第38話 鬼の居ぬ間に洗濯
翌日の日曜日も、3人は朝から練習だ。甘楽は、眠い目を擦りながら、6時に起きて朝食を準備する。
寝たのは3時過ぎなので、2時間半程度しか寝ていない。
やり始めた作業を、キリの良いところまでやろうとしたら、そんな時間になってしまったのだ。
3人は、今朝も元気に朝食を食べている。
「甘楽、お洗濯お願いね。」
なじみが当然のように言う。
「ああ、わかった。みんな、ついでにシーツも出しといてくれ。全部洗っとくから。」
「甘楽くん、いつも悪いわね。」黒髪ロングヘア巨乳の爽香が言う。
「サーシャ、パンツはちゃんとネットに入れとくのよ。裏返しのむき出しで一番上に置いとくのやめようよ。」
なじみがからかう。
「こ、この前はたまたまよ間違えただけよ。ただの事故よ。」
爽香がそう言いながら、顔を赤らめる。
そんな二人を、小柄な杏奈が生暖かい目で見ている。
いつもの平穏な朝だ。
「今日夕飯はどうなりそうだい?」甘楽は尋ねる。
三人の夕飯の準備も、甘楽の仕事なのだ。
「今日は食べるつもりよ。たまには、甘楽くんの手作りのご飯が食べたいし。」
爽香が言う。
「サーシャ、自分じゃ手料理作れないくせに!」なじみみが突っ込む。
母子家庭で、いつも弁当を自分で作っていたなじみは、それなりに料理が出来る。
とくに、安価で何とかする節約料理のプロだ。捨てられるキャベツの外皮、大根の葉っぱ、無料でもらえる脂身、弁当売り場においてある醤油やラー油の小袋などを駆使して、ボリュームがあって美味しい料理を作れるのだ。
「ボクも、甘楽くんの料理が食べたいよ。今日は生姜焼きがいいな。」
料理ができない杏奈も言う。
「おう、わかった。じゃあ準備しといて、帰ってきたらすぐ焼いて食べられるようにしとくよ。
7時位かな?」
「そうだね。ボイトレが6時まであるから、7時位だと思うよ。帰りに、何か買ってくるものある?」
なじみが聞いてくる。
「特にないかな。というか、お前たちはあまりウロウロ出歩くなよ。」
甘楽は釘を刺す。
「コンビニぐらいいいじゃん。」なじみはぶーたれる。
「ナージャ、アイドルとしての自覚を持ちましょうよ。特にあなたはモデルデビューしてるし、一番目立ってるのよ。
コンビニでエッチな雑誌見てたりしたら、すぐ盗撮されて投稿されちゃうわよ。」
爽香が注意する。
「今はコンビニでエッチな雑誌なんか売ってないよ。せいぜい、今はナージャのグラビアだよ。」
杏奈が突っ込む
「まぁ、ナージャの水着姿はとってもエロいけどね。」
そう言って、杏奈は笑う。
「とりあえず、生姜焼き準備しとくから、楽しみにしとけ。
タクシーすぐ来るから準備しろ。」
甘楽が促す。
、「え。まだお化粧できてないよ。」爽香が悲鳴をあげる。
「どうせ汗で落ちちゃうじゃん。メイクが流れたサーシャの顔って、鬼婆みたいだよ。」
なじみがけらけらと笑う。
「いいからいいから、とっとと準備しよう。」
杏奈が二人を促す。
(杏奈、お前だけが頼りだ。)甘楽は心の中で礼を言う。
三人が出て行った後、甘楽は一応皆の部屋を確認する。
誰も鍵をかけていない。
一応、貴重品や見られたくないものは、箪笥や机の引き出しで鍵をかけているはずだ。
なじみと杏奈は、シーツや洗濯物をちゃんと自分の洗濯籠に入れていた。
しかし、爽香は、シーツもそのままだった。ついでにパジャマも脱ぎっぱなしで床に落ちている。 床に紙屑もある。
(化粧に手間取ったのかな?)そう思ってシーツをはがそうとすると、シーツとタオルケットの間に、まるまったパンツが転がっていた。
(これ、絶対意図的だな。)さっきのなじみのツッコミを思い出す。
甘楽は全く気にしない。爽香の下着を洗濯ネットに入れる、シーツも剥がす。そして、3人の洗濯物をどう洗おうか段取りを考える。
「家事は段取りが7割よ」
甘楽が小学生のころ、智香が口を酸っぱくして言っていたのを思い出す。
洗濯の順番、掃除の順番、料理の下ごしらえなど、家事はマルチタスクのスケジュール管理が必要なのだ。
(これって、大きなプロジェクトを回すときに絶対に役立つ経験だよな。)甘楽は思う。
智香は、ノイセレのプロジェクト以外にもタレントを管理しているし、社内会議も多い。持ち前の顔の広さからくる芸能人の個人的な相談にも乗っている。
(トモ姉を見習わないとな。)甘楽は思う。
洗濯機は3台あるので、1台で3人のシーツをまとめ洗いする。
ほかの二台で、まずはなじみと杏奈のものを洗濯することにした。
ただし、なじみの色物のポロシャツは色落ちの可能性を考え、別にお湯と洗剤につけて手洗いする。また、ブラウスの襟や袖には部分洗いの洗剤を付ける。
(爽香のものは、杏奈の物が終わってからやろう。三人のを混ぜて洗うには、全部の洗濯物のタグか何かに印をつける必要があるし。)
