違うエプロン姿である。これから肉を焼くので、エプロンはどうせ必要なのだ


「じゃぁ、肉を焼くからちょっと待ってな。」


甘楽はそう言って、フライパンを熱する。それとともに、あと一煮立ちと言うところで止めてあった味噌汁にも火をつける。換気扇をつけていても、肉やガーリックの焼ける匂いは漂う。


「うわー、いい匂い。ボク、生姜焼き大好き。」杏奈が言う。


「次はお魚も食べたいわね。シンプルに塩じゃけとかいいわ。」爽香が言う。


「サバとかイワシもいいんだけど、イワシなんて、口の肥えた二人には無理そうね。」


なじみが言う。、なじみは、家計の関係で安いイワシやサバをよく食べていた。


「静岡県人を舐めないでよ。イワシだってアジだって食べるよ。黒はんぺんだってあるし。」

杏奈が言う。


「はんぺんって白いんじゃないの?」差y7赤が言う。


そんな話をしているうちに、肉が焼き上がったようだ。


「おーい。できたぞ。」

甘楽が皆に声をかける。


「あ、じゃあ私、ご飯と味噌汁盛り付けるね。」なじみが言う。


「おお、奈美、頼んだよ。」甘楽が言う。間違えないように、学校以外ではできるだけ奈美と呼ぶようにしているのだ。


なじみは炊飯器を開けると、手慣れた感じで、それぞれの茶碗にご飯をよそっていく。


炊き上がってからしっかりかき混ぜて蒸らしてあるので、美味しそうに出来上がっている。


味噌汁は、豆腐を崩さないように、また出汁パックをよそわないようにちょっと注意しながら、お椀によそい、刻んだネギをそれぞれに入れていく。


漬物やサラダの小鉢も冷蔵庫から出して一緒に持っていく。


甘楽はキツネ色に焼けた肉を皿に乗せ、食卓へ持っていく。食卓の上は、杏奈が台拭きでしっかり拭いてランチョンマットを並べてあるし、箸、カトラリーや各種調味料も揃えてある。


なじみが手早くご飯と味噌汁などをランチョンマットの上に並べていく。


「私のやることがないじゃない。」爽香がぼやく。


「うん、ボクとサーシャはもうちょっと修行しなきゃだめだよね。当分は忙しくてそんな暇なさそうだけど。」杏奈は笑う。


食卓の椅子に皆で座り、「いただきます。」と言って食べ始める。焼きたての肉から良い香りが漂ってくる。さやか


爽香と杏奈は、肉をナイフとフォークで切って、上品に食べているが、なじみは箸でつかんで、そのまま食いちぎっている。


肉は柔らかいので、噛みちぎる事は簡単だ。なんとなれば、箸でも切れる。


「ナージャ、ちょっとお行儀悪いわよ。」 爽香が言う。


なじみも開き直る。

「こういうのが育ちの差なのよ。でも、これでいいの。魚豊さんのマンガじゃないんだから。」


「ハモ?」杏奈が聞く。


「いいの。流してよ。」なじみが笑う。



「今日はどうだったんだい?」


甘楽は三人に聞く。


「それがねぇ、ボイトレの先生の性格が悪くてね…。」


こんな感じで和気あいあいと話しながら夕食が進んでいく。


デザートのフルーツを食べ終わり、甘楽は皆に緑茶を淹れる。


「コーヒーもあるんだけど、おこちゃまは眠れなくなるからやめといたほうが良さそうだな。」甘楽が言う。


「緑茶もカフェインはコーヒーと同じくらいあるんじゃなかった?」なじみが突っ込む。


「そうだったかなあ。まあいいや。」


「甘楽くん、緑茶を淹れるときには、もっと急須を何度も上げ下げするんだよ。その方が美味しく濃いのが出るからね。温度はちょっとぬるめ。棒茶なら熱くてもいいよ。」」


杏奈が言う。静岡県人はお茶にうるさいようだ。


「へいへい。」甘楽はそう言いながら杏奈の言うことに従っていく


「「「ご馳走玉でした。」」」「お粗末様でした。」


「甘楽くんの焼いてくれた肉、美味しかったよ~ボクのお嫁さんになtって、毎日味噌汁作ってよ。」

杏奈が甘楽に顔を擦り付ける。


「こら杏奈。はしたないからやめなさい。」

爽香が言う。


「良いじゃん別に。甘楽だって喜んでるよ。」なじみもそう言って、甘楽の背中に巨乳を押し付ける。


「ナージャもやめなさいよ。」爽香が言う。ただ、言いながらも、甘楽の横にまわり、自分も巨乳を押し付ける。むっつりスケベの本領発揮である。


「こら牛女ども!やめろ~」小児体形に近い杏奈が二人を止めようと、それぞれの胸を掴む。


「アーニャ、どうせ揉むなら、バランス良く揉んでよ。」なじみが注文をつける。


「えーい、片方だけ垂れてしまえ!」


「「やめて!」」


例によってなかなかにぎやかである。


(女三人寄ればかしましい、とはこの事だな…)

甘楽は思うのだった。


==============

このマンションは、オール電化ではありません。

ちゃんとガスコンロです。


甘楽の両親はIHとかオール電化は性に合わないようです。


でも結局、忙しくてあまり料理はしませんてした。


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