ダンジョンができたら浪漫を追い求めないと損だと思いませんか?

あるる

第1話

 鬼は外、福は内。

 毎年行われてきた厄祓いも今となっては形骸化していて豆まきはせず、恵方巻きを楽しむだけの人も増えている。

 現代は流行病も大概が完治可能で、そうでないものもある程度予防できることから、昔のように神頼みや厄払いなどはどんどん忘れられ衰退して行っていた。


 それは同時に神にとっては己の力を失うことに繋がっていた。

 信徒が神を信じ、敬い、讃える事により力を得る神々はどんどんその影響力を失い、無力化されている。どんな荒神であろうとも動画や小説、漫画のネタとして消費され、世界的に有名な一神教の神であっても神としてではなく単なる教義、更に言うと信徒のトップの権力把握のために消費されている。

 時代はまさに正しく神無き時代を迎えようとしていた。


 人を護る、圧倒的な力を持った神は既に失われた。

 それは神々にとっては人の成長として喜ぶべきものであり、同時に我が子の巣立ちに寂しくもあった。

 そんな人間たちを試すかのように、唐突に世界はそれまで小説や漫画、アニメの世界のものと信じられていた場面へと直面する事になった。


 そうダンジョン、そしてそこから溢れるモンスター。

 人間の用いる銃器はそこそこの効力を発揮したが、ボスには効果が少なかった。それこそ周りに被害を出しても仕留めるためにロケットまで使われていたが、各国はまだ核には手を出していなかった。

 それも、ダンジョンブレイクが発生するまで。ユーラシア大陸の北方で誕生したダンジョンブレイクはあまりに広大な地域がモンスターにより蹂躙され、とうとう核が落とされた。それにより外に出ていたモンスターは消滅したが、ダンジョンは残った。

 人類はその事実に絶望したが、同時に小さなダンジョンにおいてボスモンスターの討伐によりダンジョンが消滅することも確認でき、希望は残された。

 とはいえ人は生物としてはどこまでも弱い、だが人には工夫と技術力がある。討伐したモンスターの牙や爪から武器を、皮や鱗から防具を、更にそれに人間の科学技術で使用感を良くして対応していく。

 なにより、レーザー系やウォーターカッター系のものはモンスターに非常に有効だった。また火薬武器や銃器はイマイチだが、地雷などのトラップは効果的だった。


 それでも無力な人間は多く、ここに至って神々にすがる者が増えてきた。だが、神々は衰弱して久しく信徒たちを守る力のある神はほぼ存在しなかったが、自身の神社や寺院、教会の敷地を安全地帯としてモンスターから保護できることができた。

 自然と人間は神聖なる場所に集まるようになり、そこを中心として生活圏が構成されるようになった。

 その中でも日本は類を見ないくらい神社、仏閣が多くある国で国の中心となる各省庁や裁判所にも大なり小なり神を奉っていたためそもそもダンジョンの発生が防がれていた。

 とは言え、中枢だけ守られていても仕方がないため、結局は自衛隊、警察機構、消防隊との連携で国民を守るしかなかった。

 同時に多くの僧侶、宮司の協力を願い、各地に神の守りを得るための小さな社を建てる方針が取られた。政治家よりも僧侶、宮司が尊重され守られた。

 かくして、急激に増えた祈りの力を持って日本の八百万の神々はにわかに活性化した。


 安全を他の世界各国と比較すると早くに確保できた日本は、敢えて一部に「穴」を残し、そこにダンジョンを発生させ意図的に管理を始めた。

 ダンジョン庁が早速誕生し、自衛隊による調査と討伐で各素材などの研究、武器の開発が進んでいくこととなった。

 早くに安全を確保できた日本へ移住を希望する人は世界各国にあったが、海と空はモンスターの領域であったため日本は島国の利点を活かして独立が守られた。

 不思議なことに、飛行機や大型船に神棚を作りしっかり祈り守りを祈祷しても日本海を渡って韓国へたどり着くこともできなかったのである。


 宮司や僧侶が言うには、神はその場にある事で神力を発揮するのだろう、と。

 つまり海神として奉られていても「その地域の海の神」であるならば、そこから先はその神の領域ではなくなり力が弱まると考えられた。

 だが日本の成功は通信が生きていたため世界各国に伝えられ、各国も対策を行い数年である程度みんな持ち直した。

 ただ、陸続きでない日本の唯一の問題は海外に頼っていた食品関係の流通だったかがこれは実はダンジョンが解決してくれた。食肉の入手が可能となり、一般的な食卓にはダンジョン産の食肉が普通となり元々ブランド的な扱いだった日本の畜産は贅沢品として残された。


