第27話  4人の朝



翌朝、甘楽はスマホの着信音で叩き起こされた。時間は6時。発信者はなじみだ。


甘楽は眠い目をこすりながら、朦朧としたままで電話に出た。


「…はい。なんだ。」


寝起きで不機嫌である。


電話から、なじみの明るい声が聞こえる。


「ヤッホー甘楽、良い朝だね。」


「お前に起こされるまでは気持ちよく眠ってる、いい朝だったんだがな。」


「甘楽、今からそっちに行っていい?」


「こんな朝っぱらから何の用だ?」


「もちろんアレだよ。一晩経って回復したでしょ。私だけ蚊帳の外は寂しいんだもん。」


「お前なぁ…。俺は今日用事があるんだ。それにお前らの朝飯だって作んなきゃいけない。わかってるだろ、それは?」


「うん。だから今電話したんだよ。朝ご飯の準備は7時からで間に合うでしょ。それまでねね。」


「お前な…」


「智香さんに、私のケアも頼まれてるでしょ?その一環よ。お仕事お仕事!」


「…わかったよ。だが7時前までだぞ。ドアを開けてやる。」


甘楽はそのまま玄関に行き、ドアを開けた。パジャマ姿のなじみが隣のドアから出てくる。


なじみは顔を綻ばせながら、甘楽の所へやってきて、無言で部屋に入ると、ドアを閉めた。


「おはよう。、早くベッドに行こう。」


「お前、ずいぶん性格変わったよな。」

甘楽はちょっと嘆きながら言う。


「私を変えたのは甘楽でしょ。責任とってよ。」


「…杏奈が、お前を淫乱と言った意味がよくわかったよ。」


甘楽はそう言いながら、なじみを、自分の新しい寝室に連れて行った。


今までの部屋には、甘楽の撮影や編集の機材が沢山あるので、ベッドは空き部屋に移したのだ。


「じゃぁ、60分一本勝負ね。」


「いや、45分だよ。こっちにだって都合というものがある。」


「何でもいいよ。じゃぁスタートね。」


そう言いながら、パジャマ姿のなじみは、甘羅に抱きついできた。


☆彡



時計のアラームが鳴る。

タイミングよく、2人とも達したところだった。


甘楽はなじみに言う。

「時間だ、とっとと部屋に帰れ。2人に見つかると面倒だぞ。」


「ひどいわ。甘楽って私をヤリ捨てる極悪非道な男ね。」


「朝っぱらから人を叩き起こしてヤラせるお前のほうが極悪非道だろ。 とにかく戻れよ。」


「まぁ、時間ないのは、認めざるを得ないよね。とりあえず満足したし、一旦戻るよ。朝ご飯よろしくね。」


なじみはそう言うと、パジャマの上着を羽織って、自分たちの部屋に帰っていった。


甘楽がふと見ると、ベッドの上には、なじみのパジャマの下と、脱いだパンツがそのままになっていた。


後で洗濯してやらなければ。甘楽はため息をついた。


甘楽は、コーヒーを先にセットし、手早くシャワーを浴びる。


冷蔵庫から野菜を出して洗い、手早くちぎったり刻んだりして野菜サラダを作ると、4つの小鉢に盛り分ける。


みんなで一緒に食べる必要がないので、とりあえず冷蔵庫にしまう。別にメインとしてツナサラダを作ろうと思う。


ツナ缶を開けると、ボウルに開けてほぐし、みじん切りにした玉ねぎとセロリ、あとパセリの粉とドライオニオンを加える。


マヨネーズとブラックペッパーで味をつける。


少しだけ胡麻油とオールスパイスを隠し味に入れて混ぜれば完成だ。


ドレッシングは出来合いのもので良いだろう。ついでに、サラダのトッピング用に、クルトンとベーコンビッツを小鉢に入れておく。


パンは食パンとバゲットがある。バゲットは自分で切ってもらおう。


クロワッサンもある。


とりあえず、自分の分だけをダイニングに出し、トーストを焼く間にコーヒーを淹れる。


焼き上がると、ちょうど8時だ。玄関のドアベルが鳴る。


開けると、小柄な美少女の杏奈が立っていた。ポロシャツにミニスカートで、髪もきちんとツインテールにしている。このままでも外へ出られそうだ。


「甘楽くん、おはよう。ボク、一番乗りだね。」


「ああ、おはよう。杏奈は時間通りに起きてきたな。朝飯できてるからな。」


杏奈は中に入る。


「食パンとバゲット、それからクロワッサンがあるけど、どれにする?杏奈は最初だから、どれでも選んでいいぞ。」


甘楽が言うと、

「相変わらず女子力高いなぁ。じゃあボク、バゲットをちょっと温めて食べるから、自分で切るね。」


「おお、そうしてくれ。コーヒー入ってるけど、杏奈は紅茶のほうがいいんだよな。アールグレイでいいか。ティーバッグだけど。」



「うん、お願い。ついでにミルクもちょっと温めてね。」


「わかった。アールグレイにミルクはちょっと邪道だって言う連中もいるけどな。」


「そんなことないよ。おいしいし、イギリス人だってミルクティーでアールグレー飲むよ。知ったかぶりの偏見か、古臭い原理主義者の言い分だね。」


そう言いながら、杏奈がバゲットを切り、甘楽のトーストを出して、代わりに自分のものを温める。


その間に甘楽はティーポットを温め、アールグレーを淹れる。ミルクは少量をポットのお湯で湯煎する。


2人で向かい合って座り、「いただきます」と言って食べ始める。


「ツナサラダって、簡単なはずなのに、このツナサラダはいろいろ入ってるんだね。さすが甘楽くんだね。」


「褒めてもこれ以上何も出ないぞ。」


「朝からナージャに出しちゃったからでしょ。」

そう言って、杏奈はニヤリと笑う。


