彼女の口癖は「星が降ってきて、世界が終わるんだって」
しろがね
彼女の口癖は「星が降ってきて、世界が終わるんだって」
――星が降ってきて、世界が終わるんだって。
ある日から、それが彼女の口癖になった。
突然、そんなことを言い始めたから、もちろん、困惑した。信憑性の薄い陰謀論にでも目覚めたのか、と内心、焦りもした。
けれども、彼女が、陰謀論めいたことを言うのは、『星が降ってきて、世界が終わる』――そう言うときだけなので、別に陰謀論に目覚めたとかそう言うわけではないらしい。
彼女は、夜寝る前とか甘えてくるときに決まって、そんなことを言った。
よく意図が掴めなかったけれども、彼女には、彼女なりに理由があって『世界が終わる』なんて言っているらしい。
小学生のころぶりに、都市伝説がどうたら、秘密結社がどうのこうのと書いているサイトを見たけれども、星が降ってきて、世界が滅ぶ。そんなことを言っている記事は、一つも見当たらなかった。
――まあ、子供の悪ふざけに似たものか。
そう結論づけて、あまり気にしないようにした。はいはい、と受け流すようにした。
彼女が、『星が降ってきて、世界が終わる』なんてことを言い始めて、数週間が経ったときのことだ。
彼女が、どこかに行ってしまった。
部屋の二人でいつも食事をとっていたテーブルの上に書置きがあった。
さようなら、元気でね。
そうひとこと、書いてあるだけで、他には何も書いてなかった。
彼女の部屋からは、ごっそり、物がなくなっていて、彼女を感じさせるものは、微かに残る彼女がよく使っていた香水の匂いだけだった。
いつ、部屋のものを全て移動させるなんて大がかりな作業をしていたのか。
皆目見当がつかなかった。
本当は、彼女のことを愛していなかったのかもしれない。
そんなことを思ってしまった。
彼女が二人の家を出て行ってから、数カ月が経ったころ、ありえないことが起きた。
起きた時点でありえないとは、言い難いけれども、普通に考えてありえないことだ。
なんと――。
『二年以内に、隕石が降ってきて、世界が滅びます』
そんなことがニュースで報じられた。こんなあっさりした言葉ではなかったけれども、要約すると、そうひとことでまとめられることだった。
嘘だろう、と思って、ありとあらゆる情報メディアを駆使して情報を集めたが、どうやら本当らしい。
彼女が『世界が滅びる』なんて言ったときには、信じられなかったのに、自分とは、ほとんど無関係――赤の他人と言っていい人間が言うことの方をあっさり、信じてしまう自分が嫌になった。
世界が滅びる。
世界が滅びることを信じてからは、彼女が当時、どんな気持ちでこのことを口にしていたのか、痛いほど感じた。その痛みを感じる度に、歪ながらもバランスを保っていた心は、真っ黒に染まっていく。
どうせ、世界は、終わるんだ。
どうせ、もう誰も自分のことなんて愛してくれない。
そう真っ暗な部屋で、膝を抱えてじっ、と一点だけを見つめていたとき。
インターホンが鳴った。
最初は、無視していたが、あまりにしつこく鳴るので、重い腰を上げ、ドアを開けに向かう。久しぶりに使う筋肉が、心なしか悲鳴を上げている。
ずきずき、する足を引きずるように歩きながら、ドアを開くと――。
彼女が俯いて立っていた。
そして、ドアが開いたことに気がついた彼女は、顔を上げ、こう言った。
「星が降ってきて、世界が終わるんだって」
彼女の口癖は「星が降ってきて、世界が終わるんだって」 しろがね @drowsysleepy
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