第15話 ホテルの部屋に女子大生がやってきた

その、人の形をした『抜け殻』は窪地の中央あたりにあった。


カサカサに乾いていて半透明。まさに蛇の抜け殻みたいだった。


顔のあたりは、自分で引っ掻いたのかボロボロになっていて、判別はできないが、全体的に細いし、胸の部分が膨らんでいるような気がするので、多分女の人だと思う。


抜け殻の下にある蛇の骨は、蛇の形を保っているものもあったが、そのほとんどは噛み砕かれたようにバラバラになっており、異臭もするので、排泄物の中にあったものが雨で洗い流されたようにも見える。


「これって………、何かわかります?」

「いえ……、私も初めてみます……、ちょっとおじいちゃんに聞いてみます」


梛さんは、周囲の写真をパシャパシャと撮って、豪徳たけのりさんに送信したようだ。


俺はその間に、瘴気のたなびきを辿って、少し奥に足をすすめた。


「梛さん! こっちこっち!!」


そこには、ごく小さいが滝になっているところがあり、小さくはあるが豊かな水量を湛える川があった。


滝の近くに、小さな祠があり、そこが開いている。しめ縄も引きちぎられ、どうみても荒らされた後だ。


やってきた梛さんはすぐにその祠を検める。



「うーん……、御神体がなくなってますね……」

「ここは?」

「この山の奥の院でしょうね……。何が祀られていたかまではわかりませんが」


周囲を探ってもこれ以上何もなさそうではあるし、大蛇の気配もないので、一旦山を降りることにした。


奥の院が荒らされていることを知った山守さんは、大変驚いていたが、何が祀ってあったかまでは知らないようだった。


「奥の院までは年に一回しかいかねぇですし、あすこは開けちゃいけねえ決まりになってるんで」


何百年も愚直にお役目を受け継ぎ、守り続けてきたのだろう。


山守さんは、詳しいことは何も知らないようだったが、街に、元々この村の出身で、この辺りの古史古伝を集めて研究している人物がいるという事で、そこに行けば何かわかるかも。という話が聞けた。


そこで、その方の住所を教えてもらって、明日向かうことにした。


一応、妖が入ってこないように戸締りをして、玄関貼っておくようにと、妖避けの符を渡し、町の人たちに配ってもらうことにした。


俺も半分くらいは書いたのだが、渡したのは梛さんだ。


ジャージのおっさんと巫女さんでは説得力が違う。


「日が暮れてからは出歩かないようにしてください。明後日にまたきます」


明日1日で何がどこまで判明するかはわからんけど、調べないよりはマシだからね。



その日の夜、街にあるビジネスホテルに泊まったのだが、夜になって梛さんが俺の部屋を訪ねてきた。


ホ、ホホホホホテルの俺の部屋に!? おおおおお女の子が!!!???


不生不滅ふーしょうふーめつ不垢不浄ふーくーふーじょう不増不減ふーぞーふーげん 是故空中ぜーこーくうちゅう無色無受想行識むーしきむーじゅーそうぎょうしき無眼耳鼻舌身意むーげんにーびーぜっしんにー無色声香味触法むーしきしょうこうみーそくほう…………………


扉を開けて招き入れるが、何せ狭いビジネスホテルなので1人がちっちゃい椅子に座ると、もう1人はベッドに座るしかない。

しかも、それでもスペースに余裕があるわけではない。


しかし、梛さんは、何の躊躇もなく、ポスンとベッドに腰掛ける。


うん、まあ、いちいちこんなことで意識してるのキモいよね。知ってる。




色即是空しきそくぜーくう空即是色くうそくぜーしき…………




「実は、さっきの、おじいちゃんに聞いてみたんですよ」

「あ、そういえば写真撮ってましたね」

「ええ、それでさっき返事が来て……、どうも 『みずちろし』じゃないのかって……」

「何です? それ?」

「うーん。まあ、一言で言えば呪いの一種です。呪殺とかと違うのは、呪いで直接殺すわけじゃないってとこですね。呪いを自分に降ろすんです」

「呪いを降ろす?」


梛さんは、スマホを見ながら続ける。


「えっと……、強い恨みを持つ人とかがやることがあるって。土地柄やなんかがあるのでメジャーな方法じゃないらしいんですけど、えっと……、88日精進潔斎したのちに、山に入り8日の水行。その後は……、うわ……、888日に渡って蛇だけを生のまま食べて、日に888回、蛟の呪言と対象の死を願い唱え続ける………って。………マジ?」


呪言の1サイクルが1分だとしても888分……。

寝る時間と食う時間以外を全てそれに費やして約2年半を過ごしたのか……。


「その………、蛟降ろしをやった人がいるってことですよね………」

「ですよね………。それは自分に呪いを降ろすので、普通の呪詛返しとかでは効かないらしいんですよ」

「なるほど………」


自分をようにして、その呪いに自分の呪いを練り込むわけだ。


「ま、とりあえず、明日はその歴史を研究してる人のところに行ってみましょ? 被害者の人ももう一回調べ直してもらえるように頼みました。お金かかっちゃいますけど」

「あ、やっぱそういう人いるんですね」

「知らないってだけで危なくなることありますからね。あたしたちみたいの専門で、やってくれる人もいるんですよ。ある程度知識もあるので、危険かどうかの線引きもできる人たちだから安心です」


そう言って笑う梛さん。


「じゃ、山に行くのは、その2つの事がわかってから?」

「うーん、でも役にたつ情報とは限りませんしね……、とりあえず研究家さんのとこに言って話を聞いて、何かわかれば対策すればいいし、わからなくても、山には行っちゃいましょう」

「そうですね。被害者の情報は最悪無くても、除霊には関係ないし」

「ですです。恨みの原因がわかれば、そっちからアプローチする方法もなくはないですけど、呪いが暴走して関係ない人まで襲う前にやっちゃった方がいいかもしれません」


「そういう危険があるんですか?」

「実体がある系ですからねー。対象が死んだら呪いがなくなるわけじゃないっぽいですし……、ただの呪いだったら余程近づくとか、邪魔するとかじゃなければ対象だけに向かうんですが」


まあ、巨大な大蛇の姿は被害者が亡くなった後で見られてるわけだしな。普段は隠形で隠れてるみたいだけど、デカい蛇だから、何かの拍子に巻き込まれただけでも死ぬ。


「じゃ、そろそろ戻りますね。おやすみなさい!」

「おやすみなさい」


梛さんは、部屋に戻るときにこちらを振り向き、ペコリとお辞儀をして言った、


「今日は本当にありがとうございました。完全に土地神のせいだと思ってました。被害者が建築関係者とか、祭神が蛇だとかの話に惑わされて……。昔は荒神だったなんて話もあったので完全に思い込みでミスするとこでした」


という言葉が、俺でも何かに役に立てることがあるんだと、嬉しかった。

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