第19話



ここじゃない別の場所で会おうとか、学校でも話しかけていいかとか、一応聞いたことはあるんだ。


だけどもしかしたら答えは聞かなくてもどこかでわかっていたのかもしれない。



首を横に振る高梨を見て、確かに安堵した自分がいた。


そんな弱い中身のことを、きみは見透かしていたんだ。



「小鳥遊くんのバイト先ってどんな感じ?」


「ふつうの飲食店だよ。年上の人が多くて楽なところはあるかな」



何気なく答えると小鳥の鳴き声みたいな笑い声が静かな夜に響いた。



「小鳥遊くんが実は人付き合いが苦手だなんてみんな知ったらものすごく愕くだろうなあ」



あ、今、頭の中で想像してるにちがいない。視線は星空を向いていて、おれもつられて空を見上げる。松木の愕いた顔でも浮かべてるのかもしれない。



人が、苦手だ。それはもう物心ついた頃からだったと思う。


だけど無視したら失礼になる。笑顔に対しては笑わないと相手を淋しくさせてしまう。誰かが嫌がるようなことはしてはいけない。なんて常識的なことを意識してやっていたら、自然と周りにはたくさんの人が集まってくるようになっていた。


気づけば一人になる時間なんて学校じゃほとんどない。



時々、広く果てしない海の中にいるような気分になる。


泳ぐのは得意じゃない。小学生の頃習っていたことが少し活きてるだけで、息継ぎは苦手だ。


それに対して、高梨は水の中を上手に泳ぐ。決して速くはないけど、地道に手足を動かし、足を着くことなく、気づけば誰より長い距離を進んでいる。

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