第15話 再会そして


カメラマンの大塚から助手を頼まれた甘楽は、例によって青山のスタジオに向かっていた。

別の雑誌の撮影があるのだが、助手の都合が急につかなくなったので、手伝ってほしいとのことだった。


甘楽としては、経験を積めるし、悪くない機会だ。

金には全く困っていないが、業界スタンダ―ドの日当をもらう。 


これは業界の所得水準を維持するため、自分以外の人たちが食えるようにするため、必要なことなのだ。下手に無料でやるのはその人たちに迷惑なのだ。


甘楽が割り引いたり無料で受けてしまうと、同業の若者にも同じことが要求されてしまい、結局業界のためにならないのだ。


甘楽がスタジオに着いて程なく大塚もやってきた。

「今日はよろしくお願いします。」甘楽が挨拶する。


「ああ、よろしく。あ、時間があったらモデルを撮るのはかまわんが、必ず本人か事務所の承諾をもらうことな。あと、当然のことながら外には出さないこと。」


「わかりました。」甘楽

まあ、常識の範囲だな、と甘楽は思う。


「モデルさんのお出ましだな。新人だよ。」

大塚カメラマンが言う。


女の子がやってきた。

後ろに4人のスタッフを従えている。


大塚に、スタッフが挨拶しようとしたその時だった。


「KANN! また会えたね! 嬉しい!」


びっくりマークを重ねて女の子が大声をあげる。


「おう、ミーシャか。元気そうだな!」

甘楽は答える。


「KANNってカメラマンだったの!嬉しい!可愛く撮ってね。」


ミーシャは媚びるように甘楽の顔を覗き込む。


「ま、今日は助手だけどな。時間あれば俺も撮ってやるよ。」


「え~KANNがメーンじゃないの? まあいいや。KANNもちゃんと撮ってね」


ミーシャは笑顔で言い、スタッフとメーク室に消えていった。



「何だお前ら、知り合いか。」大塚が聞いてくる。


「ええ、ちょっとした知り合いです。」甘楽は答える。



「そうか。それなら、モデル初体験でも、知り合いのお前がいるからやりやるいな。」



撮影はスムーズに進んだ。


大塚の撮影が終わる毎に、ミーシャこと英伝美沙は甘楽にも撮ることを求めた。


「お前の方が沢山撮ってるんじゃないか?」大塚がぼやく。


撮影が終わり、美沙の事務所の人間は仕事に戻ったが、編集部の森永と美沙、カメラマンの大塚と甘楽、4人で早めの夕食ということで中華料理を食べた。


大塚はいう。

「まだ飲み足りないな。森永さん、飲みに行きましょう!」

「いいですね。でも美沙ちゃんを放っておけないでしょう。」


「そんなの、KANNに任せればいいんですよ。若いもんは若いもん同志で!」

「それもそうですね。KANN君、頼めるかい?」


「はい、構いません。」

「あーしもいいよ~」


大塚と森永がタクシーで六本木へ向かう。


甘楽は美沙にいう。

「さあ。どうする?」


美沙が答える。

「行きたいところがあるの。」


「どこだい?」


「ラブホ。」







時は少し遡る。美沙と甘楽が初めて会った日のことだ。


不思議なイケメン、KANNと別れてすぐ、月刊サンキャンの森永にスカウトされた美沙は、「いいよー。ただ、事務所に話を通してね。」と伝えた。


森永と別れてすぐ、美沙は事務所に電話をする。

「あーし、サンキャンに出るからね。編集部の人と話付けたから、スケジュール調整よろしくね。

春日井さんが全然仕事くれないから、あーしが自分で取ってきたよ。」




電話を切った事務所の春日井は、溜息をついた。


「ああ、さすがにもう断り切れないなあ。永伝会長に謝らないと。」


実は、永伝美沙が所属する芸能事務所は、エディー・オンという名前で、当初は歌手や音楽家を扱っていたのだが、そのうちモデルなどにも手を広げている。


ただ、美沙の父親、永伝音彦は、エディー・オンの会長であり、もっと言えばその親会社、エイデングループの総帥だった。



娘を溺愛する父親は、娘の美沙が芸能活動をしたい、と言ったときに条件を付けた。それは、グループの傘下であるエディー・オンに所属することだった。


美沙は了承したが、最初にちょっと広告のモデルの仕事があっただけで、その後は何もない。


事務所のモデルのリストには載っているのに、仕事が来ない。

美沙は、春日井が無能だからと思っていたが、実は違った。 美沙には人気があったが、父親の意向で、仕事はすべて断っていたのだ。



業を煮やした美沙は、事務所に所属しても参加できる、アムールのアイドルユニットオーディションに応募した。


しかし、春日井からは、落選と言われた。


失望した美沙は、オーディションで仲良くなった3人とのグループラインにメッセージを送ったが、すべて既読スルーだった。


誰もその後の書き込みをしなかった。



実はオーディション落選も春日井の差し金だった。


アムールから内定を告げられたが、付帯条件をのめない、と言って断ったのだ。


条件はいくつかあったが、寮に入ること、それから高校を転校することの2つが飲めなかったのだ。

自宅からの引っ越しは父親の意向で絶対に無理だ。

また、美沙の通う女子高は、やはり父親が理事に入っている。ここからの転校もありえない。



というわけで、春日井は自分の仕事を立派に果たしている。ただ、美沙からの不信の目は避けられない。


だが今回は、美沙が直接雑誌の編集と話をつけてしまっている。


これを断ると、さすがに春日井のせいだということになり、そのまま、父親へのクレームになるだろう。


もし父親が雑誌の話を断ったら、美沙のことだ、「パパ嫌い!家出する!」とか言いそうだ。

そんなことをされたら、永伝総帥が心労で倒れてしまう。


となれば、父親も受け入れるだろう。 どうせそうなるのであれば、自分の段階でOKするしかない。

そして永伝総帥に理由を説明するしかないのだ。


春日井は総帥に第一報を入れた。

詳細はアポイントを取って、と言うことになり、その面談報告がちょうど撮影日の夕方になったのだ。そのため、春日井は美沙をサンキャンの森永に託し、現場を後にしたのだった。





サンキャンのモデルに決まり、美沙はウキウキだった。

先日会ったナージャこと野間奈美がエイティーンのモデルになっていたが、サンキャンはそれと並び称される雑誌だ。



しかも少しギャル色が強いため、むしろ美沙にぴったりの雑誌でもある。


美沙は思った。

(雑誌に出たら、KANNが気づいて、連絡くれるかな?でも、縁があれば会える、って言ってたし、向こうから連絡はないかな。


もし本当に縁があって会えたら、その時はどうしよう…



そして撮影当日、現場でKANNに会った美沙は、決意を固めていた。

いろいろ写真を撮ってもらい、間柄を近づけた。


そして好都合なことに、うるさい春日井もいなくなった。

チャンスだ。そしてKANNと二人きりになった時、美沙は勇気を出してKANNに告げた。



「行きたいところがあるの。」


「どこだい?」


「ラブホ。」

勇気を出して告げた。




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こんにちは、お急ぎですか。

〇〇〇〇が戦えと言ってる。


作者です。

第15話をお届けします。


え?こうなるの?とお思いのあなた。

そうなるんですよ。

だってこのタイトルたもの…(笑)


続きは…待つ間に★や??でもつけてくださいね(笑)


お楽しみいただければ幸いです。

ハート、★、感想いただければ幸いです。

特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。










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