第二話:逸話の山と「何か」②
「という話を聞いてきたの」
「ちなみに、その話に出てきた家屋っていうのは、美座和さん自身、心当たりはあるんですか?」
「いえ、心当たりはないわ、そもそも今回のプロジェクトが始まるまであの山に関わったことすらはなかったもの」
「なるほど…」
頼が考える仕草をすると美座和が続ける。
「ただね、ここへ相談に来る前に、あの山のことを調べてきたのよ。そうしたら…」
「そうしたら?」
神凪が少し身を乗り出す。
「あの山は、ある化け物の逸話が残る“呪いの山”だったらしいのよ」
「うーん…逸話か〜…逸話って意外と嘘とか作り話のことが多いからな〜、私からはなんとも」
そんな話をしていると
「逸話がなんだかは知らんが、少なくとも不可解な現象が起きているのは確かだろうな」
そう一言言うと、美座和が軽く手を合わせる仕草をする。
「それでね、良ければなんだけれど、あの山に行って社員たちを探してきてもらえないかしら。神凪ちゃんたちって、異能力者なんでしょ?異能力者の神凪ちゃんが行ってくれたら、心強いんだけれど」
神凪はそんないきなりの提案に困惑しながらも頷く。
「え…えぇ。別にいいですけど…」
美座和はいきなり神凪の手を取り、満面の笑みで礼を言う。
「ありがとう!さすがその年齢で社長をやっているだけあるわね!」
神凪は苦笑いしながら、自分の後頭部を撫でた。
頼は美座和の性格が苦手なのか、立ち上がると一言。
「とりあえず善は急げだ、早く行こう」
そう言うと部屋から出ていってしまう。
「…なんかすみません」
「いえ、別に良いわよ……、私も一人で盛り上がっちゃったし」
美座和は神凪へ、ネットから拾ってきた山口から家屋までの地図を渡すと「お願いね」と一言言い帰っていった。
「も〜、頼ったらなんなの?腹立つ〜!」
神凪はイライラしながらも身支度を整え、頼を追いかけるように家を後にする。
頼は山の入り口で腕を組み、高く
すると、神凪が息を切らせながらこちらに走ってくる。
「遅かったな」
「いやいやいや、あんたワープホールじゃん!私、バイクと徒歩だよ。分かる?」
「そんなことより、見ろよあれ」
「はぁ〜……何?」
神凪が山の方へ向き直ると、山全体が不気味なオーラに包まれているのがはっきりと分かる。
「え〜…何これ…」
目を丸くする神凪を見て、「知らんのかよ」と言いたげな表情を浮かべる頼。
「……ねえ、そのムカつく顔やめてくんない?」
「お前にもこのオーラが何か分からんかったか」
「スルーすんな……」
神凪は腹が立つ気持ちを抑えつつ、このオーラが何なのかを考える。
「とりあえずこれだけを見て分かるのは、入っても死ぬことはないってことぐらいかな」
「よく分かるなお前」
「そりゃね、人を殺せるくらいのオーラだったら、とっくに私以外の『巫女』とか『祓いや』とかが動いてるよ。それに、このオーラはまだ弱いほうだし」
頼は「なるほど」と呟きながら聞いている。
「それじゃあ安心だな」
そう一言言うと、二人は不気味なオーラに覆われた山へ一歩踏み出す。
踏み入れたその瞬間、全身が重くなるような怠さを覚える。
だが、二人は気にせず山道を進む。
「そういえば、美座和さんが話しているとき、なんか言いたそうだったけど、なんで言わなかったの?」
「ん?あぁ、あれか?いや、ちょっとあのおばさ…」
頼が話し終える前に、いきなり茂みがガサガサと揺れる。
「!」
二人は即座に戦闘体勢を取るが、茂みから出てきたのは、手のひらサイズの小さな子ウサギだった。
神凪は「な〜んだ」と肩の力を抜き、安堵する。
子ウサギは人懐っこく、神凪の足元に擦り寄る。
「え〜、何この子。可愛い〜!」
神凪は子ウサギの頭を撫でながら癒されていると、子ウサギは神凪の顔を見上げ、首をかしげた。
「え?マジでこの子可愛くない?」
「そうだなぁ〜」
頼は興味なさそうに答える。
その返事に納得していない神凪は、頬を膨らませた。
「この可愛さが分からないなんて可哀想ですね〜。ね、ウサギちゃん」
神凪がそう語りかけると、子ウサギはいきなり、人間のような不気味な笑みを浮かべた。
