モブ悪役転生〜ゴロツキAは主人公には絡まず、ヒロインには絡みまくり

リアム

第1話主人公の物語は始まらない

 今日だ、今日で俺の人生のすべてが決まる。


 俺、東上とうじょう 研磨けんま、もといデルド・アデリンは二度目の人生である今世において人生の岐路についていた。


 この世界は俺が何度もプレイしたゲーム、『天翼てんよく フルブロジア』の世界であり、当然俺はこの世界のシナリオを網羅していた。


 そんな俺が転生したのは、というと序盤に登場するだけのモブ敵のゴロツキAだった。


 気がついたときにはそれは大層絶望したものだ。一週間くらい寝込んだかもしれない。


 何ならもう一回死んで転生することも何度も考えた。


 こんな負け犬のような人生が決定している人生を歩まされるくらいなら死んでやる、と何度も思った。


 それでも、今日まで生きてきたのは一縷の望みがあったからだ。


「もうすぐだ」


 これに失敗すれば転生してからの二十年間が無駄になる。そんな大事なときなのに、なぜだか笑みが溢れる。


(この一手ですべてが決まる)


 なぜ笑みを浮かべるのか、それは単にワクワクしているからだろう。


(俺のこの一手で、世界が、物語がすべて決まる!)


 なぜこんなことを考えているのか、それを理解してもらうためにはこのゴロツキAについて、今一度説明しなくてはならない。


 俺事、ゴロツキAは名前すら登場しない正真正銘のモブだ。


 ただ、このモブは天翼 フルブロジアにおいて最も印象的なモブの一人である。


 このモブが登場するのは物語の序盤も序盤。何せこのゴロツキAは主人公が一番最初に敵なのだ。


 主人公が母に起こされ、王都に買い出しに行かされたあと、路地裏にて主人公に絡んで戦闘になる。


 そのまま戦闘のチュートリアルに入るというのがこの物語の流れである。


 それがこのゴロツキAなのだが、転生してから一週間後、ベットの上で布団に包まりながら絶望していたあの日、一つの可能性を思いついた。


(物語の序盤、主人公はゴロツキAに絡まれて戦闘になり、そこに偶然通りかかったヒロインであり師匠でもあるアメリアに、その才能を見込まれて学園に推薦される。というのが話の流れだったはず)


 ならば、俺が主人公に絡まなければどうなるのか、そう疑問に思うのは不思議ではないだろう。


(俺が絡まなければ、主人公はアメリアに戦闘を見られることなく去っていき、、のではないか!?)


 それは前世で人生に絶望していた俺には、あまりにも大きな希望だった。 


 そしてゴロツキなんかに転生した影響か、あまりにも強欲な考えが浮かんでくる。


(主人公がいない物語、なら俺が主人公の真似事をしても、何も問題はない、よな!)


 そのチャンスが今目の前にある。この幸運には誰もが笑みを止められないだろう。


(き、来た!!)


 主人公のシルエットが見えた瞬間、狙い澄ましたように颯爽と歩き出す。


 一歩、一歩と近づくたび、心臓の鼓動は速さをましてゆく。


 だが確実に主人公との距離は縮まっていた。


 もしかしたら、このときの俺は原作のゴロツキAより悪辣な笑みを浮かべていたかもしれない。


 主人公とさぁ、出会う! その瞬間、素早いステップで主人公の真横をスッと通り過ぎる。


(い、いいい、行けたー! アデリン選手、完璧なスルーを決めました!)


 誰か実況してくれないだろうか! 俺は今、人生最大のチャレンジを成功させたんだ。


(思えばこれまでの人生、長かった。村を襲ってくる魔物を鎮圧したり、魔王軍幹部を名乗るバカをなぶり殺したり、どっか国の皇女だとか名乗るイカレ野郎に付きまとわれたり、それはもう色々と面倒なことに巻き込まれ――)


 その時、聞いたことのない怒声が裏路地に響き渡る。


「ナニしかとしてんだよ三下モブがぁ!!」


 驚きのあまり一種の硬直状態に陥っていると、後ろからやってきた主人公に胸ぐらを掴まれた。


______________________________________

 今回は主人公目線になりましたが、基本的には三人称視点で物語は続きます。


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