第33話

アトラクションの電灯ひとつじゃ全体を照らすなんてとうに無理で。


ここのベンチにでさえ届かない。だけど高階はそれを見つけてここに来たって言っていた。


そういう小さなことが、おれのことを救ってくれたんだ。



「あのね、わたし、中2の時にこの街に引っ越してきたんだけど」


「え、そうなの?」


「うん。だけど小学校1年生まではこっちにいたんだ。だからよくこの遊園地で遊んでたの。そのころは友達が一人だけいて、その子とここに来たりしてたんだ。このベンチでアイスやポップコーンを食べたりもしたの」



あ、たぶん、あのうさぎとクマのマスコットキャラの入れ物だったと思う。



「その友達っていうのが、松木さんだったんだ」


「…え?」


「ふふっ、向こうはもう覚えてないだろうけどさ、わたしは今までで唯一できた友達だったから覚えてたの。またこの街で暮らせるってなったときは松木さんに会えるかもしれないって、もうそれだけでうれしかった」



今日のことで、高梨がどれほど傷ついたかわからない。


今までどれくらい淋しい思いをしてきたのかもわからない。



だけど、何も知らなかったけど少しだけ気づいてたんだ。使うような態度をとられても松木との関わりを大切に思っているんだろうなって。松木に話しかけられるとうれしそうだなって。

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