洗ったあとは、ブラジャーやブラウズなど乾燥機にかけないほうがいいものを取りだす。
その他のものを乾燥機にかける。あと1時間もかからない。ブラやブラウスなどは浴室乾燥機を使う。
洗濯機のスイッチを入れると、甘楽は新しいシーツを出し、皆のベッドメイクをする。
タオルケットの洗濯は来週に回すことにする。
洗濯機を回しながら、甘楽は3人の部屋に掃除機をかける。リビングにはロボット掃除機を走らせる。
気になったので、3人の部屋の脱衣所にも掃除機をかけ、洗面台の鏡についたシミを取り、ついでに3人の浴室の鏡も磨く
排水溝の毛を掃除していたら、浴室の壁と天井のカビも気になったので、ついでにカビ取りもする
そのころ洗濯もできたので、乾燥機を使うものは乾燥機、そうでないものは浴室乾燥機を使うことにする。
洗濯機をチェックし、爽香の洗濯物も洗濯する。
あとはキッチンと廊下にモップをかけて一段落だ。
細切れでウェブのチェックをしても効率が悪いので、まずは家事に専念だ。
乾燥機が止まる前に、近所のスーパーで豚肉やキャベツ、レタス、トマトや果物、生姜、ガーリックなどを買ってすぐに戻ってくる。
戻って爽香のブラウスとブラジャーを取り出し、爽香の残った分を乾燥機にかける。
乾いたシーツにアイロンをかける。
時間はそれなりにかかるが、甘楽はスムーズにこなす。
それが済んだら、浴室乾燥しているなじみと杏奈のブラウスを出してアイロンをかけ、ハンガーに吊るす。
甘楽はほかの洗濯ものを確認する。
(さすがにジャージやTシャツ、ショートパンツにアイロンはいらないよな。)
甘楽は思う。
ただ、ポロシャツとスカートにはアイロンをかけておく。
今日は出されていないが、制服のスカートも丸洗いできるので、その時はプリーツを乱さないようにアイロンをかけている。
(将来、衣装が決まったらその洗濯方法も考えないとな。)甘楽は思う。
(そう言えば、昔はアイロン掛けなんてすごい苦労したなあ。思えば遠くへ来たもんだ。)。甘楽は遠い目をする。
まだ体が小さいときはシーツのアイロンにはとても苦労した。ただ、これも智香に鍛えられたものの一つだ。
爽香のブラウスも浴室乾燥から取り出してアイロンをかける。
(これでよし、だな。)甘楽は洗濯したものをたたみ、各自の部屋のベッドの上に載せる。シーツとタオルはパントリーに入れ、ブラウスは壁のハンガーラックに吊るす。
爽香のパンツは、洗濯物の山の一番上に置いておく。
「さて、これで鬼の居ぬ間の洗濯完了!」甘楽は口に出す。
ウェブの作業をやろうかという考えも一瞬頭をよぎるが、よく考えると、アムールの浅利の作業が遅れているので、これ以上甘楽がやっても、手戻りになる可能性が
「ま、いいか。」
甘楽はそう独り言ち、スマホを取り出し、メッセージを送ると、夕食の下ごしらえを始めるのだった。・
豚肉に隠し包丁を入れて軽く塩コショウをする。
市販の焼き肉のタレにみりんや醤油や調味料を加えて独自の味を作る。
タレに肉を漬け、すりおろした生姜とガーリックを入れる。
あとは冷蔵庫に入れて寝かせる。
キャベツを刻んだり、レタスを洗ってちぎった後にスピナーを回して水気を取ったりして野菜も準備する。
味噌汁用の鍋に昆布一枚とだしパックに入れたカツオの出汁用厚切りを入れて水を入れ、冷蔵庫で寝かせる。
(そういえば米不足だったな。食べ盛りの3人のことを考えると、また買わないとな。弁当のこともあるし。)
そう思いながらボウルで米をといで、炊飯器にセットする。明日の弁当の分も合わせて炊くのだ。
その間に小松菜と厚揚げの煮びたしも出来上がっている。
冷蔵庫が大きいので、すべてを入れてもまだ余裕があるのだ。
水出しの麦茶もセットし、夕食の準備はほぼ完了だ。
(うん、今日の段取りは結構うまくできたな。)甘楽は満足する。
「じゃあ、準備するか。」甘楽には、次にすることがあるのだ。
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ちょっと間の空いた更新です。
文字通り、鬼の居ぬ間に今回は洗濯です粟原
電気代を考えたら一緒に回せばいいのにね!でも混ざると困るので全部に印をつけないと甘楽は気が済まないのです。
味噌汁の出汁を取るのに、前から水の状態で昆布やカツオを浸しておくのは、死んだ智香の母からの教えです。 出汁はしっかりとるのに、焼き肉のたれはちょっと手を抜いてしまった甘楽です。
KACや魔法のiらんどにも投稿してますので、よろしければそちらもどうぞ。
ではまた!
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