前章 表裏の狂人2‐3

 車に乗り込んだ二人は、高速道路を走っていた。最初の方は運転に不慣れな一山のために、助手席の甲斐が指導するように声をかけていた。まるで教習生と教官のようだった。

だが甲斐の思うより、一山は呑み込みが早く、慣れてくると話しは徐々に事件のことになっていった。

「まったく、とんだ貧乏くじだよな」

「何がですか?」

「この事件、三件目はほぼ殺人で確定しているが、それ以外は今のところ、自殺の可能性の方が高い。俺達は、これが殺人だと立証するところから始めないといけないんだ」

 甲斐が、不満そうに言う。

「しょうがないんだけどな。管理官と俺は仲悪いし」

「どうして」

 甲斐は窓の外の景色を見ながら話す。だがその眼には景色ではなく、過去の松葉とのいざこざの様子が流れていた。

「まぁ、昔喧嘩しちゃってな。今でも、面倒な仕事を押し付けられたりするんだよ。管理官の命令だから、逆らうわけにはいかないけどな」

「色々あったんですね……」

「俺の話はいいんだよ。それより」

 甲斐が、視線を窓の外から一山へ移す。

「リョウは、この事件についてどう思う」

「どう思うって言われても」

「じゃあ、月城朱梨は本当に殺されたと思うか?」

「そうですね、」

一山は一拍おいて、

「高校生にとって、自殺がどういうハードルの行為なのかわかりませんが、月城朱梨さんは自殺するような人間じゃないと思います」

 と答えた。

 一山は再び、前から後ろへと流れていく景色に意識を戻す。標識には、この先にサービスエリアがある旨が書かれている。外は、標識が揺れるほどの強風だ。

「なんだ、リョウは被害者と知り合いか?」

 想像していなかった質問が飛んできた一山は、驚いて甲斐を見る。

「違いますよ。出る前に色々調べたんです」

「感心だな、リョウ。じゃ、報告を聞かせてもらおうか」

 甲斐が一山に話を促す。

「えっと、月城朱梨さんは城西高校の生徒会長でした。成績も優秀。友人らとの関係も良好。水泳部では全国大会出場が決定しており、部長も務めてました。

家族は、有名不動産グループ、月城グループの社長を代々努めてきており、おそらく、次期社長になったと思います」

 甲斐は一山の話をメモを取りながら聞いていた。

「確かに、充実した生活を送ってるように見えるな。自殺するようには見えない、ってのも頷けるな」

 甲斐がメモをしまいながら話す。

「ただ、まだ完全に殺人だと決まったわけじゃない。本人にしかわからない悩みってのもあるもんだ。これくらいの年なら余計にな。

先入観は危険だぞ。リョウ」

「はい」

 一山はその声に、背筋を伸ばした。

「甲斐さん。一旦サービスエリア入ってもいいですか?」

「あぁ、もう半分まで来たしな。なんかおごってやるよ」

 後輩思いのいい人だなと一山は思った。

「いつもありがとうございます」

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る