第30話 智香と社長
智香は、、芸能事務所アム―ルのウェブサイトを一手に手掛けるエザリコの江沢社長を別の会議室に連れて入り、2人きりになったところで切り出す。
「端的に聞きます。あなたの会社って売り上げどれくらい?」
社長はおどおどしながら答える。
「三億円くらいです。」
「株は社長が持ってるの?」
「はい、100%私の保有です。」
「従業員の数は?」
「20人ぐらいですね。」
「その人数で、機械とかもちゃんと最新のものを揃えてたら、かなり苦しくない?」
「はい、赤字です。」
「節税で赤字じゃなくて、ほんとに赤字って感じかしら?個人保障の借金はどれぐらいあるの?」
「…なんでそんなお話しなきゃいけないんですか?」
社長はちょっと怒った感じで向き直る。
「いいから答えて。悪いようにはしないわ。」
「個人保障で2億円ぐらい借金してます。だからなんですか?」
「その借金肩代わりしてあげましょうか」
「え?そんなことができるんですか?」
社長は驚いて尋ねる。
「会社ごと買ってあげるわよ。そして借金もチャラにしてあげる。社長の仕事はそのままでいいわ。」
「…話がうますぎませんか?それに借金があるとは言っても、株も持ってるんですよ。」
「そうね。純資産はどれぐらいあるの?」
純資産とは、総資産から負債を差し引いたものだ。
「…二百万円す。」
「まぁ債務超過スレスレのとこね。いいわ、現金五千万円であなたから株を買ってあげる。それと借金はこっちで返すわ。つまり、企業価値として2億5000万て買うわ。」
「本当ですか?ぜひお願いしたいです。」
社長は思わぬ話に驚くが、嬉しそうに答える。
「…でも、それには条件があるわ、なんでアムールとこんな取引したのか言いなさい。」
社長はちょっと躊躇していたが、「実は…」と話しだす。
「二十年くらい前ですね。これからは、ホームページが必要だと言うことになった時代に、当時のシステム担当の企画部長、今の上島専務が、仕事をやるから、そのかわり売り上げの2割をよこせと言ってきたんです。
そんなに払ったら、普通の値段でも赤字です。断ろうとしたら、知的財産権をお前らが持つことにすればいいんじゃないか?って。
と提案されたんです。それで、他社さんよりちょっと安くして、知財はウチが持つことで、上島専務に2割キックバックすると言うことで、二十年やってきたんです。
でも、知財を持っていても、換金できなければ、結局1円にもならない。人件費が上がるし、大幅値上げをするのもはばかられる。なので、赤字が続いてるんです。」
「そうなのね。あなたも苦労したのね。あいつに骨までしゃぶられる前に私が気がついてよかったわ。
私が、あなたの会社を買ってあげるから。借金も肩代わりしてあげる。社長は、いままで通り経営してくれたらいいわ。
後で契約書はちゃんと交わすとして、まずは手付金代わりに、五千万円を会社に貸してあげる。
借金返すなり、運転資金にするなり、好きにしていいわよ。
そのかわり、上島のキックバックはやめなさい。」
「もちろんです。そんなもんやりたくもない。」
そこで智香は、スマホを取り出して、どこかに電話した。
「あ、上新です。ここに今すぐ五千万円、ネットバンキングで振り込んでちょうだい。但し書きとして本日付の金銭消費貸借契約によるものとしておいて。
社長、銀行口座の番号と名義を教えてちょうだい。」
「あ、ありがとうございます。〇〇銀行××支店普通預金の0123456です。」
「〇〇銀行×支店の普通預金口座0123456よ。会社名は、エザリコ。
…あ、そうね。そのほうがいいか。今日付でウチからこの会社に対して,五千万円1年間貸し付ける、金銭消費貸借契約を作ってちょうだい。
それから、ウチ、JTコーポレーションで、この会社の株を五千万円で買い取り、個人保証の肩代わりすると言う基株式譲渡の覚書も。相手方は江沢太郎。よろしく。」
智香は電話を切る。
「さぁ、これでよし。
契約が送られてきたら、すぐに印刷して、ハンコ打つわよ。社長のほうはサインでもいいわ。サインしてるところ写真か動画で撮るから、後で嘘だとか言わないようにね。」
「滅相もございません。
でも、なんでそこまでしてくださるのですか?」
初老の社長は不思議そうに聞く。
「私は、このプロジェクトに不確定要素を一切入れたくないの。あなたにも全面協力してもらう。
その時に上島の馬鹿が邪魔してきたりしても困るでしょ。
これであなたはプロジェクト・ノイジーセレニティのチームメンバーの1人よ。
あ、あとアムール全体のウェブのほうももちろんしっかりやってちょうだいね。それから、他の仕事も積極的に受けてちょうだい。あなたは社長のままでいいけど、株主の言う事はちゃんと聞いてもらいますよ。」
「はい、わかりました。」
そうこうしているうちに、メールが届いたようだ。
「ちょっと待っててね」
と言うと、智香は自分の席に行き、携帯から直接契約書を印刷した。
ざっと目を通した智香は「問題ないわね」と言い、会議室に戻る。
「社長一応見てちょうだい。」
社長も契約書を見て大丈夫そうだと判断したのか
「これでお願いします。」と言う。
「じゃあ契約ね。譲渡の覚書は二部。あなたも持っててね。金銭消費貸借契約は一部のみ。私が持ってるわ。コピーは渡します。」
智香は印鑑と朱肉を持ってきてそれぞれにハンコを押す。社長は契約書に持っていた三文判を押し、覚書にサインする。
智香はそこを動画に撮る。そして社長に「これは何の契約ですか」と聞く。社長が「金銭消費貸借契約と株式譲渡の覚書です。私は当社の株を五千万円の現金と2億円の借金の肩代わりで売却します。」
智香はスマホのビデオを切る。
「よくできました。」智香は言う。
智香は電話をかけ、「送金してちょうだい。」と言う。
「土曜日でもネットバンキングが動いてるから、すぐに確認できるわよ。
まぁこれはこれとして、システムの契約は一応このままで良いわ。
ただし、いろいろ細かいことを淀橋が言ってると思うので、それに対して普通の値段で注文を受けてちょうだい。
淀橋に、要望する内容を改めてメールで送らせるから、それに沿った見積もりを出してね。
あと、淀橋が、あなたの会社の、いえ、もうウチの会社ね、兼務する社員として、自分でコードをいじれるようにします。いいですね。」
「はい、わかりました。」
智香は、自分のスマホに来た、ネットバンキングの送金済みの証明を社長に見せて、
「はい、送金終わり。ちょっと時間かかると思うから、後で確認してちょうだい。」
じゃあこれで一件落着ね。向こうに戻りましょう。このことは絶対に秘密よ。上島専務にはもちろん、淀橋甘楽にも秘密ね。
譲渡の詳細な手続きについては、後で別途相談するわ。
これから頑張りましょうね。」
智香がそう言って笑顔を見せる。
社長は、圧倒されたようで、疲れた笑みを浮かべる。
そして2人は甘楽たちが打ち合わせをしている会議室に戻るのだった。
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こんにちは。お急ぎですか。
…バイトしてる子もいるよ。
作者です。
智香の力技が炸裂しました。
会議室でこんなやりとりが行われているとは…
まあ、これも、智香の戦略の一つなんです。
それはさておき、お楽しみいただければ幸いです。
ハート、★、感想いただければ幸いです。もちろんレビューも。
特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。
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