第6話 シンデレラ (1)
夏休みの初日、なじみは普段より早起きした。
いつもの通り、自分と母の朝食、それから弁当を作る。
普段との違いは、なじみの弁当がないことだけだ。
なじみは、母が寝ているうちに塩鮭を焼き、スクランブルエッグを作り、ソーセージも約。
弁当箱にごはんとプチトマト、ブロッコリー、スクランブルエッグと漬物を入れ、焼けた塩鮭も乗せてあら熱を取る。
自分たちの朝食は、塩鮭の切れはしとスクランブルエッグ、。ソーセージと野菜、あとはごはんと味噌汁だ。
味噌汁は昨夜の残りを取ってある。普段、なじみは自分の夕食を作るときは翌日の朝食まで考えておく。 ただ、昨夜は味噌汁以外はレトルトで済ませたので、こういう朝食になった。
なじみがキッチンで朝食を食べていると、母親が気づいて声を掛けてくる。
「あら、早いのね。」
「これから出かけるから。朝ご飯とお弁当は出来てるから、起きたら食べてね。あと30分くらい寝てられるよ。」
「どこに行くの?」
「友達と渋谷のほう。」
「こんな早くから?」
まだ6時過ぎだ。
「お母さんはまだ寝ててよ。」
なじみはそう言うと、食べたものを片付け、着替え、逃げるように家を出た。
電車を乗りついて、青山の表参道に出たのは待ち合わせの7時半ぎりぎりだった。
「おはよう。」
甘楽が声を掛けてくる。
「おはよう…え?」
甘楽の傍らに、綺麗な大人の女性が立っている。
「はじめまして。甘楽の従姉で保護者の、上新智香(ともか)です。今日はよろしくね。」
その美しい女性はウィンクする。
:
何も聞かされていないなじみは、目を白黒させている。
「時間がないから行くわよ!」
智香はそう言うと歩き出した。 甘楽となじみがあわてて後を追う。
着いたのは一軒の瀟洒な美容室だった。白を基調にした落ち着いたデザインだ。
CLOSED の札がかかっているが、かまわず智香はドアを押す。
「あらおはよう。トモちゃん、待ってたわよ。」
おネエ美容師が迎えてくれる。
なじみは知らないが、彼女?は芸能人御用達のカリスマ美容師だ。
料金もさることながら、なかなか予約が取れないことでも有名なのだ。
「カオルちゃん、無理言ってごめんね。」
智香が言う。
「いいのよ~ほかならぬトモちゃんの頼みだもの。 この子ね?」
美容師のカオルさんはそう言ってなじみを見る。
「ええ。色はこの子に合う感じでね。あと、ウィッグで黒髪に戻すから、毛の量は調整してね。助手は私がやるから。」
「助かるわ~ものの場所は変わってないからわかるわよね?」
「ええ、大丈夫です。じゃあちゃっちゃと始めましょう。」
なじみを席に座らせ、メガネを取った顔をカオルがじっと見る。
「うん。イメージわいてきたわ。カーラー準備しておいて。」
カオルはそう言うと、なじみの髪を霧吹きで濡らし、コームで梳かしてブラシをあてる。
「毛の量が多いから、やっぱり先に漉く(すく)わね。」
「え?」なじみは何が起こっているのかまだわかっていない。
髪はだいたい母に切ってもらっている。
だからこそのおかっぱだ。
カオルが、流れるようになじみの髪にハサミを入れていく。
「これでいいわ。じゃあ、6番と12番取って。」
それから1時間半かかて、カオルはなじみの毛を簡単に染め、綺麗にカットしてパーマを掛けてブローしてまたカットする。
なじみのヘアスタイルがどんどん変わっていく。
「うん、これでいいわん。」二時間かかて、なじみの髪が出来上がった。
髪は綺麗な栗色になり、ナチュラルなウェーブがかかった感じになっている。
髪型としては短めで耳が出た形のショートボブだ、
「モデルがいいと、いい感じになるわね。」
カオルが満足そうに言う。
「まあ、元に近い形のウィッグもあるから大丈夫よ。」
智香が付け加える。
いつの間にか、他の美容師がやってきていて、開店準備を始めている。
智香は、なじみと甘楽に声を掛ける。
「さ、次行くわよ。 カオルちゃん、今日はありがとう。またあとでね!」
「ええ、いつでもいいわよ。またね~」
店を出たところで、甘楽がなじみに言う。
「長塚まさみが来たの気づいた?」
「え?」なじみは驚いた。長塚まさみとは、有名な女優だ。先日も主演映画が話題になっている。
「カオルちゃんは、芸能人のお客が多いのよ。広田すずとかくうちゃみとか。あとスローンズのみんなもカオルちゃんご指名ね。」
智香が補足する。・
「え~!いくらするんですか?」なじみが絶叫する。
「お金はいいのよ。私とカオルちゃんの仲だからね。私、下積み時代に、ここでもお手伝いしてたのよ。」
智香は、服飾の専門学校を出てスタイリストになったが、その一方でメークアップやヘアメイクも勉強していたのだ。
