第11話 一切嘘は付かずに酷いことになる悪魔の契約みたいなアレ

結局、梛さんは、なんて事なく起き上がり


「あははー、負けちゃいました」


と笑っていた。


いや、これ、笑ってるけど、家帰ってからめちゃくちゃ悔しがるパターンのやつじゃん。


陰の者である俺は、陰の波動に敏感なのだ……。


ジジイは


「おい、さっきの技、なんで名前だ?」


と聞いてきた。


「いや、名前なんかないですよ。咄嗟にやっただけだから」

「んじゃ、名前つけろよ」

「やですよ。中学2年生じゃあるまいし」


大体俺は、必殺技の名前を叫ぶタイプの話は苦手なのだ。

自分がこれからする事相手に教えてどうすんの。あーゆーのは知られても避けようがない技の時だけ叫んでいいのだ。「核弾道ミサイル!」とか。


「何言ってんだ。大事な事だぞ」


と、さらにジジイは推してくる。


やけにしつこく推してくるので、話を聞けば、名前というのは、そのものがそのものであるために非常に大事な意味を持つという事だ。


名付けられないものは何者でもない。


術も名付けることによって、効果が安定し、正しい形を得るという。


イメージしやすい、とかそういうことじゃないんだな。


「まあその分、予想外の力ってのは出にくくなるけどな。そういうのは変に捻れて厄介な事になることの方が多いから、起きない方がいいんだ」


都合よくパワーアップして敵を圧倒なんて都合のいいことはやはり起こらないらしい。


仕方ないので『散々衝破はららしょうは』と名付けた。

中学2年生? 俺の隣で寝てるよ。


「よし、じゃ約束通りメニューを変えよう」

「マジすか!」


まあ、あそこまで孫娘有利にやっといて、約束まで反故にされたらかなわん。

俺は霊術の勉強をもっとしたいのだ。



「じゃ、武器もやるか。剣は、梛お前が教えろ。基礎の方はそうだなチーシーとケトルベルを加えようか」


ジジイは軽トラの荷台から、円筒形の石がついた棒と取手のついた鉄の玉を持ってきた。


ジジイがいかにも軽そうに放り投げるから、そんなでもないのかなと思ったら、ズシンドシンと重そうな音を立ててそれらは地面にめり込んだ。


嘘だと言ってよバーニィ。


「え? メニューが増えるの?」

「約束だからな」


そんな約束した覚えはない。

いや、確かに、変えるというメニューの内容を確認はしなかったが……。


荷台からすぐ出てくるところを見ると既定路線だったとしか思えん。


くそがぁああああぁぁあー!!!


「あ、チーシーとケトルベルは力任せにやると、肘とか腰がぶっ壊れるから気をつけろよ」


…………。


くそがぁぁぁあーーー!!



そっから更に2週間、過激さを増したジジイのトレーニングと霊術の勉強の日々が続いた。

近所への挨拶も、走り込みながら済ませた。


汗だくだくで、愛想笑いもできない息も絶え絶えの、でかいリュックを担いでやってきた知らない男を、みんな、あらあら元気ねえみたいな感じで受け入れてくれたので実に鷹揚な土地柄なんだろう。


微レ存で存在する、これが陰陽師の日常で皆さんが慣れていらっしゃるだけ、という可能性は積極的に無視していこうと思う。



なんか普通にいい人そうな人たちばっかりだったし、お年寄りの方が多かったけど中には美人のお姉さんとか、かわいい女の子とか、お気怠ちょいエロ未亡人みたいな人もいて、この町に住むのがちょっと楽しみになったというのに初動を完璧にミスった。


ジジイ許すまじ。


いや、なにを期待しているわけでもないんだけどさ……。


都会だと隣に住んでる人の顔も知らなかったから……。



毎日毎日、朝早くから夜遅くまでトレーニングと勉強に明け暮れ、クタクタになってる俺をカゴメは完璧にサポートしてくれた。

式神だと知らなくて見た目が10歳じゃなければ好きになっていたかもしれん。


式神じゃなかったらそんなことしてくれないだろうけど。


デカい買い物袋抱えてヨチヨチ歩いてくるのとかみると、見た目で罪悪感が湧くんだよなー。


ある日、母屋の方に大切なものを置いておく部屋みたいのを発見したので、カゴメの本体である竹籠をそちらに移し、乾いた布で拭いてそちらに飾っておいた。


カゴメは嬉しそうにニコニコしていたよ。


守りたいこの笑顔。


どうも霊的に隠されていた部屋らしく、一見普通の部屋のようだが、物理的にも霊的にも大変強固に保護されているっぽい。


最初に見た時にはなかったはずの部屋だから、レベルに応じて解放される拠点のようでワクワクした。


他にも隠された部屋はありそうだな。



カゴメと顔を見合わせてニッコリしていたら、外で安っぽいクラクションの音がした。


さようなら、俺の平穏。


ジジイはいつにも増していい笑顔で


「よし! じゃあ今日は1000分の2組手をやるか!」


と言った。


刻んでくるなー。


「今日は鉄指てっしも使っていい」


よし! 無制限なら、いつもよりはやれるだろう。



と、思っていた時期が僕にもありました。


時期っていうかほんの15分くらい前のことだけど。


やべえ。ほんの0.1パーセントの違いで、こんなに違うの?

鉄指てっしの術だけでなくて、他に覚えたいろんな術を使ったが、ジジイは悉く無視。


その全てを圧倒的な暴力で蹂躙した。


結果として、ご覧の有り様なのだが、30もすぎた男が地面に顔擦りつけて海老反りになってるのはちょっとどうかと思う。若い頃誘われて一回だけいったヨガでもこんなポーズさせられなかったぞ。


だが、ジジイは腕から血を流しながらニコニコしている。


ぶっ飛ばされる寸前に、鉄指てっしがまたも腕にかすったのだ。


「おー、だいぶ成長しとるじゃないか。これならそろそろ行けるか?」


どうでもいいけど止血してくんないかな。血をダクダク流しながら笑ってる爺さん怖すぎる。



「そうだね。もう大丈夫かも」


最初に比べると、大分言葉が砕けてきた梛さんも、なんか同意している。


なにが?


「お前、梛と一緒に行って仕事してこい」



そういうことになった。









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