第8話

愕いた。愕いて、「えっ」とこぼした声を、小鳥遊くんが拾って目が合った。念の為にお互い名前を確かめ合って、「同姓同名だから知ってたよ」なんて言われた時は心臓が夜空に飛んでいきそうだった。



そうして気づけばもう1か月、ほとんど毎日のように夜の廃墟の遊園地に忍び込んでふたりで会っている。



クラスの子も、親も、誰も知らない。


約束がない待ち合わせ。



あの小鳥遊くんがこんなに近くにいて、ノートもほうきも何も持たないわたしと話しをしてくれる。


わたしの言葉で、自分の言葉で、教室で見る表情の種類とは別の、型にはまらない表情をくるくる代わる代わるに見せてくれる。



それは今夜空に在る星が落ちてくるのと、同じ確率。



というより、あそこに在った星が、落ちてきたんだ。



世界の中心にいるような小鳥遊くんが、こんな、片隅のわたしに向かって。なんて、夢のようなこと。



取られているのを見かけたからボタンを付けてあげようと思って持ってきた裁縫セットは、やっぱり無駄にならなかった。よかった。


何も言わなかったのに、ブレザーを持ってきてくれていた小鳥遊くんがうれしい。小鳥遊くんのブレザーのボタン。確かめるように、閉じこめるように、丁寧に縫っていく。



「勝手に取られたんだよ」


「もう。そんなむすっとしないで。みんな小鳥遊くんのことが大好きなんだよ」



子供みたいな口ぶりに、心臓がくすぐられるような感覚がした。


かわいいひと。器用に見えて、自分の奥の見せ方を知らない不器用なひと。

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