第29話  逆ナンと説教



原宿は、例によって、人でごった返している。田舎臭い女の子、洗練された女の子、それをナンパしようと目論男たち、その辺を珍しそうに、眺める外国人など、様々だ。


中学生や高校生がメインだろうが、大学生位までいるかもしれない。


ちゃんとした社会人と言う格好の人はほとんどいない。いるとすると、何か目的がある人たちだけだ。


大人は観光客か、妙なファッションをした人が多い感j9位だ。


人波を眺めているだけでも楽しい。甘楽は人間観察を続けていた。


すると、女の子たちが声をかけてきた。


「ね、お兄さん、お茶でもしない? ご希望あれば、もっと楽しいことしてもいいよ、誰を選んでもいいから。」


見ると、なかなか可愛らしい女の子たちが3人いる。目がつり上がった。金髪のギャル、おとなしそうな黒髪のセミロングの女の子、そして茶髪でアホ毛を立てた、垂れ目の女の子、この3人だ。


「間に合ってるよ。」

甘楽は冷たく答える。


「何よそれ。こんな可愛い子たちに声かけられて、まともな反応もできないの。


むしろ、男の子だったら、こんなにカワイイ私たちに、そっちから声をかけてしかるべきでしょう!」


最初に話しかけてきた金髪ギャルが挑発的に言う。


甘楽は答える。


「お前たち、ここが拠点じゃないだろ。休みの日にこんなところまで来て、スカウト待ちかあるいはナンパ待ちか?やめとけよ」。


ギャルが言い返す。「そんなの私たちの勝手でしょ。興味ないならまぁいいわよ。」


甘楽は、3人をじっと見て言う。


「お前ら、馬車道のアンダーだろ。休みの時に気分転換するのをはダメとは言わない。たが、チームの評判を貶めたりする可能性がある事はやめとけ。」


アンダーとは、アイドルグループのメンバーだが、後ろで踊る「その他大勢」のことだと思えばいい。


「へー、あなた、私たちが誰だかわかってんの?」

女の子は興味深そうに言う。


「あぁ。お前は馬車道5期の上山、それから同期の中川、小谷だな。


次の曲の選抜から落ちて、憂さ晴らしか?  来月にはアンダーライブもあるだろうに。」


アンダーライブとは、アンダーのメンバーだけで行うライブだ。観客も少ないが、一部のファンは、ここから上に昇っていく子を探そうとしている。



「ほんとに知ってるんだ。私たちも捨てたもんじゃないわね。」


ギャルの上山が嬉しそうに言う。


「だからこそ、グループの評判を落としそうなことをやめとけ。


スカウトされて断るとか、ナンパされて断るのを、快感に覚えるなんて、幼稚で最低だ。


大体、スカウトされるなんて事は、芸能人だったら恥だぞ。自分が知られてないってことの証明だからな。


それに、下手にナンパなんかされてついていって、変な写真でも撮られたらどうするんだ。売れる前の遊びだとしても、後で出てくると大変だぞ。


蓑田のラブホ写真流出は知ってるだろ。あれなんかもみ消すの大変だったんだからな。」


「へぇー、ほんとに関係者なんだね。うちの事務所の人?」


ギャルだけでなく、他の2人も興味深そうに聞いている。


「よく考えてみろ。オフの日があるからといって、今のセンターの津保沙織が、原宿でナンパなんかするわけないだろ。


気分転換以外はしっかり努力しているのか。 特に、売れる前はな。


先輩たちを見ろ。デビュー当時には、あの赤石芽衣でさえ、マヨラーを名乗っていたこととかお前ら知っているか? みんないろいろ個性を出そうと努力してたんだよ。かわいいからって、何もしないで引っ張りあげられるわけじゃない。」


甘楽の話は続く。


「大体、馬車道に入るって事だから、かわいいなんて前提だ。そんなのはスタートラインでしかない。その先、どんな個性を持って、周りにアピールするか、そんな勝負なんだよ。


こんなところで油売ってないで、自分を磨くことを考える。」



照れ目のの女の子が、不満そうに言う。

「お説教はたくさんよ。私たちだって悩んでんだから。」



この3人は、グループには選ばれたけど、芸能界のコネはないし、親の権力もないのだろう。

何をすればいいのか?


