恐ろしい冒険者

大介丸

第1話

 ―――10mほどの城壁で囲まれた迷宮都市にある荘厳な門の前に、二メートルは

 ゆうに超えた頑丈な体格の冒険者が立っていた。

 その冒険者は、熊の毛皮を被っている蛮族のような一式装備を身につけており、

 長い黒髪と落ちくぼんだ眼窩、猛禽類の如く鋭い氷蒼色の瞳を持っていた。

 蓄えられた口髭と長髪は、陽に灼けて赤銅色だ

 背中には、大きく重量のある大剣を背負っていた。

 そして、その冒険者の右手の甲には、タトゥーが刻まれていた。

 それはソードのキングの絵柄だった。

 検問を行っている警備兵は、少しぎょっとした表情を浮かべた

 蛮族のような一式装備を身につけたその人物が、音も気配もなくいつの間にかそ

 こに立っていたからだ

 冒険者の貌は絶えず苦悩の表情でひきつり、眼は昏く―――まるで

 いつも内なる荒涼とした地平線を眺めているかのようであった

 警備兵は生唾をごくりと飲み込み、手に持っていた指名手配書をパラパラと捲り―――

 該当のページを見つけて、そこを指差す

 警備兵がその紙と眼の前の人物を見比べる

「何も問題はない

 ようこそ迷宮都市へ!」

 警備兵が少し緊張した声で告げる

 蛮族一式装備冒険者はゆっくりと鷹揚にうなずくと、堂々とした足取りで

 その場を後にする


 警備兵は蛮族一式装備冒険者の後ろ姿を見送りつつ、少しほっとした様な

 表情を浮かべる。

 そして手元にある手配書に視線を向ける

「よう、どうした?」

 褐色に陽焼けした警備兵が、その異変に気付いたためか近づきながら声をかけてきた。

「これだ」

 手配書の紙片を指さしながら、手渡す。

 褐色に陽焼けした警備兵が怪訝な表情を浮かべ、それを受け取り内容を確認する

「 マジか」

 それから、大きくため息をつき天を仰いだ

「『ロッドタード』冒険者ギルド総本部から通達のあった、例の

『触れることのできない』人物が到着されたようだ

 警備隊長へ報告に行ってくる」

 そう言って踵を返し、駆け足で去って行く。

 残された褐色に陽焼けした警備兵の視線は、やや険しい



 蛮族一式装備の冒険者は、歩いて向かったのは『冒険者ギルド』ではなかった

 石畳の敷き詰められた大通りには様々な商店が立ち並んでいる

 通りすがりの冒険者やこの都市の住民達で賑わっていた

 蛮族一式装備の冒険者の姿を見た、幾人かは一瞬だけぎょとした様に

 足を止めて振り返った。

 しかしすぐに興味を失ったように視線を逸らし、またぞろぞろと歩き始める。

 蛮族一式装備冒険者は、特に気にする様子もなく、すたすたと

 足早に歩き始めた。

 その歩みの先には、迷宮に挑む冒険者に商売をしている職人街がある。

 武器屋、防具屋、道具屋、宿屋……

 様々な店が軒を連ねる通りの裏手からは、作業場から響く槌打つ

 音が響いている。

 火を扱う工房なためか石造りの立派な建物が連なり、煙突から吐き出された

 煙が空へと昇っていく。

 金属を打つ音に交じって聞こえてくるのは、男たちの野太い声だ。

 職人街であるこの区画では、昼夜を問わず鍛冶師たちが仕事に

 追われている。



 蛮族一式装備冒険者は、一軒の店の前で立ち止まる

 扉の上部に掲げられている看板に目を留めると、ドアノブに手をかけ

 店内に入る

 そこにはカウンターがあり、店主が座っている

 奥の壁一面に陳列棚が置かれており、武器や防具、ポーションなどが

 置かれていた

 店の奥の壁に、大きな掲示板もある

「いらっしゃい」

 店に踏み込んできた巨体に臆することなく、白髪の店主は

 鍛冶場で鍛えられた大声で怒鳴りつけた。

 まるで、喧嘩腰のチンピラだ。

 だが、そんな迫力ある声を浴びても、男はまったく怯まない。

 それどころか、悠然とした足取りで店内に入り込んでくる。

 そうして、蛮族一式装備冒険者はカウンターの前に立つなり、無言で

 掌サイズのメダルを店主に見せた

 メダルには骸骨が刻印されていた。

 その途端、店主の態度が変わった

「―――ここの迷宮都市に来たという事は、そういう事か」

 それまでの愛想の良さとは打って変わって、深刻な表情を浮かべると

 店の奥に足を向けた。

「すまない。少し席を外すよ」

 そう言い残して、カウンター裏の扉の向こうに姿を消す。

 店の奥に引っ込んで数分後、茶色の袋を持って店主が戻ってきた。

「あんたがまず来たなら、この『マジックポーチ』を手渡せと

『冒険者ギルド』から通達が来ている

 これから『何』を狩るのか詮索もする気はない

 だが、俺達の邪魔だけはしてくれるなよ?」

 そう言って小さなバッグを差し出した

 蛮族一式装備冒険者は、『マジックポーチ』を受け取ると一言も言わずに

 さっさと店を後にした

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