デスペラート☆クワク (8)
ホッブの声が響くと同時に、三人は茂みから飛び出し、魔法陣に向かって一直線に駆け出した。
スケルトンたちが動きを止め、一斉に三人を向いた。骨同士が擦れ合う音が森にこだまする。
「ガラクタどもなんか、まとめて吹き飛ばしてやるよ!」
ボガートが勢いよく槍を振りかざし、最初に突撃する。スケルトンの一体を槍で突き崩すと、そのまま回し蹴りを繰り出して骨の塊を吹き飛ばした。
「こっちは任せる!」
ホッブは後ろを振り返らずに大剣を構え、魔法陣を守るスケルトンたちの群れに突っ込んだ。一振りごとに骨が砕け、乾いた音が響く。
「遅れるわけにはいかないわね!」
ニーアはスケルトンの間を駆け抜けながら、鋭い槍の突きを繰り出す。その軌道は正確無比で、次々とスケルトンを貫いていく。
「無茶だけはするなよ!」
「わかってるよ」
「そっちこそね!」
二人の返事を聞き、ホッブは少しだけ微笑んだ。そしてすぐに表情を引き締める。この程度では、まだ安心できないからだ。
ホッブの目の前に、巨大なスケルトンが立ちふさがる。その巨体に似合わぬ素早さで剣を振るい、ホッブを追い詰めようとする。しかし、その動きを見極めることができれば、ホッブにはさほど脅威ではなかった。
「ふっ!」
ホッブが振り下ろされた剣をかわすと、その剣は地面に食い込んだ。そこに隙ができるのを、ホッブは見逃さない。すかさず足を踏み込み、渾身の力を込めて大剣を横なぎに振るう。骨の体が砕け散り、スケルトンはバラバラになって崩れ落ちた。
「よし!」
ホッブしかし、すぐに気を引き締める。
「このまま魔法陣を叩き壊す!」
ボガートが叫ぶと、ニーアが頷き、槍を一気に振り下ろした。その一撃が魔法陣の中心を捉えると、青白い光が一瞬激しく揺らぎ、やがて消え去った。
「……やったか!」
ボガートが息をつきかけたその瞬間、魔物使いが叫び声を上げた。
「あー、聖杯の魔方陣が……
貴様ら……よくも!」
怒りに満ちたその声と共に、彼の周囲に立っていた二体のガーゴイルが翼を広げた。
「来るぞ!」
ホッブが構え直した瞬間、ガーゴイルたちが飛び上がり、急降下して襲いかかる。その勢いに合わせるように、残ったスケルトンたちも再び三人に向かって突進してきた。
「まずは空の厄介者から!」
ニーアが叫び、槍を大きく振るう。その先端から炎の矢が放たれ、ガーゴイルの片翼を焼き尽くす。一体は不時着し、地面を転げ回る。
だがその勢いを利用してボガードに向かって転がって来た。
「危ない!」
叫びながら、杖を構えて呪文を唱える。対象の頭上から氷の柱が降り注ぎ、ガーゴイルを地面に縫い止めた。
「ありがとう、助かったわ」
「まだだ!来るぞ!」
ホッブの言葉に顔を上げると、残ったスケルトンたちが剣を振り上げながら三人に襲いかかろうとしているところだった。
「させんよ!」
ボガートが槍を構えてその隙を突き、地面に倒れたガーゴイルを槍で貫いた。その背後から襲いかかるスケルトンを蹴り飛ばし、苦笑しながら叫ぶ。
「ホッブさん、そっちも頼みますよ!」
「任せろ。」
ホッブは短く答えると、大剣を振り上げ、もう一体のガーゴイルを迎え撃った。ガーゴイルの硬い石肌を弾くたびに火花が散るが、一撃、また一撃と確実にダメージを与え、ついにはその頭を一刀のもとに叩き割った。
「これで終わりだ!」
ホッブがそう叫び、最後のスケルトンを粉砕した瞬間、森に静寂が戻る――かに思えた。
だが、魔物使いはその場に立ち尽くす三人を冷たい目で見つめ、口元に薄笑いを浮かべた。
「勇者どもが聖杯探索で海に行っている今こそと思った、まったく甘かったと言うことか。
だが、コレで終わりだと思ったか?