「どうすればいいかなんて、そんなの自分で考えろ。



先輩たちを見ろ。生山みたいに特技のピアノを磨き続けて、地位を確立したやつもいるし、他にも、例えば漫画やゲーム好きを売りにするやつ、将棋好きを打ち出して、将棋クラスタに受けて、テレビ番組で解説までやるようなやつもいる。


みんな、自分の好きなことで、努力してるんだよ。」


「あの、何でもいいんですか?」


2番目のおとなしそうな子、中川がふと聞いてくる。


「相手に印象づけることが大事だ。


ただな、世の中残酷なことに、存在するだけで目立ってしまう奴がいる。それは、可愛い可愛くないの問題じゃない。


持って生まれた天性のものだ。


昔の前山敦美は、平均的でしかなかったのに、長年センターを務めた。


田駒玲奈だってそうだ。秋田の田舎者お姉ちゃんのように見えるが、きらりと光るものを持っていることを関係者みんな認めたんだ。だからセンターに自然と選ばれたんだ。


メンヘラで問題起こしてグループ解散まで引き起こした平江だって、あいつは目立ってみた。あいつを使うしかなかったようなもんだよ。」


甘楽の話が止まらない。



中川ひとみ、お前には、その輝きの片鱗があるんだ。こんなところで油を売らないで、自分を磨け。」


甘楽は他の二人に向き直る。


「お前ら雑魚2人は、中川の光を妬んで、足を引っ張ろうとしてるのかもしれないが、そういう事はやめろ。」


「何よ。そんなつもりじゃないわよ。私たちはお互いに励まし合ってるだけなんだから。」


甘楽は容赦ない。

「本当にそうか?中川、お前、本当は何かやりたいことがあったのに、無理矢理この2人に誘われて出てきたんじゃないのか?


例えば、さっきな、俺が逆ナンパに付き合って、ついでにこいつらがお前を売って、俺がお前をホテルに無理やり連れ込んだとしよう。


それがばれたら、それこそお前の芸能生活は終わってしまう。こいつらは、そんな危険なことをお前にやらせたかもしれないんだぞ。」


中川の顔が、引きつっている。


2人は、決まり悪そうな顔をしている。



「お前らも、アンダーで終わりたくなかったら、いろいろ努力してみろよ。


あれだけ周りに嫌われてる春本冬美だって、ちゃんと自分の地位を確立してたろう。やり方はあるんだよ。」


「業界人と寝るとか?」ギャルの上山が聞く。


「それは最低な選択だよ。そんなことをすると、業界の他の関係者からは白い目で見られる。あるいは寝ることを前提にして、一回だけ出してもらって、その後は何もなくなる。


その割に業界で評判が広まって、変な仕事の声がかかるようになるからな。やめとけ。


雑誌のカメラマンと不倫関係を続けても、平気な顔で今でも芸能活動やってる杉村なんてのもいるが、あれはまた例外だ。


あれは男たらしだ。あいつに言われたら、何をしても許してしまう。まぁ、キャバクラのトップのお姉ちゃんみたいな感じだな。あんなの参考にするんじゃない。


そんな当たり前のことがわかんなければ、アンダーのままで一度も前に出ることなく、引退になるぞ。」


お説教はたくさん、と言われたのに甘楽の説教が止まらない。



「考えてみろ。もうすぐ六期だって入ってくるんだ。六期の可愛くて努力してる子たちが、怠けるお前らを追い越していく。それでいいのか?」



真ん中にいた中川と言う女の子が甘楽に対している


「アドバイスありがとうございます。とてもためになりました。


あの、お名前は?」


「名乗るほどの者じゃない。まぁ、もし現場で会うことがあれば、名前は教えよう。


名刺を渡せる日を楽しみにしてるよ。」


甘楽はそう言って笑う。



中川は、甘楽に対して再度礼を言い、2人に対して「私帰るね。」と言って、足早に駅の方へ向かって行った。


2人が、気まずそうな顔をしていたが、ギャルの上山が「なんか白けちゃったね、帰ろうか。」と下谷に促し、2人も帰っていった。


甘楽は、何事もなかったように、また、人々を眺めるのだった。



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こんにちは、お急ぎですか。

バイトしてる子もいるよ!


作者です。

第15話をお届けします。

今回は甘楽が熱く語ってしまいました。

アイドル論ですね。


よろしければ、先日投稿したエッセイもご連ください。

ちーちゃん


https://kakuyomu.jp/works/16818093094556445602/episodes/16818093094556827210



続きは…待つ間に★や??でもつけてくださいね(笑)


お楽しみいただければ幸いです。

ハート、★、感想いただければ幸いです。

特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。






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