第18話 緊急ニュース速報

 アーチの近くにいるEA職員に、片手剣と胸当てを返して塔から出た。


 <宮島EA>の買い取りカウンターで、ラットの魔石を換金したら――税金を引かれて1人3,120円にもなったんだ。


「亮太、今までの約3倍だ!」


「ああ! 健、やったな!」


 ――まだ交通費には足りないけど、3時間で3,000円あるってことは……探検者になって1日入れるようになったら黒字になる。そう思ったら頑張れるな。


 今日はレベルも上がったし、昼はフードコートでちょっと豪華なのを食べよう。


「健、今日は何を食べる?」


「そうだな……亮太、今日はカツカレーにする」


 フードコートのメニューと値段は殆ど把握はあくしていて、カツカレーは1,250円もするんだ。


「お、良いな。俺もカツカレーにしよう。大盛りで!」


「大盛りか……」


 ……大盛りは+200円だぞ。




 ◇

 家に帰って晩ご飯を食べる時――<宮島の塔>に入った日は、じーちゃんとばぁーちゃんから塔の話を聞かれるんだ。


 いつも、たいして話すことはないんだけど、今日はレベルが上がった事を話した。


「あら~! たけちゃん、"れべる"が上がったんね~。おめでとう~。今度、ケーキでも買ってこようかね~」


「……ばぁーちゃん、レベル3は祝うほどじゃないんだ」


 ――ケーキは食べたいけど。


「健、この前上がったばかりじゃろ。流石さすが、ワシの孫じゃのー!」


「じーちゃん……」


 何か……恥ずかしくて、テレビに顔を向けたら――丁度、テレビ画面が切り替わった。


『緊急ニュース速報です! 東京でスタンピードが発生しました!! 繰り返します! 東京にある<世田谷せたがやの塔>でスタンピードが発生しました!!」


「えっ! 東京でスタンピード……何で?」


「何じゃと……」


 じーちゃんも画面を見る。


 ――<札幌の塔>の時は、攻略が進んでなくて探検者も少なかったって聞いたけど、東京なんて人が多いから、塔に入る探検者も<宮島の塔>より多いだろう。


 塔にいる魔物をある程度狩ったら……スタンピードは起きないんじゃないのか? 


 ネットやテレビでそう言ってたけど、他にもトリガー……要因があるのか?


「東京で"すたんぴーどぉ"って……何じゃろね?」


「ばぁーさん、"すたんぴーどぉ"はぁ、前に北海道であったアレじゃろう。緑色の化け物がぁ、町の中を歩いとったヤツじゃ」


 ……緑の化け物。ゴブリンのことか?


「あ~! 緑色の肌をした餓鬼がきみたいな鬼がぁ、テレビに映っとったアレね~! 大きな狼もおったけ~」


 ……鬼?


「ばぁーさん、それじゃ!」


 餓鬼ってどんなヤツかと携帯で検索すると――墨絵すみえみたいなのしかないけど、これ……似てるか?


「じーちゃん、ばぁーちゃん、その緑色した肌の魔物は、ていうんだ」


「そうそう、ゴブリンじゃ!」

「たけちゃん、ゴブリンいうんね~」


 あの時、テレビで映ったのはゴブリンと狼だけだったけど、ネットで調べたら他の魔物もいた。熊の魔物や、2足歩行の豚の魔物――オークもいたらしい。


 因みに、スタンピードで塔から出できた魔物を倒すと、塔の中みたいに魔物は消えるんだ。


 そして、魔石は落とすけどアイテムは落とさないってネットに書いていた。


『お近くにお住まいの方は、直ぐに避難所に向かってください! もう一度繰り返します――』


「東京は人が多いけ、大変じゃのぉ……」


「そうじゃね~。もしもぉ、<宮島の塔>で"すたんぴーどぉ"が起きて、ゴブリン? あんなのが畑におったら恐ろしいけ……」


「ばぁーさん、あれが畑にか……う~む」


 ゴブリンは<宮島の塔>の5階にもいるから、<宮島の塔>がスタンピードを起こしたら出て来るだろう。


 亮太と2人なら倒せると思うけど、1人だったら……どうだろうな。


「ばぁーちゃん、今の俺ではゴブリンを倒せるか分からないけど、そのうち……ゴブリンを倒せるようになるよ」


 じーちゃんが、俺の言葉に頷いてばぁーちゃんを見る。


「ばぁーさん! ワシがおるけぇ大丈夫じゃ! 健もワシに任せとけ!」


 ――ハハ、じーちゃんならゴブリンを倒しそうだな。頼もしいけど、素早い動きの魔物だと、じーちゃんにはキツそうだ。


 素早い魔物は俺が倒すことになりそうだけど、家で武器になりそうなのは……ばぁーちゃんが畑で使うくわかまか。


 後は、台所に出刃でば包丁がある。刺身さしみ包丁もあるけど、刺身包丁は折れそうだな。


 あっ……じーちゃんと塔に入って、一緒にきたえるのも有りかも。


 じーちゃんが探検者に登録したら<EA>の売店で武器が買えるし、じーちゃんのレベルが上がったら、ステータスの体力や防御力が上がるかも知れない。


 ……有りだよな?


