姉・続き
あぁ、もうわかってきたみたいですね。
誤魔化したりはしませんよ、正直私もこのことを誰かに話したかったので。
私の家は四人家族でした、お母さんとお父さんと、私と妹。
決して、幸せな家庭と言えるような環境ではありませんでした。
お父さんのお母さん、私からするとおばあちゃんは考え方が根本的に古いんですよ。
男の子を産め、夫に逆らうな、跡取りを産めないんだったら離婚だ。
お母さんはこんな言葉を毎日浴びせられながら必死に子供を作り、最初に私が産まれ、次にみのりが産まれました。
絶望したでしょうね、身を粉にしてまで二人産んだのにどちらも女で、夫にも義母にも認めてもらえない。それどころか、食い口が増えたと罵られる。
しばらくして、お父さんは会社の秘書と不倫を始めました。
お母さんに隠すことすらせず。
たまに、不倫相手の秘書が嫌がらせをしてくるんです。
お父さんのスーツやカバン経由で、中にデートしている写真を入れたり、妊娠検査薬に赤ペンで印をつけて送りつけたり。
おばあちゃんもこのことは知っていました、知っていたのに何も言わず。むしろ肯定するような素振りまで見せたんです。
お母さんはしばらく、神社に神頼みに行っていました。
多分、お父さんに戻ってきてもらえるよう、お願いしていたんだと思います。
お母さんは気を病み、満足に動けないほどやつれました。
許せなかった。
お母さんをここまで追い詰めたお父さんも、嫌がらせをして鬱憤を晴らしている不倫相手も、それを無言で肯定するおばあちゃんも。
でも、それ以上に辛かったのは、私がお母さんを救う存在になれなかったことです。
私が男に生まれてきていたら、お母さんは痩せ細ったりなんてしなかった。
みのりも、こんな不幸せな家庭に生まれなくて済んだかもしれない。
私の性別が反対であれば……たったそれだけ。その程度のことで、私は家族を幸せにできなかったんです。
むしろ私は、お母さんを苦しめる存在として生まれてきてしまった。
だから、私はお母さんとみのりを幸せにする義務があります。
それから少しして、不倫相手が妊娠したと耳にしました。
性別は男の子。
あぁ、これでお母さんは用済みになってしまった。真っ先にそう感じました。
きっと、すぐにお父さんは離婚を切り出すでしょう。そうなったら、お母さんは私とみのりを一人で育てないといけなくなる。
路頭に迷う未来をすぐに想像できましたよ。
最初は、不倫相手をどこからか突き落として、流産させてやろうと思いました。
そうすれば、お母さんとの離婚を少しでも遅らせられると思ったんです。
でも、それだと私が捕まって、お父さんは別の相手と不倫するだけだと気づいてやめました。
そもそも、お母さんは不倫相手が不幸な目にあったところでスカッとするような人ではないですし。
なので、少しやり方を変えてみました。
お呪いを試してみることにしたんです。
この時、私はまだ小学校低学年ぐらいの年で、神頼みをするくらいしか方法が思いつきませんでした。
でも、呪いとかお呪いとかにはとても疎くて、とにかく自分でなんとなくやってみたんです。
藁人形を三つ用意しました。
二つは手のひらサイズの大きさ、もう一つは親指サイズ。
手のひらサイズの二つにお母さんと不倫相手の髪の毛を入れて、不倫相手の髪の毛が入った方の藁人形のお腹を切り裂きます。
そしてその中に親指サイズの人形を詰め込みました。
わかっていると思いますが、それぞれの髪の毛が入った方をお母さんと不倫相手、親指サイズのものは不倫相手のお腹の子に見立てます。
そうして毎日、不倫相手の人形をカッターで斬り、子供を取り出してお母さんのお腹の中に入れることを繰り返しました。
神様、どうかお願いします。不倫相手のお腹とお母さんのお腹を入れ替えてください。
そう祈りながら。延々と。
約半年が過ぎた日、起こったんです。
お母さんのお腹が急に膨れ上がり始めました、そう、成功したんです。お呪いが。
最初は信じられませんでしたよ、なんの確証もなく、当てずっぽでやった方法が本当にお母さんと不倫相手のお腹を交換しちゃうだなんて。
のちに分かったんですけど、私がやったお呪い。実は本当に存在していたらしいんです。
本家のお呪いでは、藁人形ではなく生きたネズミなどを使うみたいだったんですけど。無事にお呪いは効き、それどころか不倫相手が妊娠していた事実までもがお腹の子と共になくなってしまいました!(笑)
結局、お母さんは半年前から妊娠をしていた。不倫相手はお父さんの元カノでそれに嫉妬して嫌がらせをしていた。お母さんが弟を産んでから、みんなこの認識で罷り通ってました。
あぁ、世界ってこう言うふうに辻褄を合わせるんだなと妙に感動したのを今でも覚えてます。
でも全てがうまくいくわけではなかったです、不倫相手には妊娠していた時の記憶が残ったままだし、お母さんと妹は少し気付きかけていました。
その度に私が、「最初から妊娠してたでしょ!」って言って、辻褄を合わせ続けるんです。
結果、私の家はお母さんと、お父さんと、私と妹と弟の五人家族になりました。
家族みんなが幸せになれたんです、弟が産まれて。
お父さんとおばあちゃんは跡取りを手に入れた、お母さんはお父さんを繋ぎ止めれた、妹はお母さんとお父さんが揃った家で暮らせることになった。
私は、家族を幸せにすることができた。
弟も、あんなビッチの子として産まれるより、うちのお母さんの子として産まれた方が幸せでしたでしょう。
唯一悔やむとしたら、私がお呪いを完璧に遂行できなかったことです。
手順もあやふやで、生き物を使わなかったので、雑にお腹を交換された弟は生まれた時から歪な形をしていました。
頭が身体に見合わない大きさで、産まれた時から目が開いており、口には黄色い永久歯が生えそろっている。
成長する過程も不気味で、腕だけが異様に成人男性の者になったり、声がやけにしゃがれて低くなったり……
それでも周りからすると普通の男性に見えているらしいです。
お母さんは今、六十五歳になりました。
昔の仕打ちが今もまだ体を蝕み続けているのか、最近はベットの上で寝ているばかりです。
お母さんが死んだら、弟を殺そうと思います。
死骸は不倫相手が今入院している精神病院に届けて、片時も忘れないよう目に焼き付けてもらうんです。
あんな女、罪悪感に塗れて死ねばいい。
これで、私の話は以上です。
家族は幸せになりました。
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