愚か者どもが……!」
魔物使いが手を掲げると、そこから銀色の光を放つ小さな塊がぽつりと地面に現れた。それは不気味に輝く メタルスライム。
「何だ、あれ?」
ボガートが目を見開き、一歩後ずさる。
「普通じゃないわね……。嫌な予感しかしない。」
ニーアは眉をひそめながら槍を構え直した。
ホッブはメタルスライムをじっと睨みつける。
「小さいが……油断はするな。奴の動きに惑わされるなよ。」
三人が再び構えを取り、静かな空気が張り詰める中、メタルスライムはわずかに身体を揺らし、奇妙な跳ね方を見せた。
「こいつ、本当に厄介そうだな……!」
ボガートが呟いたその瞬間、銀色の小さな影が突如として猛スピードで動き出した――。
メタルスライムはその鈍重な目に反比例するような素早さで跳ね回り、三人の攻撃をいとも簡単にかわしていく。
そして、槍も剣も、触れたと思った瞬間に、はその銀色の表面で弾かれていた。
「……な、何だよコイツ! 早すぎるだろ!」
ボガートが荒い息をつきながら叫ぶ。
「くそっ、硬い上に早いなんて最悪だ!」
ホッブも何度目かの大振りを空振りし、悔しげに舌打ちをした。
「……こいつ、攻撃が当たる瞬間にだけ、一瞬だけ振動してる。
そうやって刃先をずらしてる」
ニーアが冷静に分析する。
「そんな……じゃあ、どうやって倒せば……」
「刃を直角に当てれば……」
「あんなに素早いのに?!」
ボガートは絶望の声を上げた。
「落ち着け! 奴の攻撃パターンを見極めるんだ!」
ホッブは声を張り上げる。しかし、その声が届いているのかいないのか、メタルスライムの動きはさらに速さを増していく。
「くっ……!」
ホッブの槍が空を切り、その隙にメタルスライムが体当たりを仕掛ける。
「ぐっ……!」
ホッブは大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
「ホッブ!」
ニーアが叫ぶ。しかし、その声は届かないのか、ホッブは立ち上がれずにいる。
その隙をついて、メタルスライムはボガートに襲いかかった。
「うわぁぁ!」
ボガートの叫び声と鈍い音が同時に響く。メタルスライムの体当たりを受けたボガートは軽々と吹き飛ばされ、そのまま動かなくなる。
「二人ともっ……!」
ニーアは血相を変え、二人の方へ駆け寄ろうとする。しかし、その目の前にメタルスライムが立ちはだかった。
「こ、このっ……!」
ニーアは渾身の突きを放つが、メタルスライムはその一撃をかわしたかと思うと、ボガートとホッブに向かって体当たりを仕掛ける。
「ぐはっ……」
二人が苦痛の声を漏らす。ニーアは再び槍を突き出そうとするが、先にメタルスライムの体当たりを受けた。
「ぐぅっ……!」
今度はまともに受けてしまい、地面に倒れ伏す。
「い、いけない……。早く治療しないと……。」
ニーアはよろめきながらも立ち上がろうとするが、メタルスライムはそれを許さない。再びニーアに体当たりをしかける。
「くっ……」
ニーアはそれを躱すことができず、まともに攻撃を受けてしまう。地面を転がりながら倒れるが、何とか立ち上がった。
「ちょっと待って!」
同時に、なんかに気づいたニーアが急に声を張り上げる。
その視線はメタルスライムではなく、少し離れた魔物使いに向いていた。
「あいつが召喚してるなら、本体を叩けば――!」
「なるほど!」
ホッブがすぐに察し、魔物使いへ向かって突進する。
魔物使いは三人の動きに気づいたが、動揺する素振りもなく、不敵な笑みを浮かべて杖を構えた。
「なるほど術者が弱点だと思ったか……?
