第14話 歩道橋の出会い
甘楽はその日、原宿で人間観察をしていた。
スカートの短い、若い女の子が多い。
ただその中に、垢ぬけて可愛い子、化粧がうまい子、田舎から来たことがまるわかりの女の子など色々いて、観察しているだけでも飽きない。
たまに二人組の女の子がしめし合わせて逆ナンしてくることもあるが、甘楽は塩対応だ。
そんな二人とお茶するよりは、もっと沢山の女の子を見ていたほうが面白い。
ふと、視線の隅に気になる動きがあった。
後ろ姿の小柄のギャルが、何だかおぼつかない足取りでふらふら歩いている。
なぜか気になった甘楽は、ゆっくり後を追った。
その女の子は、ふらふらとおぼつかない足取りで歩道橋を上り、真ん中あたりで下の車道を見ている。
と思うと、柵を乗り越えそうになっている。
甘楽は急いで歩道橋の階段を駆けのぼり、その子の背中から抱き着いて引っ張った。
彼女が手を離したので、勢い余って甘楽はその女の子を抱きしめたまま、背中から倒れた。
ドン、と鈍い音がする。甘楽にはショックがあったが、背中を打っただけで、頭は大丈夫だった。
「ちょっと、何やってるの!」その女の子が怒る。
「いてててて…」
甘楽は痛みで苦しむ。
「ちょっと、離してよ。手をどけて!」
ふと気づくと、甘楽は彼女の両方の胸を背中からわしづかみにしていた。
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。」
「そんなつもりって、どんなつもりよ!」
ギャルがいう。
「えっと…」甘楽はごまかそうと考える。
「ねえ、君可愛いね。お茶でもしに行かない?」
自分でも呆れるくらいベタな発言である。
「何よそれ!」彼女はまだ怒っているようだ。飛び降りようとしたことはもう忘れたらしい。
「いやあ、後ろから見てもカワイイ顔をしてるから、つい抱き着いちゃって。」
「何それ。あーし、後ろに顔なんかないよ。」
女の子はそう言って笑った。
よく見ると、背は低く、化粧も濃いが、実際にカワイイ顔をしている。
サラサラした金髪は肩のあたりで揃えられている。
目元にラメが入っていたり、爪も飾っていたりする現代風のギャルだ。
胸は巨乳だ。これが上げ底でないことは、先ほど甘楽が自分で確かめている。
「いやあ、後ろから抱き着きたくなるようなカワイイ子だね。ついでに胸も大きいと来たもんだ。」
甘楽はちょっとおどける。
女の子はちょっと苦笑いしている。
さて、とりあえずここから逃げようか、と甘楽が思ったところでそのギャルが甘楽と腕を組んできた。
「何だい?」
甘楽が言うと、
「お茶しようっていったのはあんたでしょ。あーしの胸も触ったんだから、奢るくらい当たり前っしょ!」
そう言って平気で胸を押し付けてくる。
(巨乳は確かだな。可愛いが、ちょと間違うとウザ絡みしてくるタイプだな。
飛び降りようとしてたけど、特にダウナー系ではなさそうだな。)
甘楽はいろいろ考える。
近くのカフェに入る。
そのギャルは、メニューも見ないで「カップルバフェと、ラヴァーズノンアルハートカクテル」とオーダーした。
程なく、巨大なパフェと、赤と青の混じったグラスが運ばれてきた。パフェにはスプーンが二つさ去っており、カクテルにはハートの形が真ん中についたストローが刺さっている。
ちなみに、ストローは吸い口が二つついていた。
「こりゃ、本当にどっちもカップルのようだな。」
「でしょ。あーし、これ食べたい気分だったんよ。」
はしゃいでテンションも高い。
これならもう大丈夫だ。
甘いものがそれほど好きではない甘楽だが、このパフェは甘さが控え目で、フルーツも多く、なかなかいける味だった。
カクテルはストローを二人で吸うと、ハートの中にカクテルが流れ、色が変わるという代物だった。
両方を片付け、やっと落ち着いたところでギャルがぽつんと言う。
「さっきは助けてくれてありがとう。どうかしてたわ。」
ギャルが素直に謝ってくる。
「何があったのか、よかったら聞くよ。」
「うん、ちょっと聞いてもらおうかな。恩人だし。」
そう言ってその子は語り始めた。
自分は可愛いし、芸能界でやっていきたくて、モデルに強いと言われる芸能事務所に入れて貰った。だが、まったく仕事が来ない。
事務所の人間に言っても埒が明かない。
そのうち、他の事務所にいても応募できるというアイドルユニット募集のオーディションがあったので受けた。
だが、さっき、事務所の人間から、オーディションは不合格だったと知らされた。
それで落ち込んでしまい、ふらふら歩いていたら何となくもう終わりだと思い、飛び降りれば楽になるんじゃないか、とか思ってしまった。
そんな話だった。
「ねえ、あんたの名前は?私は
あーしはミーシャ。」
おい、ロシア人かよ、とか思いながら甘楽はいう。
「KANNだ。ケーエーエヌエヌ。」」
「そうなんだ。ねえKANN, あーしって芸能界でやっていけるかな?全然声もかからないし。オーディションも落ちるし。」
「山手線の妖精の話って聞いたことあるかい?」
甘楽は切り出した。
