ぬりかべの息子!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 ぬりかべには妻がいた。名前は渚。渚はぬりかべの子を産んだ。助産師のオバチャンは驚いた。


「渚ちゃん! 四角いこんにゃくみたいなのが出て来たんだけど!」

「あ、それ、壁なんです。産湯をお願いします」

「産湯と言われてもねぇ。どこが目で鼻で口だかわからないんだけど」

「あなた、お願い」

「うん、任せとけ」


  子供は男の子で、壁男と名付けられた。



 幼稚園に入園する前に、壁男は人間の男の子に変身する術をおぼえた。


「あなた、よかったわね。これで壁男は普通の幼稚園に通えるね」

「うん、よかった、よかった」



 壁男は幼稚園を無事に卒業、小学校に入学した。そして、同じクラスの麗子ちゃんという女の子を好きになった。それは壁男の初恋だった。壁男だけではない。クラスのほとんどの男の子が麗子ちゃんのことが好きだった。


 壁男は麗子ちゃんと途中まで帰り道が同じだった。だから壁男は麗子ちゃんに懐いてずっと話しかけた。でも、麗子ちゃんはいつも壁男に冷たかった。単純に、麗子ちゃんは壁男が好きじゃなかったのだ。


「麗子ちゃん、秘密だけど僕はヒーローに変身出来るんだよ」

「どんなヒーロー? カッコイイの?」

「うん、カッコイイよ」


 その時、1台のトラックが突っ込んで来た。咄嗟に、壁男は壁に変身してトラックの前に立ち塞がった。着ていた服はビリビリに破れた。壁男は大きな壁となって、トラックを防ぎ麗子ちゃんを守り切った。


「すまない! 居眠りしてしまった!」

「もういいから、早く行ってください」


「どう? 僕の変身は? カッコイイだろう?」

「ごめん。せっかく助けてくれたのに悪いんだけどカッコ悪い。だって壁だし」

「え! でも、ちゃんと麗子ちゃんを守ったよ」

「うん、守ってくれてありがとう。でも、壁になった壁男君、超ダサイ」

「じゃあ、人間の姿に戻るよ」


 壁男は人間の姿に戻った。服がビリビリに破れ散ったことを忘れていた。人間に戻った壁男は全裸だった。


 麗子ちゃんは言った。


「きゃー! 裸なんか見せないでよ、最低、最悪、大嫌い!」



 走り去った麗子ちゃん。全裸の壁男も全速力で家まで帰ったのだった。







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ぬりかべの息子! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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