 明日、じーちゃんと漁に出た時にそれとなく話してみよう。


 それにしても、何で東京にある<世田谷の塔>でスタンピードが起きたんだろう……不思議だ。



 ◇◇

 日曜の朝、いつも見ている朝のテレビ番組で、<世田谷の塔>から半径5キロ以内の道が封鎖され、そのエリア内にある交通機関もストップしたという。


 アナウンサーが、エリア内に住む住民には避難指示が出ていて、エリア外にある指定された学校の体育館や公民館に避難するように言っている。


「封鎖じゃて……。じーさん、ここじゃと避難するんはぁ~、公民館か小学校かね?」


「ばーさん、宮島で"すたんぴーどぉ"が起きても、この島は宮島から5キロ以上離れとるけぇ、避難指示は出んじゃろぉ」


「そうね……」


 ――うん、俺もじーちゃんと同じ意見で、この島には避難指示は出ないと思う。


「じーちゃん、そろそろ港へ行こう。今日は船を出すのか?」


 平日の漁で捕れた魚は漁協に出しているけど、日曜は漁協が休みだから、船の掃除や網の手入れをするか、家で食べる魚を捕りに行く。


「おう、そうじゃな! 健、今日はイカを狙うけぇ」


「イカはまだ早いんじゃないのか?」


 船を出す時は、き網漁をすることもあるけど、じーちゃんか俺の食べたい魚狙いで釣りに行ったりするんだ。


「健! イカが捕れる穴場に連れて行ってやるけぇ。誰にも教えるんじゃないぞ!」


「分かった」


 ――じーちゃん、同級生で家が漁師なのは俺んちだけだから、教える相手なんていないよ。


「2人とも、気い付けてね~」


「おう! ばーさん、行ってくるけ」

「うん」


 ばぁーちゃんからお弁当を受け取って、じーちゃんと港へ向かう。


 ――イカが捕れたら、晩ご飯はイカの刺身だな。


 そうだ、ばぁーちゃんにゲソの天ぷらを作ってもらおう。俺、ゲソは刺身や塩焼きで食べるより、天ぷらの方が好きなんだ。


 あ、東京でスタンピードが起きているのに、こんなことを考えるのは無神経かな……。


 でも、俺にはどうすることもできない。


 俺ができること……。


 もしもの事を考えて、じーちゃんに、一緒に鍛えようって話をするくらいかな。




 ◇◇◇

 週明けの月曜、学校では朝から東京のスタンピードの話で持ち切りだ。


 <宮島の塔>でスタンピードが起きたらどうするとか、緊急時に備えて武器や装備品を買った方がいいんじゃないか――とか。


 亮太と俺も、ゴブリンの片手剣と盾を家に置いておこうかと話したけど、探検者に登録しないと武器は買えないんだ。


親父おやじに登録してもらおうか……。野球のバットじゃ、ラットを倒すのにも時間が掛かりそうだ」


「確かにそうだな。俺もじーちゃんに、探検者の登録をしたら武器と盾を買えるって話をしたんだ」


 昨日、船の上で、ばぁーちゃんが作ってくれた弁当を食べながら、<宮島の塔>でスタンピードが起きた場合を考えて、家に武器や防具がいるんじゃないかって話をした。


 <宮島EA>の売店で、初心者用の武器や防具を売っているけど、未成年だと育成コースの講習を受けていても買えないんだ。


 俺が18歳になって探検者登録したら買えるけど、万が一の事を考えて――家に武器や防具を置いていた方が良いんじゃないかって、じーちゃんが探検者に登録したら直ぐに買えるって話をした。


「あー! 武器を買うために登録するんなら、ばーちゃんでもいいよな! 親父とじーちゃんは、そろそろみかんの収穫で忙しいから、ばーちゃんに頼もうか」


「えっ、亮太のばーちゃんにか?」


 ……まあ、武器を買うためだけなら有りか。


 俺もばぁーちゃんに……頼んだら直ぐに登録してくれそうだけど、先にじーちゃんだな。


 俺のお願いでばぁーちゃんが先に登録したら、絶対じーちゃんがねる。



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