第12話 デート2
王子様を楽しませようとしても、人付き合いが苦手な私だ。
ことごとく空回る。
「哺乳類がいっぱいいるコーナーが終わっちゃったけど、次はどこに行こうか? ローズちゃんは提案ある? ってないよね――」
「ここ、行こう! 世界の猛毒展!」
つまらなそうにしているやつと一緒にいても楽しめないと思ったので私も楽しむことにした……のだが。
私と王子様では感性が違った。
「モウドクフキヤガエル!」
「き、気持ち悪い……!」
「ハブクラゲ!」
「こ、怖い……!」
「マウイイワスナギンチャク!」
「か、可愛くない……っ」
「……」
どれも危険なレベルの有毒生物。
それは生きるために身につけた特殊な力であり、私は格好いいと思うのだが、王子様はお気に召さなかったらしい。
ついてきてくれてはいたが、顔色は芳しくなかった。
このまま終わったら微妙な空気になる……!
それを回避したくて深海生物コーナーに行った……のだが。
人気があるメンダコとチンアナゴはまさかの不在。
ダイオウグソクムシは王子様の感性にはそぐわず。
基本的にキモイ系というかグロい系というか、そういったタイプの深海生物しかいなかった。
そんななかで一番ひどかったのはクリオネ。
……お食事中だったのである。
顔だと思っていた場所が割れた……。
いや、あれ……。
流氷の天使とか言われてるけれど、悪魔の間違いだろ……。
私としては却って好感が持てたのだが、王子様は絶句……私に抱きついて震えていた。
それから、クマノミのコーナーに行ったけれど、イソギンチャクから出てきてくれなくて姿を捉えることはできず。
ウミガメのコーナーにはすごい人だかりができていてその姿を確認することができなかった。
あとで知ったのだが、なんでもここのウミガメは某アニメ映画のキャラクターのような動きをすることで知られていたらしい。
パンフレットの裏(というかむしろそっちが表だったのだろう)にでかでかと載っていた。
この水族館へは入れるようになってからすぐに入っていたため、ウミガメの展示スペースに直行していれば見ることが叶ったかもしれない。
見れたかもしれない可能性があっただけに王子様のショックは小さくないようだった。
諦めて出口に向かうことにしたのだが、空気が……空気が悪い……っ。
これは王子様へのご褒美だったはず、だよな……?
それなのに、王子様に元気がない。
私に話しかける時は頑張って笑顔をつくっているが、風前の灯火のように見える。
このままではいけないと思った。
……そう、これはご褒美なのだから彼女には楽しんでもらう必要がある。
決して、彼女には常に笑顔でいてほしいと思ったわけではない。
彼女が笑顔でないと調子が狂うという部分はなくはないが……。
何か彼女を元気にできるものはないか? と考えながら歩いているとそれが目に入った。
お土産屋さん。
「ちょっと待って!」
「……え?」
それを視認した瞬間私は、これだ! と思った。
王子様に断りを入れてから小走りでお店の中へと向かった。
店先に並んでいたのが、王子様が「たまらない」と言っていた動物のぬいぐるみで。
それを買おうと思ったのだけれど……。
「うぐっ、この小ささで三千円もするのか……っ」
十から十五センチほどの大きさでこの値段は……流石に手が出せない。
な、何か、何か代わりになるものは……!
私は店内を急いで見て回った。
「お買い上げありがとうございました!」
なんとか見つけた。
サイズも値段も最初に買おうとしていたものの十分の一くらいになってしまったが……。
私の財力ではこれが限界だった。
もう少し趣味に費やすお金を考えた方がいいかもしれない。
王子様、これで喜んでくれるといいが……。
なんて思いながら彼女の元に戻っていると――
「君可愛いねぇ!」
「俺らと一緒に回ろうぜ?」
「っ!? い、いや……。友だちと来てるから……っ」
……。
嘘だろ。
王子様が男の人たちにナンパされていた。
……しまった。
今日はいつもの王子様じゃなかったんだ。
いつもは「格好いい」にステータスが極振りされているが、今日は「可愛い」にもステが振られている。
王子様がされるのは逆ナンだろうという印象が強かった。
テスト前の月曜日の放課後に見た光景もそんな感じだったから。
王子様は女の子が相手なら軽くあしらえる……。
そう思っててこうなることを警戒せずに彼女を一人で待たせてしまっていた。
ぬいぐるみを買ったらすぐに戻れるとも思ってたから……!