だが甘い!」
その言葉と共に、杖が光を放った。ホッブの剣があと一歩で届くというところで、魔物使いの姿が突然霧のようにかき消える。
「……消えた!?」
ホッブが呆然と足を止める。
「逃げたってこと?」
ニーアが警戒しながら辺りを見回すが、魔物使いの気配はどこにもない。
「後を追うか?」
ホッブが冷静に問うが、ニーアは槍を構え直しながら首を横に振った。
「いや、無理よ。あのスライムを放置したら村に被害が出るかもしれない。」
「姐さんの言う通りだな。」
ボガートが息を整えつつメタルスライムを指差す。
「とりあえず、あの銀ピカをどうにかするのが先だ。」
再び三人はメタルスライムに集中する。だが、跳ね回るスライムは全く捉えられない。
「……本当にこいつ、どうやって倒すんだ?」
ボガートが槍を振り回しながら苦々しく呟く。
「そう簡単に倒させてくれる相手じゃないわね。」
ニーアが魔法の詠唱を続けるが、放った火の矢はスライムに掠りもせず、無駄に地面を焼くだけだった。
ホッブも隙を見て斬りかかるが、スライムの硬い体にはかすり傷すらつかない。
「……これじゃ、ただ体力を消耗してるだけだ。」
「……本当にこいつ、どうやって倒すんだ?」
ボガートが槍を振り回しながら苦々しく呟く。
「そう簡単に倒させてくれる相手じゃないわね。」
ニーアが魔法の詠唱を続けるが、放った火の矢はスライムに掠りもせず、無駄に地面を焼くだけだった。
ホッブも隙を見て斬りかかるが、スライムの硬い体にはかすり傷すらつかない。
「……これじゃ、ただ体力を消耗してるだけだ。」
ニーアは唇を噛んだ。
「くそ、何か弱点はないのか?」
ボガートが叫ぶ。
「わからない……でも、このままじゃ……」
ニーアの額に冷や汗が浮かぶ。その時、メタルスライムが一瞬動きを止めた。
「今だ! 攻撃しろ!」
ホッブが叫んだ瞬間、メタルスライムは目にも留まらぬ早さで飛び上がった。
「な……!」
三人の反応が一瞬遅れてしまう。その隙にメタルスライムは再び跳ね回り出した。
「くそ……またか!」
ホッブは何とか反撃しようと槍を構えるが、その銀色の輝きは壁のように立ちはだかる。
「っ……」
ニーアも必死に魔法を唱えるが、その攻撃は全く当たらない。
「……くっ」
メタルスライムは三人の攻撃を全てかわし、再び跳ね回り出した。そして、その素早さで三人を圧倒していく。
「くそっ……このままじゃ……!」
ボガートの額に汗が滲む。
だが、そのときだった。スライムが跳ねる方向を読んだボガートが、咄嗟に槍を突き出した。
「……当たった!」
銀色の体に槍が突き刺さり、スライムが一瞬動きを止めた。その一撃が運良く急所を捉えたのだ。偶々突っ込んで来た方向が槍と一直線だったため、穂先が弾かれること無く突き刺さる。
だが、既にボロボロだった穂先は、硬い体表で完全に破壊される。
「今よ!」
ニーアが叫び、素早く槍を構えて突き立てる。同じ場所を狙って槍を打ち込み、そこへさらに魔法の力をぶち込んだ。
槍の先端から溢れる炎がスライムの硬い体を裂き、その体は水銀のように弾け散った。
「や、やった……!」
ボガートが膝に手をつき、息を整える。
「……やれやれ、どれだけ手こずらせるのよ。」
ニーアは槍を引き抜きながら、冷や汗を拭うように額を撫でた。
ホッブは静かに大剣を下ろし、弾け散ったスライムの跡を見下ろした。
「終わったな……だが、魔物使いを逃がしたのは痛い。」
三人は、短く息をつきながら互いに目を見合わせた。森の静寂が戻る中、三人の心には新たな決意が生まれていた。
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