「何それ。知らない。」
「山手線は一日中、たくさんの電車がぐるぐる回っている。その中に、一日に一回、少しの時間だけ、妖精が見えるんだ。」
「え?どゆこと?」
「文字通りさ。どこかに妖精が現れる。でも、期待していたって常に見られるわけじゃない。というか、見られないの普通だ。」
「ま、いたとしてもそうよね。」
「でも、一日一回出るということは、見るチャンスが来た人が必ずいるよね。」
「そうね。」」
「でも、自分がそうなれるかは、運の問題だ。宝くじに当たるようなものだよ。」
「そうかもしれないね。「」
「芸能界で売れるのだって同じだよ。 新しい誰かが注目を浴びる。必ず、誰かは。でもそれがミーシャとは限らない。そういうことさ。」
「うーん。じゃあ、やっぱり諦めたほうがいいのかな。」
ミーシャの顔がまた暗くなる。
「宝くじに当たった人を10人集めると、実は共通点があるって知ってるか?」
「え?知らない。全員人間とか?」
「いや、そんな話じゃない。
「みんな、当たりますように!て祈ったとか。」
甘楽は首を横に振る。
「違うな。」
「何よ?」」
「それは、みんな宝くじを持っていた、ということだ。」
「当たり前じゃなあい!」 ミーシャという少女はちょっと怒る
「本当なら、全員買っていると言いたいところだが、貰っている人もいるだろうから、全員持っている、ということにした。
当たり前と思うか? でも、持ってなければ当たらない。たとえ持っていても、当選しているかどうか調べなければ当たらないんだ。」
「…だから何?」
「芸能界で売れるようになるためには、それなりに前を向いて努力する必要があるってことさ。その意味では、オーディションを受けたのはいいことだ。
だけど、あんなのは宝くじと一緒だ。絶対に当たるということはない。だが、当たる人は確実にいるし、当たった人は宝くじを持っていて、当選を調べた人なんだ。
芸能界だって同じさ。努力がすべて報われるとは言わない。だけど。報われた人は努力しているんだよ。」
ミーシャの顔色が少し変わったような気がした。
「お前は可愛いと思うぞ。だから、自信を持て。一回オーディションに落ちたくらい何でもない。そいつらは見る目がないだけだって思えばいい。
そのうち見返してやるよって思えばいいんだ。 報われるかどうかはわからない。だけど、
ファイティングポーズを取り続けるんだ。私を見ろ!私はいい女だってな。」
甘楽はミーシャという女の子をじっと見る。
ミーシャは目をそらさず甘楽を見て、そして微笑んだ。
「ありがと。ちょっと元気出たわ。」
「おお、そうか。もう変な気は起こさないだろ?」甘楽は笑う。
「大丈夫よ。ありがとう。」
ミーシャは頭を下げた。
「ねえKANN, 連絡先教えてよ。」
甘楽はちょっと考えて答えた。
「縁があれば、どこかでまた会えるさ。それでいいだろ。」
甘楽はこの少女の正体に気づいたので、ちょっと距離を取りたかったのだ。
「うーん。ま、そうね。 じゃあ、また会える日を楽しみにしとくわ。」
「ああ。俺もだ。勘定は俺がやっとくから、ゆっくりしてけよ。
」
甘楽はそう言って席を立った。
(ま、こんなもんだろ。 とりあえず、どこかで会える気はするしな。)
カフェに残ったミーシャこと永伝美沙は、ちょと放心状態だった。
(何あれ、カッコいい!)
もし今日KANNに会わなかったら、自分はどうなっていたかわからない。もしかしたらこの世にはもういないかしれなかったのだ。 だとしたら、KANNは自分の命の恩人ということになる。
またKANNに会った時に、失望させてはいけない。
(そうね。あーしはカワイイでしょ!みんなあーしを見なさい!って思えばいいんだね。)
美沙は店を出て、原宿の街を歩き始めた。
いつもの様に、原宿の街は、人でごった返している。
着飾った「カワイイ」つもりの女の子が多い。
(ふん。あーしが一番カワイイんだから!)
そう思いながら竹下通りを闊歩する。
すると、声がかかった。
「あの…すみません。」」
ナンパにしては変だと思ってそちらを向く。
スーツ姿の、気の弱そうな男が立っていた。
「あの、ナンパでも怪しい者でもありません。私こういう者です。」
男は名刺を出した。
月刊サンキャンの森永とある。
「あの、サンキャンのモデルをやりませんか?」
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こんにちは、お急ぎですか。
キラキラだ~
作者です。
第14話をお届けします。
ギャルの美沙と甘楽が出会ってしまいました。
甘楽は事情を察してしまったようです。
さてこれからどうなる?
続きは…待つ間に★や💛でもつけてくださいね(笑)
お楽しみいただければ幸いです。
ハート、★、感想いただければ幸いです。
特に★があると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。
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