その笑みの異常さに神凪が驚く間もなく、子ウサギが低い声で一言。
「コロシテヤル」
「そこから離れろ!」
頼が叫ぶと同時に、美座和の話に出てきた「それ」が茂みから飛び出してきた。
目は空洞、体は異様にねじれ、ブリッジの姿勢で異常なほどのスピードで迫ってくる。
「ちょ、えぇ!?」
神凪は咄嗟に避け、頼と共に走り出す。
「ひえ〜、あれが例の“ブリッジマン”?」
「みたいだな」
神凪は走りながら体を翻し、追いかけてくる「それ」に向けて手のひらをかざす。
「異能力、
神凪の異能力、「
異能力によって作られた火の玉を「それ」へ三つ飛ばすが、すべて
「やっぱりダメか〜」
気持ち的にはもっと撃ちたいところだが、ここは山の中。
薄暗く湿っているとはいえ木々が大量に生えているため、引火の恐れがあることを考えると好き放題に打つことはできない。
これは頼の異能力、「
「そう悩んでいる時間があるなら、ありとあらゆる可能性を潰すことに使ったらどうだ?」
頼はそういうと、ワープホールからハンドガンを取り出し「それ」へ発砲しようとする。
「ちょい待てぇぇい!」
神凪は慌てて頼を制止する。
「何だよ。このままだと捕まるのは俺たちだぞ?」
「それはそうなんだけどさ、もしかしたら助けられるかもしれないじゃん!」
頼は一瞬驚いた顔を見せたあと、苦笑いをしながらため息をつく。
「そういえば、お前はそういうタイプだったな」
仕方なく、他の方法を模索する頼。
すると、神凪が何かを思いついたように指示を出す。
「頼!何とかワープホールにあいつを入れて!飛ばす場所はどこでもいいから!」
「何だか知らんが、とりあえずわかった」
頼はワープホールを男の前に生成する。
だが、男はワープホールをすり抜け通り抜けてしまう。
「え?なんでだ!?」
頼が驚く中、神凪は予想通りといった表情を見せる。
それは神凪の中で導き出した一つの可能性。
それは追ってきているものが幻覚による物だった場合。
あれだけの山を囲むオーラがあれば幻覚を作ることは難しくないだろう。
そして幻覚はワープホールに入らない。
(もしこれが幻覚だとするならば………!)
「それじゃあ次!頼、超デカい閃光を作って!」
「了解、作るけど直視するなよ!」
頼は両手で円を作り、その中で一気に放電する。
瞬間、周囲を白く覆うほどの強烈な閃光が発生し、それと同時に「それ」の姿は消え、森の奥から「うにゃ!?」という声が響く。
「よ〜し!聞こえたぞ!」
神凪は声が聞こえた方へすぐに駆け出す。
そこには茂みの中で座り込む一人の女の子がいた。
「お!犯人は君だな!」
「へにゃ!?見つかったですか!?」
女の子は慌ててその場から逃げ出す。
「ちょいちょい、逃げるな!」
神凪は女の子を捕まえようとするが、彼女は小さな木々の隙間を軽々とすり抜け、逃げていく。
対して神凪は木々に引っかかりながら追いかけるのが精一杯で、まるで捕まえられそうにない。
「ちょ…待って!」
「待てって言われて待つやつなんていないですよ!」
女の子は茂みの中へ飛び込んでいった。
神凪も女の子を追って茂みに飛び込む。
すると――。
茂みを抜けた先には、木々が一本もない開けた空間が広がっていた。
そこには太陽の光が差し込み、風にそよぐ芝生が一面に広がっている。
その美しい景色の中央に、女の子が立っていた。
「こんな場所、山の中にあったっけ?」
神凪は目の前の光景に驚きつつ、女の子を見つめる。
よく見ると、彼女には可愛らしいケモ耳があり、腰からは二本の尻尾がふわりと揺れている。
「へぇ〜…美座和さんが言ってた『化け物の逸話』って、君のことを指してたんだね」
神凪がそう言うと、女の子と目が合う。
彼女の瞳は左右で色が違い、片方が鮮やかな赤、もう片方が美しい青に光っていた。
「それじゃあ、始めようか、化け猫」
神凪が挑発するように言葉を放つ。
それに応えるように、女の子はふふっと笑みを浮かべる。
「それじゃあ、始めましょ、人間」
両者の声がぴったりと揃ったその瞬間、戦いの幕が切って落とされた。
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