 衰退するかと思われたエンタメ関係も、むしろ娯楽として求められて無くなることはなかった。

 そして通信関係は完全に国家事業となり監査などが厳しくなったため、むしろ通信環境は改善された。レアメタル等の貴重な資源もまたダンジョンによってもたらされ、日本は鎖国状態となったがそれにより安定していた。

 そしてダンジョンは資源となり、エンターテイメントにもなった。


 薗田茜そのだあかねは神社に仕える宮司の家系の一人だった。知恵の神と言われる八意思兼命やごころおもいかねのみこと通称思金神オモイカネを祀る一族だ。

 そのせいか凝り性だったり、研究肌の人間が多く、どちらかと言うと変人が多かった。

 茜もまた変人のタイプで、何故これだけファンタジーな状況になったのに人は魔法を使えないのかを調べていた。


 一般的に魔法は「神の奇跡」を借りている、または世界に溢れる無形の力を活用して事象を起こす。前者は所謂ヒールや浄化などのイメージがあるが、陰陽師の使ったという九字や符術もその類だろう。後者はファンタジー過ぎて茜には理解不能だ。

 そもそも検知できない力が実在するのかも不明なのだから、まず試すなら神の力の間借りの方だろう。何よりも、神がいることは証明済みだ。


『なんだ、私に用か?』


 茜の視線を受けて胡乱な気配を発する半透明の遮光器土偶。


「ううん。改めて、なんともシュールだなぁ~って思っただけよ?」

『なんだ、まだこの姿の良さが分からぬのか。嘆かわしい…』


 そう、この土偶が思金神オモイカネなのだ…。最初はもっと鐘のような形をしていたのだけど、博物館で遮光器土偶を見て以来その姿が素晴らしいと、自分の見た目を遮光器土偶にしてしまったのだった。

 正直茜からすると某世界的有名な青いネコ型ロボットの映画に出てくる敵にしか見えないのだが、それが自分の周りでふわふわしているのだからたまったもんじゃない。せめてもの救いが基本人には見えない事だ。


『茜、今日はどこに向かうんだ?』

「都心に向かうよ、日比谷公園」

『また守りの厳重な場所に向かうのだな?』

「人類が管理できているダンジョンの中では最大だからねぇ」


 ダンジョンが深くなると共に敵モンスターは強大となるため、日比谷に発生するダンジョンは一程度まで広くなると管理できなくなる前にダンジョンを閉じる。そんな人間の手によって管理されているダンジョンが複数日比谷公園にはある。

 ダンジョンに入るには神の加護を受けている(護符や祈祷を受けている)こと、武術を使えることを条件に特に武術の資格や試験を突破した者にだけ入場資格が与えられている。資格は軍隊式にドッグタグでICチップが埋め込んである。

 またダンジョンは国家運営されており獲得物の7割は納めることが義務付けられている。ダンジョンは資源の塊なので、そこで得られるものは日本国内で必要なものだらけだ。そのため中に入る人間もまた徹底的に管理されている。

 銃器は人間には効果的なので、平和ではないこのご時世でダンジョンへの不法侵入は即銃殺でも文句が言えない。その分ダンジョン自体も管理されているし警察なども以前より厳しくなっており、犯罪者は死亡前提でのダンジョン調査と資源調達が義務となっている。


 茜は日比谷公園に着くと厳重なチェックを抜け、薙刀を携えてダンジョンの入口へと向かった。

 薙刀は玉鋼だが、オモイカネ曰くただの玉鋼ではないそうだ? とは言え茜にとっては昔から使っている扱いやすい薙刀で切れ味も良いので重宝する、でしかなかった。


 日比谷公園には今ダンジョンは3つある。

 1つはいわゆる洞窟型でゴブリンや小鬼と言われる弱い半人型ヒトガタのモンスターが出るもの。

 1つは遺跡型と呼ばれる石詰みの重厚な地下へ下って行くダンジョンで、これが最大のダンジョンで低層から下層に向けて徐々にモンスターの強さが上がって行く。現在最下層は15で20層までは中性子爆弾での討伐が確認されているため18層まで確認出来たら討伐予定だ。

 最後の1つが珍しいタイプで入り口は普通の洞窟や遺跡なのだが、中に数メートル行くと広い空間が広がるフィールドタイプ。今回行くダンジョンは多くある草原、サバンナタイプだが、熱帯雨林や山、雪原、中には孤島や海などのあるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る