相手の男たちは、長髪、眉毛なし、下衆な感じの垂れ目、多めのピアス、たるんでる身体。
片方は金髪ガングロ、もう片方は茶髪色白の二人組。
……どこかで見たことがある気もする。
ど、どうする……?
完全に計算外で。
どうするのがベストな選択なのか? その答えを出すのが瞬時にはできなくなっていた。
……ただ。
男の一人に肩を掴まれた王子様の身体がビクッとなったのを見た瞬間、私の身体は動いていた。
「この子、私の連れなんだけど?」
王子様と男の間に割って入って、男の手首を掴んだ。
私程度が凄んだところで相手を
その自覚はあったけれど、王子様が大変な目に遭いそうになっているのだ。
何もしないなんてことはできないだろう。
……今日は彼女へのご褒美をする日なのだから。
私に手首を掴まれた男(黒)はやはり怯みはしなかった。
「ああ? なんだ? もっさい女だな! ……いや、髪はあれだが悪くねぇ! お前とも一緒に回ってやるよ!」
掴まれた方は。
けれど、もう一人は。
「……ん? いや、ダイコク! このもっさいのって、北西高の付近で『南高の王子様』を捕まえた時にやってきたヤバいやつじゃ……!?」
私を見て
あっ、そうか。
どこかで見たことがあると思ったら……。
もう一人(白)が解説みたいなことをしてくれたから思い出せた。
三週間くらい前にも王子様に絡んでいた連中だ、こいつら。
「えっ!? ……あっ! あの時、キモイこと言ってたやつか!?」
……キモイとは失礼な。
けれど、黒い方も私のことを思い出したみたいで動揺しているのが見て取れた。
この瞬間に畳みかけるしかない!
「こんなところに二人で来てるなんてよっぽどでしょ、あなたたち。こんな、恋人か家族がたくさん来るようなところに男二人で来るなんて。やっぱりあなたたちってそういう関係なんでしょ? そうじゃないならこんなデートスポットに男二人で来るなんておかしい。さあ、キスしなさい。
――
「や、やっぱりあいつじゃないか!」
「くそっ! こんな気持ち悪いやつにまた遭っちまうなんてついてねぇ! お、おい、行くぞ!」
兎に角、王子様を守ろうと必死だった。
その必死さがうまいこと(?)作用してくれたみたいだ。
男たちは逃げるようにして去っていった。
気持ち悪いと思われることには慣れているから別に構わないし。
ただ、水族館は男二人で来るような場所ではないと決めつけるように言ってしまったことには、よくなかったなと後悔が押し寄せてきていた。
反省していたところに王子様が言ってくる。
「あ、ありがとう、ローズちゃん。また助けられちゃったね……」
……王子様、さらに元気がなくなってないか?
あんなのに絡まれたらそうなるか……。
本当に厄介なことをしてくれたな、あいつら……っ。
これだけ気持ちが沈んでいる王子様をどうやって元気づけたらいいものか……。
……あっ、そういえば渡すものがあったんだった。
これだけで元通りになってくれるかはわからないけれど……。
「……いや、私も配慮が足らなかった。何かあなたに贈ろうと思って……。その、勉強、見てくれたお礼に……。……これ」
「……え? ろ、ローズちゃんが私に?」
私は彼女に渡した。
小さな、小さな紙の袋に入れられたそれを。
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