第15話



小鳥遊くんのお腹近くのブレザーのボタンは、少し前までわたしのお腹に一番近い場所にあったものだ。



教室の中心で今日もクラスメイトと談笑している彼のことを控えめに見て、そんなことを思う。こんな頭の中、本人には絶対に見せられないや。



本当は、夜の一瞬のように彼のことをひとりじめできたらいいのになあ。


だけどそれはわたしだけの幸せであって、小鳥遊くんの幸せではない。独りよがりを押し付けることはできないからせめてあのボタンに気持ちを込めたんだ。



あ、いけない。見惚れていないで準備しなくちゃ。


1年前に購入した時よりも大分くたびれたスクールバッグのファスナーを開け、あいた口から5つのノートとペンケースを取り出す。少し見直ししよう。



自分のにはこんなにたくさん色の付いたペンは使わない。黒と赤ペンと、たまに青を使うくらい。だけど松木さんたちの分には、彼女たちらしくオレンジやピンクを使ってる。


そうしてほしいって言われたわけじゃないけど松木さんたちはカラフルなイメージだからそうしたら、初めて書いた日、目をキラキラさせながら「ありがとう」って言ってくれたんだ。


それがうれしかった。こんなわたしが松木さんたちの役に立てることがあったんだと思って、世界に少し色が足されたような気持ちになった。



「高梨ちゃんおはよー!」



名前を呼ばれて顔を上げると松木さんたちが登校してきていた。

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