ノウハウを身に着けながら、持ち前のコミュ力で、どんどん知り合いを増やしていったようだ。
「じゃあ次はここね。」
少し歩いていって到着したのは、写真撮影のスタジオだった。
「ここのメイク室、押さえてあるから。」
智香が言う。
「…あの。」なじみがおそろおそる切り出した。
「なぜ、こんなことしてくださるんですか。私、お金ありませんよ。」
あとで請求されて、払えなければ、もしかして売られる…妙な想像をしてしまう。
智香は笑う。
「そんなものいらないわよ。今日は、甘楽に頼まれたの。なじみちゃんのシンデレラプロジェクトよ。新しい自分に出会って、気分一新させてあげる。
スタジオに入ると、中にいた男性が智香に話しかけてくる。
「お~智香ちゃん、来たね。1番メイク室使って。荷物も届いてるから入れてあるよ。」
「オーナー、いつもありがとうございます。あ、この前のフィナンシェ、みんなで美味しくいただきました。」
「ああ、気に入ってくれたならよかった。今日は、午後からエイティーンの伊藤さんと、カメラマンの大塚さんもくるよ。」
「そうなんですね~あとでご挨拶します。じゃあ、よろしくお願いします。」
智香は、なじみを連れてメイク室に向かおう。甘楽も従おうとすると、智香が言う。
「ここからは乙女の秘密。男子禁制よ。その辺歩いてきなさいよ。あと、お昼になったら連絡するから、何か買ってくるか、ウーバーで頼んでね。」
「へいへい。」甘楽はそう言って出て行った。
(全部見られてるんだし、今更なんだけどなあ。) なじみは実も蓋ももないことを思う。
大きな鏡と台、椅子が並ぶ部屋。ここがメイク室だ。着替えも十分できる。
智香は、部屋にあった段ボールを開け、中身を取り出してテーブルに並べる。
そしてメークのセットを台の上に置く。
なじみを鏡の前の丸椅子に座らせると、智香が聞く。
「お化粧は得意?」
「…すみません。やったことがありません。」
「謝る必要はないわ。じゃあ、どんなものがあるかから、簡単に説明しましょう。」
智香が順番に説明を始める。
なぜ化粧をするのか、という根本からの説明や、基礎化粧品の意味、個別の化粧品の意味や道具のの説明、順番などを教えていく。
「…すみません。一度に覚えられないかも…・。」
なじみが、すまなそうにいう。
「いいのよ。少しずつ、やれば覚えていくわ。じゃあ、始めましょうか。」
おろした前髪をピンで留め、化粧を始める。
智香は、まず顔の半分をやってみせ、あと半分をなじみにやらせる。
下地のうちはまだいいが、だんだん難しくなってくる。
眉や目元になると、左右のバランスが取れなくなる。
一応メガネは取っているので、ちょっと自分の顔が見づらい。
「コンタクトあったほうがいいかもねでも、今日はこのままにしましょう。メガネなしでも歩いたりできるわよね?」
智香が聞く。
「はい、大丈夫です。」
なじみが答える。
「本当は、メガネかけたときのメークはちょっと違うほうがいいんだけど、それはまた別の機械にね。」
目元がどんどん変わっていく。なじみは必死に順番を覚える。残り半分は自分でやらないといけないのだ。
あっという間に12時近くになった。
「ちょっと待ってね。」智香はそういうと、スマホをいじし、またメークに戻る。
15分ほど経ったころ、ドアがノックされる。
「どうぞ~」智香が言うと、甘楽が袋を持って入ってきた。」
「そこのコンセプトバーガー買ってきたよ。」
甘楽が言う。
「じゃ、休憩しましょう。」智香が言い、休憩になった。
「あ、まだコメントはなしね。作業中だから!」智香はちょっと笑って甘楽にいう。
甘楽は黙ってうなずく。
ハンバーガーは、なじみが甘楽と会ったあのチェーン店の小さいものとは違い、ボリュームがあって、ベーコンやチーズも入っている。
(これ、おなじ『ハンバーガー』とは思えないなあ。おいしすぎて、これからあのチェーンのを食べたときにこれを思い出したら悲しくなっちゃいかも:)
などとなじみは思う。
今日は本当に普段と違う、非日常だ。なじみは思うのだった。
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こんにちは、お急ぎですか。
キラキラだ~
作者です。
第6話をお届けします。
なじみはどう変わる?
続きは…待つ間に★や??でもつけてくださあいね(笑)
お楽しみいただければ幸いです。
ハート、★、感想いただければ幸いです。
特に★があると作者は喜びますのでoお気軽にお願いします。
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