甘楽は黙り込む。


「いいよ、甘楽くんのせいじゃない事はわかってる。あの淫乱娘、やっぱり我慢できなかったんだね。


後でこっそりとっちめておくからね。」



「程々にな。お前たちの仲が悪くなったら困るからな。」


「それは大丈夫だよ。むしろ心配なのは、サーシャだよね。あの子、ちょっと間違えると、甘楽くんに依存しちゃいそう。


普段気を張ってる分、ストレスも溜まってるんだよね。うまく気分転換させてあげないと、甘楽くんにまとわりつくストーカーとかメンヘラになっちゃうよ。」


「俺もちょっと実は心配してるんだ。爽香の、昨夜の乱れ方もすごかったしな。」

甘楽はうなずく。



「まぁ、ボクたちである程度何とかするから、甘楽くんは時々サーシャに軽いスキンシップしてあげてね。」


「ああ、わかった。しかし、3人の中で、実は杏奈が一番みんなを思いやっている感じだな。頼もしいな。」


「えへん。やっと気づいたか。」


杏奈がそう言って、平たい胸を張る。


「ご褒美に、膝の上で食べさせてよ。」


「… 2人には内緒だぞ。」


甘楽はそう言って、杏奈の席に座り、そして膝の上に彼女を乗せて、両手で後ろから杏奈をハグする。


「うん、最高だね。」


甘楽から顔は見えないが、杏奈が会心の笑みを浮かべているのは確実だった。


杏奈が食べ終わる頃、玄関のドアベルが鳴る。

やってきたのは爽香だった。


「おはよう。爽香、髪型決まってるね。かわいいぞ。」


そう言うと、爽香は顔を赤らめる。


そして爽香は、「やった!しっかり手入りした甲斐があったわ。」と小声で言うが、2人に丸聞こえである。


甘楽は苦笑しながら、彼女の手を取り、部屋に迎え入れた。


爽香はクロワッサンを選んで、トースターで少し温めると、コーヒーを注いだ。


甘楽は、杏奈の使った皿を片付けると、冷蔵庫からみかんを出して杏奈に渡し、冷めてしまったトーストを1枚温め直す。爽香には野菜サラダを出す。


「何、杏奈は一人で食べてて、甘楽くんのトースト冷めちゃってるの。」


「甘楽くんは、自分で食べるより、ボクに食べさせる方が好きみたいだよ。」


杏奈そう言って、笑う。


「こら、杏奈、適当なことを言うんじゃない。それより爽香、バターとジャムもあるぞ。


ただ、そのツナサラダを1口食べてから、どうするか決めてくれ。クロワッサンツナサンドという手もある。」


「わかったわ。」爽香はうなずいて、ツナサラダを一口食べてみる。


「なにこれ。私が作るツナサラダと全然味が違うじゃない。どうしたらこんな味になるの?」

爽香は驚いたように言う。


「甘楽くんのボクに対する愛情が籠もってるからだよ。サーシャが食べるのはその残りカスさ。」



「こら杏奈、適当なことを言うんじゃない。そんな難しいレシピじゃないからな。


そんなことより、沢山食べてくれよ。

爽香は特に、体が大きいんだから、しっかり食べないとな。」


爽香は、野菜サラダの上にツナサラダをのせて、ツナサラダをドレッシング代わりにして食べる。


クロワッサンには、別にジャムもつけている。


満面の笑みを浮かべる爽香は、とても幸せそうだ。


杏奈はおかわりの紅茶を飲み、みかんも食べ終わった。



そこへ、なじみもやってくる。Tシャツとショートパンツ姿だ。髪の毛はボサボサのまま、化粧はしていない。それどころか、目やにがついている。


「おい、なじみ。せめて顔ぐらい洗ってから来いよ。」

甘楽が注意する。


「えー、いいじゃん。朝ご飯食べたら、どうせシャワー浴びるから、その時一緒に顔も洗えば合理的でしょ。水道代の節約にもなるし。」


「…それって、女捨ててるわよ。」

そう言って、爽香がたしなめる。


「いいのよ、アイドルの顔をするときにはしっかりするから。オフのときにはだらけだって許容範囲よ。」

なじみは開き直る。


「いつもきっちりしてないと、いざと言う時にきっちりできないわよ。」


「そんなピリピリしてると、ストレス溜まって禿げるよ。」


横で、杏奈がニヤニヤしながら見ている。


「おい、お前らやめろ。」「甘楽が注意する。


「俺はあと30分で出るから、食べた食器は、各自洗っておいてくれ。まぁ、2人分だけど、皿洗い機を使っても良いぞ。洗剤はシンクの下にあるから、スプーン半分な。


あと、洗った食器は拭いて片付けてくれるとありがたいが、場所がわからなければそのままでもいい。じゃあな。」


甘楽がそう言って、自分の部屋に戻る。


その後ろ姿を、三人はじっと見つめるのだった。





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こんにちは、お急ぎですか。

〇〇〇〇が戦えと言ってる。


作者です。

なじみがどんどん…

そうなるんですよ。

だってこのタイトルたもの…(笑)

爽香を気遣う杏奈が素敵です。

なじみはちょっとアレですが…


続きは…待つ間に★や??でもつけてくださいね(笑)


お楽しみいただければ幸いです。

ハート、★、感想いただければ幸いです。

特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。





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