A連打で異世界最速クリア……、したいがAボタンがない件
室伏ま@さあき
異世界転生、そして完結
「おめでとうございます!あなたが第99999999人目の勇者です!」
「うるせぇッ!!」
突如、頭の中に響いた声に、俺は思わず毒づいた。
どうせまた長ったらしい説明が始まるんだろ。Aボタン連打の準備を……と思ったが、このゲーム、そもそもボタンがない。
「まぁまぁ、そう焦らないでください。私はシステム担当の妖精アウルです。あなたは異世界に召喚された勇者として──」
「はいはい、魔王倒せってんでしょ?分かったから早く始めようぜ」
アウルと名乗った声は一瞬黙り込んだ後、クスクスと笑い出した。
「面白い勇者様ですね。ええ、おっしゃる通り。でも、このゲー……じゃなかった、この世界では、チュートリアルをスキップすると死にます」
「へ?」
「だって、この世界の戦闘システムって知らないでしょう?」
確かにその通りだ。
「でも安心してください。私、要点だけ説明するのが得意なんです。3分で終わりますから」
そうして始まった異世界生活は、予想以上に快適だった。
アウルは本当に無駄口を一切省いて、必要な情報だけを教える。
敵が出てきたら「弱点は火!」「後ろに回れ!」など、既にクリア済みのゲーム実況者みたいに、テンポよく指示を出してくれる。
おかげで、ストーリーの細かい設定なんて知らなくても、どんどん先に進めた。
村人との会話?──全スキップ。
王様からの依頼?──要するに次の目的地さえ分かればいい。
「勇者様、右の扉を選んでください。左は2時間の歴史講義イベントです」
「さすが!それでこそ俺の相棒だぜ!」
そんな感じで、俺たちは順調に進んでいった。
世界の命運を握る重要な場面も、アウルが「ここは“A”ですね」「いえ、今回は“B”が正解です」と、サクサク教えてくれる。
そしてついに、最後の魔王戦。
「勇者様、魔王が仲間になりたいそうです。これまでの因縁とか、実は悪くない奴だった展開とか、5万字くらいのシナリオが...」
「スキップ!」
「はい、要約すると、魔王と和解エンドが推奨ルートです。しかも戦わずに済みます」
「よっしゃ!じゃあそれで」
こうして、勇者最速……かもしれない魔王討伐(?)が完了した。
エンディングでは山のようなテキストが流れ始めたが、もちろん全スキップ。
「あの、勇者様...最後くらいは……」
「いいんだよ。だってさ、俺がクリアしたのはゲームじゃなくて“アウルとの冒険”だったんだから」
「……もう、勇者様ったら」
声の中に含まれる笑みが見えた気がした。
〜完〜
A連打で異世界最速クリア……、したいがAボタンがない件 室伏ま@さあき @murohushi
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